【複合災害】炎の竜巻「火災旋風」 囲まれた空間と風の作用で生まれる 密集市街地では要注意 災害をさらに広げる恐れ 関東大震災では大きな被害も 2023年01月24日
大きな災害では、複数の要因によって、思わぬ大きな被害をもたらす現象が現れることがあります。これを「複合災害」と呼びます。
その一つ、「火災旋風」について考えます。
■関東大震災で現れた「火災旋風」
日本の自然災害史上、最悪の犠牲者を出した1923年の関東大震災。
当時の絵に描かれているのが、高さ100メートルを超える炎の竜巻「火災旋風」です。
あらゆるものがふき飛ばされ、街は炎に飲まれました。その恐ろしい様子が絵に表されています。
【火災旋風にのまれた女性(2014年取材)】
「周りが暗くなってきたら竜巻が…竜巻の中に入った人は飛んで行ってしまった。私はうまい具合に落とされたから助かったんです。瞬間的に怖かったです」
1995年の阪神・淡路大震災の時、街では建物の倒壊とともに、神戸市内では長田区など住宅が密集する地域で火災が多発しました。
この時も「火災旋風」が発生していたとされています。
■「火災旋風」はなぜ発生するのか
火災旋風とは一体どのような現象なのでしょうか。
火災旋風を長年研究している東京理科大学の桑名一徳教授を、関西テレビ「報道ランナー」お天気キャスター・片平敦気象予報士が訪ねました。
この室内で実際に火災旋風を見せてくれました。
実験のために桑名教授が用意したのがアクリル板と燃料です。4枚のアクリル板で囲んだ内側に燃料を置きます。1枚を外して火をつけます。
【桑名教授】
「だいたい何もないと、10センチ20センチいかない程の炎になる」
そして、アクリル板を戻してみると…火の形が変わってきました。
【片平気象予報士】
「くるくると回り始めた。あ、立ち上がってきた。すごい。明らかに竜巻という感じになっています。すごいな」
炎が渦をまき、すさまじい速さで回転、これが火災旋風です。火災旋風は風が吹いている時に発生しやすく、その流れ方に特徴があります。
【桑名教授】
「隙間から風が入りますから回転するように風が流れます。基本的には炎があるところに旋回流、流れが回転するようなものをつくると火災旋風が発生します」
■屋外での実験で見えてきたもの
火災旋風が屋外で発生すると、どのように被害を拡大させていくのでしょうか。
番組では火災旋風の詳細な動きを再現するため、桑名教授のほか、火災旋風の屋外実験に詳しい関本孝三技術士とともに、安全な採石場で大がかりな検証実験を行いました。
市街地の広場で大規模火災が起きたことを想定し、燃料を入れるトレイを並べていきます。また、火災旋風が発生した場合、風速も計測します。
【片平気象予報士】
「今、風は、ほとんどないか、若干山の左から吹いてきているくらいです。実際どうなるのか火をつけてみたいと思います」
実験開始。トレイの燃料に火をつけると…炎が立ち上がり、火災旋風が発生しました。
【片平気象予報士】
「今、見えました?大きく立ち上がっています。時折、炎が組織化して集まって立ち上がっています」
次々に立ち上がる炎。火災旋風は一つだけではなく、いくつも発生することがわかりました。さらに、大きく移動する様子も確認することができました。
【片平気象予報士】
「気象の世界の竜巻のように、時折動いて同じ場所にとどまらないんだと感じました。炎の竜巻が、住宅密集地で現れてあちらこちらで動き回るとしたら、本当に怖い気がします。ただの火災じゃないですね。生き物のようにうねりながら動いているように感じました」
この時の風速はたった1m。人が体感できないくらいの弱い風でした。火災の規模が小さければ、弱い風でも火災旋風は発生するのです。
【桑名教授】
「炎が大きくなるのでそこから発する熱も普通の火災と比べると大きくなります。そこから周りに熱がたくさん伝わる。したがって(建物への)延焼の速度が上昇する。発生していない時に比べると火災の被害が大きくなりやすい」
1923年の関東大震災。
震度7の揺れが襲った街では大規模な火災が多発し、台風の接近で風速10m以上の強風が吹いていたため、火災旋風が発生しやすい状況となりました。
住民が避難した広場などで100個以上の火災旋風が発生し、およそ4万人が命を落としたのです。
阪神・淡路大震災の時は、火災旋風が発生したとされていますが、強い風は吹かなかったため、延焼がさらに拡大するまでには至らなかったとみられます。
桑名教授によると、火災旋風が発生するには火災の規模に合う風の強さが必要だということです。
Q大きな建物・ビルがあったりしたところでも発生しますか?
【桑名教授】
「ビル風(ビル近くで吹く強風)が吹いたりするので、風の向きと速度が火災旋風の発生しやすい条件がそろっていれば、どこでもでる可能性があります」
そこで、追加検証をすることにしました。番組では、ビルなどの高い建物を再現した「ついたて」を制作。
都市部で火災旋風が起きうるのかを調べます。
ついたての大きさは身長185センチ片平さん2人分を超える4.5メートルです。
【片平気象予報士】
「出ました、見てください、火をつけて間もない時に大きな渦巻きが出ていますね。音が聞こえますかね、音が印象的です」
激しく音をたてて燃焼する巨大な火災旋風が発生しました。その大きさは、ついたてを超えるおよそ6mになり、およそ1分間、燃え続けていました。
風がついたてに沿って流れ、渦が長時間発生していたのです。
【桑名教授】
「こんなに強い火災旋風が、しばらく安定して存在しているのを私は初めて見たので、ビルの後ろにある場合はかなり安定した渦が存在しているので、強い火災旋風が発生することが分かりました」
関本技術士は「火災旋風がどこでも起こり得ることを知っておく必要はあるが、過度に恐れすぎずに安全な場所へ避難することが大切だ」と話します。
【関本技術士】
「例えば、寒い地域では地震で家の外に置いてあるオイルタンクが倒れるなどして、大規模火災が起こり、火災旋風が発生する危険もある。様々な発生要因を考えながらも、今後、どのようにしたら火災旋風が起きなくなるのかということも研究していきたい」
■「火災旋風」のリスクがより高くなる住宅密集地
巨大な火災旋風が発生するような、大規模火災の恐れがある地域は数多くあります。そのリスクが著しく高いのが、住宅密集地です。
国は2年前、12都府県で危険な密集地がおよそ2200ヘクタールあると公表。
近畿では大阪府、京都府、兵庫県で特にリスクが高く、大阪府は全国ワーストです。
【片平気象予報士】
「道がどんどん狭くなってきました。さらに狭いですね。壁と壁を通っていく感じで、ガスメーターに頭がぶつかりそうです」
人が一人がやっと入れる道もあります。
大阪市によると、こうした地域では戦前から残る古い木造住宅が多く、区画整理が進んでいない場所もあるといいます。
【片平気象予報士】
「消防車が入ってこられるのかもというところがありますが、避難できるのかも心配です。例えばこの電柱が倒れてきた、この壁が崩れてきたら、出るルートがなくなってしまう」
住宅街を歩いていると、空き家も目立ちます。
【片平気象予報士】
「この建物、こう書いていますね、所有者様を探しています。もしかすると空き家かもしれません。住宅で密集地に空き家があると初期消火が遅れたりとか、そこにそもそも人がいるのか安否確認に手間をとることもあります」
大きなリスクを抱える住宅密集地。一度燃え広がった炎を消すことは非常に困難です。
大阪市生野区の町会では、大規模火災に備え防火対策を見直そうとしていました。目指すのは「初期消火の徹底」です。
まずは消火器の点検を行います。すると、ほこりをかぶっているものが目立ちました。劣化しているものや、使用期限を過ぎているものを使うと、破裂してけがをする恐れもあります。
【片平気象予報士】
「ひとつひとつ見ていくだけでも手間ですね」
【生野区六町会・髙橋龍博さん】
「そうですね。消火器だけで24本ありました。今までどこに設置されているかも分からなかった」
この地域では、初期消火には欠かせない「防火バケツ」を、地域住民全員に配ることにしました。また、バケツは住民たちで3カ月に一度補修するようにしています。
ただ、地域でできる対策には限界があります。
【生野区六町会・髙橋龍博さん】
「できる対策ね、ぶっちゃけた話、これ以上考えようがないんですよ。防災の意識を持ってもらう、火事や地震の時はどうするのかという発想を持ってもらえたら…」
身近に潜む炎の脅威。命を守るために何ができるのか考え、今できる備えを進めることが必要です。