今年の10月7日にイスラム組織「ハマス」とイスラエル軍の戦闘が始まってから、2カ月が経ちました。これまでに死亡した人はイスラエル側で1200人以上、パレスチナのガザ地区で1万6000人以上が死亡する事態となっています。
イスラエルとハマスの戦闘の現状を伝えるため、関西の若者たちが今もガザ地区で生きる人たちの声を発信し続けています。
■ガザ地区の学生らと交流する団体「しろる」
11月、大阪市内のカフェで、パレスチナ難民を取材したドキュメンタリーの上映会が開かれました。ガザ地区で起きていることの背景を知ろうと企画されたもので、多くの人が参加しました。
【京都大学・井茂絢花さん】「子どもが銃を持って歩いているシーンも結構あったんですけど、その背景に何があるんだろうって考えさせられる、そういう映画だなと思いました」
京都大学の井茂絢花さん(23歳)と斎藤ゆずか(22歳)さんは、所属する団体で、数年前からガザの学生との交流を続けています。
団体の名前は「しろる」。パレスチナ問題を「知ろうとする」という言葉を縮めたものです。
10月7日、パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム組織「ハマス」が突然、イスラエルを攻撃。戦闘員が境界線を越えてイスラエル側に侵入しました。これに対し、イスラエル側も報復として大規模な空爆を行い、地上侵攻に踏み切りました。事実上の「戦争状態」になっていて、イスラエル、パレスチナとも、多くの民間人が犠牲となっています。
それ以降、「しろる」のメンバーの元には、これまで交流してきたガザ地区の学生や、その家族から、現地の悲惨な状況がメッセージで送られてきます。
【ガザ地区からのメッセージ】「一瞬にして全てが灰と壊滅状態と変わり果てた。13人の家族を亡くした。全員が女性と子どもです」
【しろる・斎藤ゆずかさん】「正直、受け取ってしんどいメッセージもあるし、なんて返したらいいのだろうって思っちゃうこともあるんですよ。やりとりの中でもらったものだから、返さないといけないんだけど、でもなんて言ったらいいか分からない」
SNSは2カ月前から、攻撃を受ける現地の映像で埋めつくされています。
【しろる・斎藤ゆずかさん】「普段は、ほぼ毎日のようにパレスチナの人たちが結構インスタグラムに投稿しているんです。こういうことが起こる前までは。そういうグループもあったし、若者たちのグループがあって、発信したり、こういう状況だよって言ってくれたりしていたんですけど。それが今回なくなってしまっているので、本当に発信手段が奪われてしまった時に、世界が彼らのことを忘れてしまう」
■現地の惨状「きっと多くの日本人は知らない」
現地の人たちが伝えられない声を代わりに伝えようと、「しろる」は今、英語やアラビア語で届く彼らのメッセージを翻訳し、インスタグラムで発信しています。
【しろる・斎藤ゆずかさん】「“wide rounded balconies”…幅の広い円形のバルコニー。文章で書くと微妙だから、絵でもいいのかなと思った」
分からない言葉や言い回しを調べながら、慎重に翻訳しています。
避難生活を続ける、ある男性から届いたメッセージには、いかにそれまでの日常が一変したかがつづられていました。
「おじはガーデニングに熱心でした。彼の庭は小さな公園のようで、バラの小道や、金色の房がシャンデリアのように下がったぶどう棚がありました。たくさんのごちそう、数えきれない笑い声、喜び、子や孫の足音を聞いていました。私が伝えたいのは、この写真が、そのおじの家だということです」
写真には辺り一面が灰色の、がれきに埋めつくされた景色が写っていました。メッセージにあるような幸せな光景は、見る影もありません。
【しろる・井茂絢花さん】「そのメッセージの送り手が思い浮かぶというか。流れてくるニュースのがれきの前には何があったのかとか、改めて見つめ直す機会になったかなと思いました」
団体の活動は広がりをみせています。「しろる」の活動を知った、京都に住むガザ地区出身のムハンマドさん(37歳)と妻のアンハール(29歳)さんは、ガザ地区にいるほとんどの家族と連絡が取れていません。自分たちの思いを届けたいと、「しろる」と共に講演会を開催することにしました。
講演会の壇上で、ガザ地区の状況を語るムハンマドさん。
【ムハンマドさん】「ガザ地区には人権などありません。イスラエルは、ガザの周りに大きな壁を造り、海も制限されたエリアまでしか行けません。空港も20年以上前に破壊されました。多くの人が今年の10月7日に全てが始まったと思っていますが、このような状況はそれ以前から続いています」
妻のアンハールさんは、今回の衝突でイスラエル軍の攻撃を受けたガザ地区最大のアルシファ病院で、研究員として働いていました。彼女も悲痛な面持ちで壇上に立ちました。
【アンハールさん】「想像してみてください。大量のけが人や死者が次々と病院へ運び込まれているのです。1万4000人もの人がけがをしているといいます。そのほとんどが子どもたち。片手・片足、両手・両足を失くした子どももいます。ほとんどの人が医療を受けられず、次から次へと死んでいくのです」
悲惨な状況について語った講演の後、アンハールさんは次のように話しました。
【アンハールさん】「街を歩いている人を見ると思うのです。きっと彼らは私たちの生活を知らないと。何百万人という人が苦しんでいるけれど、多くの日本人は、きっと知らないのだろうと」
「しろる」の2人は、この講演会でどのようなことを感じたのでしょうか。
【しろる・井茂絢花さん】「パレスチナの人たちが伝えたいのは、10月7日以降のことだけではなく、それまでに何があったのか、パレスチナとは何だったのか、それを伝えたいということが、ムハンマドさんたちの話を聞いて分かりました」
【しろる・斎藤ゆずかさん】「今日、いろいろな感情がある中で、前に立ってくださって本当に良かったなって思っています。その声を受け取った人たちが、次の関心に向けて進んでいけたらいいなと思いました」
終わりが見えないイスラエルとハマスの戦闘。今、自分たちにできることは何なのか。学生たちの模索は続きます。
(関西テレビ「newsランナー」2023年12月7日放送)