ひとり親や困窮家庭を支える“地域の冷蔵庫” フードロス解消にもつながる「コミュニティフリッジ」 おなかも心も満たすあたたかい支援【カンテレSDGsウィーク】 2023年11月24日
生活に苦しむ子育て世帯を救う“特別な冷蔵庫”が大阪の泉佐野市にできました。
支援を求める家庭の声から生まれた、その仕組みとは?
■食品や日用品…欲しいものを24時間自由に持ち帰れる「コミュニティフリッジ」
駐車場の一角にひっそりとたたずむ小さな建物。訪れた人たちが、建物の中に置かれた食品などを次々と取っていきます。米や野菜、レトルト食品のほか、歯磨き粉などの日用品もあるようです。
ここは“みんなの冷蔵庫”と呼ばれる、「コミュニティフリッジ」という施設です。並んでいる食料品などは全て個人や企業から寄付されたもので、ひとり親世帯などが無料で受け取ることができます。
この冷蔵庫を設置したのは、泉佐野市のNPO法人「キリンこども応援団」です。
【キリンこども応援団 川上智子さん】
「パスタとか主食になるもの、マヨネーズとか醤油とかの調味料は置いたらすぐになくなる感じですね」
こちらのNPO法人では、以前から子育て世帯に無料で食料を配る活動を行ってきましたが、実際に支援が必要な人たちの生の声に、もどかしさを感じていました。
【キリンこども応援団 水取博隆さん】
「近くのショッピングセンターで第3日曜日の午前中に、150世帯に食材を渡す活動をしていたんです。どうしてもそこに行けない家庭もあったり、150世帯に同じものを渡していたんですが、本当は世帯の子供の人数とか構成によって必要なものは変わってくるので」
この問題を解決するためにたどり着いたのが、「コミュニティフリッジ」です。
この施設は、普段は無人の状態で、事前に登録した人だけがスマートフォンのアプリを使ってかぎを開け、中に入ることができます。そのため、周囲からあまり気づかれることなく、24時間いつでも、欲しいものを自由に持ち帰れます。
また、食料品や日用品はすべてバーコードで管理されているため、誰が、いつ、何を持ち帰ったのかが分かる仕組みになっています。
■食の支援で支える“ひとり親世帯”…おなかも心も満たす
ある日のコミュニティフリッジに、親子がやってきました。
【母】
「ジュースにする?ゼリーにする?」
【子ども】
「ゼリーがいい」
この日訪れた橋本美樹さん(仮名・36歳)は、子ども5人を育てるシングルマザーです。
【橋本美樹さん(仮)】
「子供たちが欲しがっていたゼリーと、晩ごはん用にうどんと、レトルトの丼の素をもらいました」
帰宅すると、玄関で出迎えてくれた子どもたち。子どもの様子を気にしながら、家族6人分の夕食を手早く作っていきます。
この日のメニューは、コミュニティフリッジでもらってきたうどんです。さっとゆでるだけで食べられるうどんは、橋本家の人気メニュー。子どもたちは笑顔で食べています。
【橋本さん】
「前まではきっちり作ってあげないとって思っていたり、自分でこれだけの人数分を買うと高くついたり。“おなかすいた”とか、“もっと食べたい”と言わせるのは、さすがにかわいそうだし。どうしてもケチれないところなので。(支援が)あるのとないのでは全然違います」
コミュニティフリッジを使うようになってから、子どもとゆっくり過ごせる時間が増えました。
■「お店では売れないが十分食べられる」フードロスを解消し有効活用
コミュニティフリッジに置く食料品などは、泉佐野市が委託するフードバンクに届けられます。この日フードバンクを訪れたのは地元の和洋菓子店の方。社長自ら、お菓子を運んできました。
【むか新 向井新将さん】
「形がちょっとだけ悪くて商品にできないものとか、日持ちが少し迫っていてお客さまには売れないけど、お召し上がりいただける期間が十分残っているものとかを、少しでも喜んでいただけたら」
寄付をする企業や個人にとっても、捨ててしまう野菜や、売り物にならない商品を有効活用でき、フードロス解消にもつながります。
■コミュニティフリッジでの“気づき”をきっかけに「未来の支援」へ
あたたかい思いが詰まった食料品は、毎日のようにコミュニティフリッジに追加されています。
食料品をバーコードで管理することで、過度な持ち帰りを確認するだけでなく、家庭が直面する小さな変化に気づくきっかけにもなっています。
【キリンこども応援団 川上智子さん】
「(利用)頻度が上がっていたりとか、すごくたくさん持っていくことがあったり。もちろん回数に制限はないんですが、何かあったのかな?とか、どうされたのかな、というのが見えるようになっています」
この小さな気づきを、食料の支援から、その先の支援につなげようとする動きもあります。
コミュニティフリッジと同じNPO法人が運営する、小・中学生のための学習支援施設「まなBell」。週に2日、大学生スタッフなどが学校の宿題やテスト勉強をサポートしてくれます。費用はなんと、年間で3000円という安さです。
キリンこども応援団・代表の水取博隆さんは、子どもたちが学べる機会を作ることも大切だと考えています。
【水取さん】
「食べることへの支援は“今への支援”になるので、それも非常に大事なんですけど、コミュニティフリッジが始まりで、そこからつながった世帯の子供たちに学習支援や体験機会などにつなげていきたいというのが、僕たちの思いです」
コミュニティフリッジで出会った家庭にはNPO法人が定期的に面談を行い、必要に応じて、このような学習支援や行政支援の窓口を紹介しています。
コミュニティフリッジの利用は“ひとり親世帯”を主な対象にしていますが、さまざまな事情を配慮して、柔軟な支援をしています。
それは、行政支援につながらない、“はざま家庭”が多くいるためです。例えば、「夫はいるけど生活費を入れてくれず、ひとり親を対象とした行政支援を受けられない」、「3人子どもがいるが、妻は持病で働けず、夫の収入だけでは苦しい」などの家庭があります。
水取さんは「行政が支援対象の枠組みを決めざるを得ないのは仕方がない。支援から漏れた家庭をどう支えていくかが重要」と話します。
行政が一方的に悪いのではなく、支援にはどうしても限界があるということです。だからこそ、行政とNPOなどの民間が連携することが必要です。
コミュニティフリッジは現在、大阪に3カ所、全国に10カ所あります。寄付で成り立っているため、支援者の存在も重要です。
(関西テレビ「newsランナー」2023年11月22日放送)