瀬戸内の“猫の島” 小さな島で猫が激増 フンの被害に「猫嫌いになりたくないけどイラっとする」 猫と共生の道はある? “地域猫”活動の取り組み 2023年10月14日
■“猫の楽園”?地元住民は困惑
兵庫県姫路市にある家島は、姫路港から船で南西へ30分ほどの場所に位置する、小さな島です。漁業を主な産業とする、人口約2100人のこの島では、数年前から急激に猫が増えています。
この島では、これまで野良犬が多くいましたが、保健所が野良犬を捕獲するようになると、数年前から今度は猫が大繁殖してしまいました。猫たちは人が近づいても逃げるどころか、エサを求めて甘えてきます。家島の猫は人間に対してほとんど警戒心がありません。
猫たちにとっては“楽園”のように見える家島ですが、この島に住む人にとっては深刻な問題があります。
家庭菜園を猫に荒らされてしまったという地元住民は「(異変に気づき)何やろと思って調べたら、ふんが出てくる」と困り顔です。
【地元住民】
「猫に水かけたんや。そしたら家閉めとんのに、どっから入ったのか知らんけど、洗濯物を畳んでるのに、私の下着だけにふんをして行った」
この女性は、プラスチックの剣山を洗濯機の上や流し台などにおいて、猫が近づかないように対策をしています。さらに被害は、神様を祭るこんな所にまで及んでいます。
【神社の宮司】
「これ(鈴緒)で遊ぶというか、爪とぎをする。床もちょっと汚いでしょ。猫の油です、全部。取れないです。いいことが一つもない。かわいそうだけど」
放っておくと境内が猫のふんでいっぱいになってしまうので、1日2回の掃除は欠かすことができません。
【神社の宮司】
「猫嫌いになりたくないんだけど、ぱっと見たら、猫がここでしゃがんでいたら、イラっとしますよ。今それ(ふんを)取ったばかりだけど、またやっているという、繰り返し」
■捕獲して不妊・去勢処置を行う“TNR”の活動
住民たちが被害に悩む中、猫の数は年々増加しています。環境省によると、猫は一度に平均5匹出産し、放置すると年に3回ほど出産します。計算上、1匹のメス猫から1年後には20匹、2年後には80匹、3年後にはなんと2000匹以上の猫が生まれてくることになるのです。
このまま放置できないと、住民たちの依頼を受けて対策に乗り出したのが、兵庫県で活動するボランティアグループ「チーム命の輪」です。彼女たちは猫を捕獲し、不妊・去勢の処置をした後、元いた場所に戻す“TNR※”という活動をしています。
※Trap=捕獲、Neuter=不妊・去勢手術、Return=元の場所に戻す
この日は猫たちが生息しているエリアや、猫が通りそうな路地に捕獲器を仕掛けます。巡回していたところ、猫を見つけました。人に警戒心がない家島の猫ですが、この時ばかりは警戒モードです。エサを使って捕獲器に誘導します。すると1匹の猫が捕獲器の中にあるエサに、恐る恐る近づきました。そして…。
【チーム命の輪 ボランティア】
「よし!一気に入ったね。おりこうさん。はい、1匹捕まえました」
そんな中、猫にエサを与えている人に遭遇。なぜ猫にエサを与えているのか聞いてみました。
【地元住民】
「たまに何も食べられずにガリガリな猫もおる。そんなん見てたらやっぱりかわいそう。ええことではないと思うんやけれども。エサちょうだいって寄ってくるしね。そんなんほっとくんは…どうしたらいいんやろうね」
家島の猫たちは、いつでもエサにありつける訳ではなく、必ずしも良い環境で生活しているとはいえません。環境省によると、飼い猫の寿命は平均14年に対し、飼い主のいない猫の寿命は4年ほどとされています。寿命が極端に短いのは、けがによる感染症や病気などが理由です。
■猫との共生…「地域猫を見守る環境づくり」
地元では猫のふんなどの問題に困っている人は少なくありませんが、猫との共生を目指したいと考えている人もいます。
【家島・宮区会役員 山戸美鈴さん】
「“猫を愛す島”じゃないけども、家族の一員みたいな感じでね。みんなが動物をかわいがってほしいなって思います。エサを(猫に)やりたい方は始末まできっちりとしてもらって、みんなが認めてくれるような社会、“地域猫”を温かく見守れるような環境づくりを、エサやりする人にやってほしいなと思います」
捕獲を行った翌日、使われなくなった幼稚園に即席の処置室がつくられました。今回捕獲した猫は19匹です。これらの猫の処置をするのは獣医師の野村芽衣さん。猫に1匹ずつ麻酔をかけていきます。
姫路市では飼い主のいない猫の不妊・去勢の処置に、メス1万円、オス5000円の助成金を出しています。今回もその助成を受けて行います。
【スぺイクリニック姫路 獣医師 野村芽衣さん】
「このタイミングでしか医療を施される機会がないという子もたくさんいますので、この機会にできる限りのことを負担なくしてあげるというのも、ゴールにしています」
猫の負担が少しでも和らぐよう、点滴を打ちます。
【野村さん】
「今点滴してビタミン剤の投与をして、抗生剤もしっかり2種類入れます。一回でも打っておいてあげることで、ちょっとでも体の免疫をつけてあげられたら」
不妊・去勢の処置をした印として、耳に桜の花びらを模した切れ目“桜カット”を入れて終了です。「はい、がんばりました」と、処置を終えた猫に優しく声をかける野村さん。
今回捕獲された猫たちは、地元住民に管理される“地域猫”になり、無事に元いた場所に戻されました。
【野村さん】
「島の人たちにTNRされた猫たちを、できれば管理して、エサをあげて、ふんの処理をして…という形で、そこに猫ちゃんがいることを許容していただいて、うまく人と猫が共生していく“地域猫”を目指していただけたらいいなと思います」
この問題は今回取材した家島に限らず、全国各地で起きています。不妊・去勢手術だけでなく、地域猫を管理する上でエサ代などの費用がかかるため、ある自治体では、ふるさと納税を活用して地域猫のエサ代などを工面しています。地域猫と共生する当事者の活動だけでなく、“外からの支援”も必要といえそうです。
(関西テレビ「newsランナー」2023年10月11日放送)