毎日のようにクマが出没したというニュースをご覧になっていると思いますが、山の中だけでなく、市街地でもクマの姿が増えているというのは怖いですよね。
今年はなぜクマの目撃情報が多いのか?関西では、なにか対策はしているのか?など、私たちも注意しなければならないことについて、クマの生態を研究している兵庫県立大学教授の横山真弓さんに聞きます。
■今年のクマ被害の原因は「生息数の増加」「クマが利口になった」「ドングリの不作」
全国の市街地でクマの被害が相次ぐ異例の事態になっていますが、なぜ被害が増えているのでしょうか。
今年のクマ被害の原因は3つの要因“トリプルパンチ”による影響が大きいとのことです。
・まず1つ目は「生息数の増加」。
クマの生息確認エリアは、2003年度に日本全土の39,5%だったのが、2017年度には54,8%まで増加しています。いままでクマがいなかったエリアにも、生息するようになったと考えていいんですか?
【兵庫県立大学教授 横山真弓さん】
「一時は絶滅の危険性に陥ったツキノワグマですが、今は生息数を増加させて少しずつ分布域を拡大して、もうすでに10年以上たっていますので、かつてはいなかった山にも生息しています」
・2つ目は、「クマが利口になった」。
生息域を拡大し、人間の街や食べ物を学習していった。
・3つ目は、「ドングリの不作」。
食べ物を求め、山からより街へ来るようになってしまった。
【兵庫県立大学教授 横山真弓さん】
「どんぐりの不作は今年だけの要因です。個体数が増えて徐々にいろいろな所に行くクマが増えて、人の生活圏に近いところに、おいしい柿や栗がたくさん実って放置されているということを少しずつ学習をしてきた結果、行動が大胆になってきり、人の生活圏で行動する時間が増えてきているので慣れてきているというのがあります。そういった中で今年どんぐりが不作で山の中にないので、里近くで大胆に食べてしまっているという状況です」
対策として庭先の柿や栗は食べない分を収穫するか、隠してしまうなどして“クマに見つからない”ようにすることが大事だということです。
■クマと人の共存…殺処分は仕方のないことなのか?
関西でもクマの出没が相次いでいます。
今年の1月から9月までのクマの出没情報に関する件数です。最も多い京都では526件、そして兵庫の268件と続き、関西ではクマの出没情報がなかった都道府県はありません。
このような現状の中で、兵庫県は2012年から人の生活圏に近づいたクマは殺処分しているということです。
いまクマを殺処分というのは賛否が出ていますが、仕方のないことなのでしょうか。
【兵庫県立大学教授 横山真弓さん】
「数が増えてきているので、ある一定数を超えると人間の生活圏にどんどん侵入してきてしまいます。人を恐れないクマはやむを得ず殺処分をせざるをえない。そうしないとクマと人との共存というのは果たせない状況になっていると思います」
殺処分を行ってこなかった結果、数が増えていったという背景もあるのでしょうか。
【兵庫県立大学教授 横山真弓さん】
「特にいま秋田で起こっているのは、増えている数に対して捕獲数が全然足りていないとこで、もしこの対策を兵庫県でしなかったら秋田のように今年なっていると思います」
クマの保護を通して増えすぎてしまったという状況ということですね。
加藤デスクは過去にクマハンターを取材されたことがあるそうです。
【関西テレビ 加藤さゆり報道デスク】
「兵庫県豊岡市で鳥獣害対策員というのがあります。市が設けていて人を一度でも襲ったことがあるクマやその予備軍になるようなクマがどこに生息しているのかを現地で調べる方がいます。その方にお話しを聞いたのですが、あくまでも狩猟が目的ではなく共存することが目的であって、有害な個体だけを選別して殺処分を行っているということです。その取り組みをしていても危険な個体は出てきてしまうので、柿の木を伐採するなどの人の手を入れることが大事で、それが共存につながるとおっしゃっていました」
人に危害を加える個体かどうかを判断できるのであれば判断したいですが、そういったことも踏まえて、殺処分は本当に必要な事なのでしょうか。
【兵庫県立大学教授 横山真弓さん】
「もともとクマやシカ、イノシシなどの野生動物は人間がかなり古くから薬や食べ物として利用してきて数が減りすぎました。その中で、全く利用しなくなってきたので今度は増えすぎという状況になるので、一体どこを求めていくのかという、非常に難しい判断を日々迫られながらやっているというところです」
クマと人間が共存するのは難しい判断をしないといけないということですね。
■関西で行われているクマ対策
他にも2018年から広域で頭数の管理をしています。兵庫県、京都府、鳥取県、岡山県が広域協議会をつくり、クマが街の近くまで来るほどの数に増えないように広域で管理しています。その結果、現在2つのエリアで800頭ほどの数で推移しています。近隣の都道府県と協力して管理するというのは、どのようなメリットがあるのでしょうか。
【兵庫県立大学教授 横山真弓さん】
「クマは広域に動き回ります。かつては兵庫県は兵庫県だけで生息数を推定していたのですが、実は同じクマが鳥取県に行った利してダブルカウントしてしまうことで、実際は数が少ないにもかかわらず多く見積もられてしまうとか、その逆もあります。主に県境をまたいで生息していますが、クマにとっては県境は関係ないので主な生息地を中心に、近畿圏では2つの個体群があるのでそれぞれで生息数を管理するという取り組みをスタートさせたところです」
このようにすることでより正確に生息数が管理できるということですね。
管理を進めているということですが、関西のクマ対策は進んでいるのでしょうか。
【兵庫県立大学教授 横山真弓さん】
「かつて絶滅の危険性が高かった時代からなんとか絶滅させないようにしようということで、不要な補殺を減らす対策とか殺処分をしても柿がまた次のクマが来てしまうので、不用意に引き寄せないような取り組みを進めてきた結果、今年近畿圏でもどんぐりの不作で普段クマが来ないようなところにも来てしまっていますが、秋田のような深刻な状況には至っていないので、これはいろんな方々が努力をした結果だと考えています」
地域の人や自治体、県と連携を取っていかなくてはいけないということですね。
■クマ被害に遭わないために、第一は「クマと遭遇しない」
関西でもクマの出没情報が相次ぐ中で、私たちも被害にあう可能性もあるかもしれません。
クマ被害に遭わないために、私たちにできる対策についても考えます。
・クマと遭遇しないように予防する
まず大前提として遭遇しないようにすることが大事です。 山に入る時は、高く短い音が出る鈴や笛を身に付け、歌ったりすることでクマに存在を教えていくことが大事になるということです。
【兵庫県立大学教授 横山真弓さん】
「鈴は高い音が鳴るもので、持って歩くことでずっと鳴っているものをクマ用と呼んでいますので、専用のものではないといけないというわけではありません。高い音を出すことでクマに人間が入るよということを、存在をまず教えるということです。私たちもさんざん山に入っていますけど、とてもうるさくして入っていますので1人で山に入っても出会うことは非常に少ないです」
・もしも遭遇してしまったら、ある程度の距離がある場合は手を振り、声を出し離れる
すごくリスクがありそうな気がしますが…なぜ声を出して手を振るのが効果的なんですか?
【兵庫県立大学教授 横山真弓さん】
「10メートルくらいまで近づくとクマスプレーを使わないといけないのですが、それより離れている場合は、実はクマは目が小さい動物で、小さいだけでなく視力も悪いのです。白黒の世界でものを見ていて目が悪いので、何か音がしても、なんだろう?と探すんですね。においとか音で探すときに、こちらは大きい生き物だというのを見せながら後ずさりをしたり、どうしても気が付いてなくて近づきかけている状況であれば、『キャー』『わー』とかだとかえって刺激してしまいますので、できるだけやさしく穏やかに大きな身振りで『おーい』と声を出すとよいです」
クマから見ても人間のサイズは大きく見えてもびっくりしますよね。
【兵庫県立大学教授 横山真弓さん】
「クマは怖くて、逃げるために一撃をくらわすという行動をとりますので、ある程度距離がある場合は、とにかく人間だぞ、怖いぞとアピールしていくと良いです。ただ、本当にできますかというと、こういう事態に私自身は陥ったことがないのでやったことはないです。ですから基本的に『クマと遭遇しない』ということを徹底していただければと思います」
人とクマのそれぞれの暮らしを守るためにも、まず人ができる予防をするべきなのかもしれませんね。
■関西のクマ対策は進んでいるが油断はしないで
視聴者からLINE質問が来ています。
‐Q:今後は都市部でもクマと遭遇する確率が高くなるのでしょうか?
【兵庫県立大学教授 横山真弓さん】
「個体数が増えていて、個体数管理がまだできていない地域では、しばらくこういった状態が続きますが、近畿圏ではかなり対策は進んでいるので市街地までということはだいぶ減ってきていると思います。ただクマの行動範囲はかなり広いので思わぬところに出没するという危険性はあると思っていただきたいと思います」
今年はどんぐりが不作ということが要因ということですが、どんぐりがどれくらい採れるなどは周期性があるのでしょうか。
【兵庫県立大学教授 横山真弓さん】
「どんぐりは年によってとれる量が異なります。今年は凶作の度合いが高いのですが、毎年近畿圏では調べています。必ずホームページで9月中旬ごろにクマの出没の予測を出していますのでそういったものをチェックしていただけると良いかと思います」
今年は特に多いというクマの出没情報ですが、自分は大丈夫と思わず、十分に警戒しクマに遭わないための予防をしてください。
(関西テレビ「newsランナー」2023年10月31日放送)