北朝鮮との国境に位置するロシア極東のハサン駅。先週金曜日、この駅では、掃除や改修が行なわれていて、枯れた草地部分は緑色に塗り替えられたようです。地元関係者は取材にこう語ります。
【地元関係者】
「ハサン駅で金正恩総書記を迎えるための準備をしている。11日までに終えなければならない」
ロシアのウラジオストクで10日から始まった国際経済会議「東方経済フォーラム」。ここに金正恩総書記が来るのではと見られています。
4年前にも、金総書記は同じようにロシアを訪問していました。プーチン大統領に熱烈歓迎され、固い握手を交わし…さらに、夕食会で乾杯するなど、親密ぶりを世界に向けてアピールしていました。
今回の訪問でも、ロシアのプーチン大統領との会談が行われる見通しで、日程は12日と見られています。
4年前は、朝鮮半島問題や、両国の関係強化が議題となりましたが、今は少し事情が異なります。ロシアは、ウクライナへの侵略で北朝鮮は、軍事力を強化したことで、世界から批判を浴び孤立状態になっています。
9日、建国75周年の記念日を迎えた北朝鮮の式典にはロシアの軍の楽団が招待されました。プーチン大統領も祝電を送ったと北朝鮮は報じています。
4年ぶりに会う2人は何を話すのか、蜜月の裏側には何があるのか、この会談後どんなシナリオが予想されるのか。この辺りを、ロシア政治に詳しい筑波大学の中村逸郎名誉教授と、北朝鮮情勢に詳しい龍谷大学の李相哲教授の2人に解説してもらいます。
■会談の場所は?
今回の会談はそもそもどこで行われると考えられますか?
【筑波大学 中村逸郎名誉教授】
「今入ってきたロシアのインターファクスという通信社によりますと、明後日、水曜日に首脳会談が行われるということで、金正恩委員長はロシアに向けて出発したということです。ただ、会談場所に関しましてはウラジオストクも考えられますけど、今、有力視されていますのはウラジオストクの北にありますボストーチヌイ宇宙基地でどうやら会談が行われるという情報です」
その会談の場所を選ぶというのは何か意図があるんですか?
【中村教授】
「そうですね。実は13日、水曜日ですけどもプーチン大統領が事前のスケジュールで、このボストーチヌイ宇宙基地を訪問することになってます。そこで北朝鮮の金正恩委員長とロケット発射を2人で見届ける。軍事機密に関する話し合いをしますので、安全保障を考える上で、宇宙基地が一番適した場所ということだと思います」
この2人は何のために会うのでしょうか。
まずは北朝鮮側の思惑、「軍事技術と食料がほしい」です。軍事衛星や原子力潜水艦といった軍事技術。そして飢餓が深刻で食料を求めているということです。李教授の解説です。
【龍谷大学 李相哲教授】
「8月末に北朝鮮のSP20人くらいが、ウラジオストクと、中村教授がおっしゃられた宇宙開発基地、モスクワを訪問してるんですね。ですから、金正恩委員長の動線もだいたいそのルートをたどるんじゃないかな っていう観測はあったんですね。宇宙開発で両者が今後、密着していくというのも、今回の訪問で確認できると思います。ただ今、北朝鮮が何を望んでるかって言いますと大きくは2つあります。食料とエネルギー それと 最先端の軍事技術。北朝鮮は10月に軍事偵察衛生の打ち上げを約束してるんですね。ですから今回 3度目まで失敗すると大変なことになりますので、ロシアの何らかの技術支援を多分欲しがるだろうと。それから、今国内の食料事情がかなり悪いんですよね。50%近くが栄養失調に陥ってるので、ぜひとも食料が必要な状況ですので、北朝鮮からすると今回のロシア訪問は国内問題解決に非常に役に立つと思います」
つい最近、北朝鮮で戦術核の潜水艦を開発したというニュースもありましたが、自国で開発してるのでは?
【関西テレビ 神崎報道デスク】
「先日、金正恩委員長が出席して新型潜水艦の浸水式を行いました。北朝鮮側の発表では、ここに核ミサイルを搭載していって、世界のどこでもターゲットにできて攻撃できるっていう話だったんですが、韓国軍の見立てではこの潜水艦自体が旧式の物を改良したような物で、基本的な性能はかなり劣っていて、実際は使い物にならないんじゃないかということです。北朝鮮としては今回、ロシアのプーチン大統領と直接会話をして、例えばロシア製の潜水艦で、今使ってないものとか、これから廃棄するようなものでもいいから、なんとか中古の潜水艦を現物として手に入れたい。さらに北朝鮮は、本当は原子力潜水艦の技術が喉から手が出るくらい欲しいので、その技術を供与してもらうとか、その辺まで話が進めばいいなという風に狙ってると思います」
【李教授】
「北朝鮮が見せたその潜水艦というのは60年代、中国が作った潜水艦で全く使い物にならない。ペンキを塗ってるから立派に見えますけれども、その上に大きな発射管を載せられるように付け足してるんですね。だから水中に入ったらつぶれる可能性があるので、ロシアから潜水艦を借りるかあるいは技術をもらうか。ただ技術をもらっても、北朝鮮は潜水艦を作れるような工業力はないので、多分借りると思います」
なんとしても潜水艦がほしいという所なんですね。
ではロシア側にはどんな思惑があるのでしょうか。中村教授、「7月の映像がポイント」ということですが、詳しく教えてください。
【中村教授】
「今回のウクライナへの軍事侵攻でかなり兵士、兵力とも消耗してるわけですね。そうした中でロシアとしては 北朝鮮から軍事支援をもらいたいということで武器、弾薬、砲弾が欲しいということで、今回、首脳会談で合意されるのは北朝鮮の兵士5万人をロシアが迎え入れたいと、そういう内容も盛り込まれるという話が出てきてます」
7月の映像というのはどういうものでしょうか?
【中村教授】
「ロシアのショイグ国防相が自ら北朝鮮に乗り込んで、北朝鮮の軍事工場を視察した時の映像です。ウクライナ侵略に使う大量の砲弾、大量な弾薬、そして何と言ってもロシアは今、欧米から厳しい経済制裁を受けてますので、なかなか電子部品などが手に入らない。それを北朝鮮から少しでも回してもらって武器生産を拡大していきたいということでショイグ国防相が自ら北朝鮮を訪問したということです」
とはいえ、ロシアは大国です。北朝鮮を頼らなければならないほど追い詰められているということですか?
【中村教授】
「そうです。プーチン政権は 今回の軍事侵攻で追い込まれてしまった。あてにしていたのは中国なんですね。ところが今年の3月、習近平国家主席がモスクワを訪問しプーチン大統領と首脳会談をしたんですけども、その時に習近平国家主席は今回の戦争については中立の立場だということをプーチン大統領自身に明示したわけです。ですのでプーチン政権は、中国はもうあてにできないということで、追い込まれて北朝鮮に頼ってしまってるという状況なんです」
北朝鮮が頼られるぐらい武器などは豊富なのでしょうか?
【李教授】
「そもそも北朝鮮の武器システムは旧ソ連型でなので、すぐ持って行ったら使えるんですね。しかも朝鮮戦争の後、北朝鮮はひたすら武器をたくさん作っていますので在庫がたくさんあるんですよね。今の衛星写真とかでは、すでに北朝鮮とロシアの国境を列車が1日2回も渡ってるということも確認されてるので、すでに武器、弾薬は提供されているという状況じゃないですかね」
■この会談の後のリスクは?
北朝鮮とロシアが近づくことで今後何が起こるのでしょうか。
ロシアと北朝鮮、近づけば高まるのが世界のリスクです。北朝鮮側のリスクは核兵器を搭載できる潜水艦を手にするリスク。日本海への危険度が最高レベルに達するということです。
続いて ロシア側です。ウクライナ情勢に影響する恐れがあるということです。ウクライナとの戦争でロシアが巻き返すということです。2人が最大の懸念事項と指摘するのが「中国とロシア、北朝鮮による合同軍事演習」です。
【李教授】
「日本海で3カ国が軍事演習をすると、この3カ国は核を持ってる国ですよね。そうすると日本にとってはかなりの脅威になります。軍事演習をすることで、日本海が普通の状態にないということになり、アメリカがこっちの面倒を見なければならない。今、ウクライナの面倒を見なければならないのに、ここでまた北朝鮮とかが暴れてしまうとアメリカにとっては困った状況になりますよね」
そして朝鮮半島有事のリスク。これはどういうことでしょうか。
【中村教授】
「リスクは非常に高くなってきているということで、この3か国は今月末までには軍事演習を実施するのではないかといわれています。もし実施されるということになりますと1950年から53年の朝鮮戦争以来の大規模な軍事演習が行われるということです。ロシアの思惑としては、ウクライナの軍事進行がうまくいかない中で、アジアにおいて朝鮮半島において北朝鮮を使って第2の戦端を開く…そうすることによって アメリカ軍の力を分散させて少しでも ウクライナ戦線を有利な方向に持っていきたいという思惑があるんだと思いますね。ただ日本海と言うことになりますと、日本人にとりましても危険な地域になってしまうわけですね。日本の漁船が操業してますし、日本から韓国に向けて民間機も飛んでますので、非常に日本にとってもリスクが高まるということです」
【李教授】
「この朝鮮半島の有事に関して、最近、口にする専門家が多いんですが、中国は否定的な立場です。台湾侵攻を考えてる中国からすると、朝鮮半島はやっぱり管理したいんですね。だから少々日本海で暴れることはあっても、有事に発展することは当面はないのかな っていう感じはします」
■金正恩総書記の移動のリスクは?
ここで視聴者からのLINE質問です。
Q.移動中の金正恩総書記に何か起きることはない?
【李教授】
「列車で移動しますよね。それでロシアと北朝鮮の国境の町で ちょっと待たなければならないんですね。ロシアの鉄道の軌道はちょっと広い、北朝鮮は日本時代に作った幅ですから狭い。そこで、切り替えなければならないんだけれども、その時間帯が危ないんじゃないかと。動線が今すでにもう分かってるしね。だからその危険性はかなり高くなってるという見方はあります。ただアメリカは今の技術ではそのような場所を狙わなくても、いつだって標的は捉えられるので、私はそれはないと思います。アメリカとか 韓国が何かをするということはない。ただ不足の事故が起こる可能性ももちろんゼロではないという風に見た方がいいんじゃないですかね」
■日本に対する攻撃は?
次の質問です。
Q. ロシアと北朝鮮が近づけば日本にどんなことを仕掛けてくる?
【中村教授】
「日米韓の軍事協力に対して日本に対しても軍事的な圧力と言うのを相当かけてくるのではないか、日本も大きな最前線に立たされてしまうということです」
【李教授】
「やっぱり悪者同士が一緒になれば、ろくなことはしない。それから一言で言うと日本海がちょっと騒がしくなるというか緊張が高まるんですね。無法地帯になる可能性だってあるんですよね。そこが懸念されます」
■日本の各国との交渉はどうなる?
ではLINE質問もう一ついきます。
Q. この状況で日本は拉致問題、北方領土問題にどう対処すべきでしょうか?
【李教授】
「北朝鮮は今までは、アメリカを動かして困難を打開しようとした。しかしアメリカは今はもう動かないので、あきらめてロシアと中国に近づいている状況ですから、日本に目を向けることはないんですね。だから私は常に主張するのは、やっぱり日本は北朝鮮が困り果てて交渉したいという風に出てくるような状況を作ることです。圧力をもっともっと強くする必要があると思いますけれどね」
【中村教授】
「北方領土問題に関しては日本が領土を返還するチャンスがやってくるのではないかと思っています。といいますのも、プーチン政権が国際社会で孤立化し、北朝鮮に頼らざるを得ないほど窮地に追い込まれているということで、ロシア国内でも反乱が起こったり、プーチン政権の国内の基盤が脆弱になってきている。そうした中でプーチン政権が崩壊という事態も予想されます。そうなった時に、ロシア国内がバラバラになってしまう。まさに北方領土に今ロシア人が2万人住んでますけども、その人たちが日本に対していろんな支援を求めてくる。 そのチャンスを狙って日本は北方領土をまた自分たちのものに取り返チャンスっていうものが来るんではないかということで、今は北方領土の住民生活も私たちはしっかり見ていかなくてはいけない。返還のチャンスは来るということです」
【李教授】
「ロシアを動かすためには、日本が積極的に ウクライナを支援すること。そうするとロシアは焦りますよね 。チャンスが来るかもしれませんね」
軍事的緊張が高まってきているのも事実です。日本も厳しい舵取りが求められそうです。
(関西テレビ「newsランナー」2023年9月11日放送)