2023年9月、宝塚歌劇団の劇団員が急死しました。
ハラスメントがあったのか…真相が見えない中、関西テレビの取材班は新たに、いじめによって劇団を辞めた女性を取材しました。1日15分の睡眠、長時間に渡る罵倒など、異様ともいえる体験を証言しています。
■劇団はハラスメント否定 元劇団員が語った実態とは
【元劇団員】「ハサミが飛んできたり、ノートが頭上に飛んできたり。よけると怒られるんです。『何よけてんだよ!』って」
輝かしい舞台の裏で何が起きていたのか。
【元劇団員】「私も同じようなことがあったので、亡くなった方がされていたことが頭に浮かんで。報道を聞いた時はショックでした」
匿名を条件に、宝塚歌劇団の元劇団員が関西テレビの取材に応じました。カメラの前で語られた、秘密の花園の実態とは。
2023年9月、兵庫県宝塚市で、宝塚歌劇団の宙組に所属する劇団員Aさん(当時25歳)が死亡しているのが見つかりました。警察は自殺とみています。
【遺族の代理人】「約1カ月半、わずか1日3時間程度の睡眠しかとれない状況が続き…」「指導などという言葉は当てはまらない。強烈なパワハラを上級生から受けていた」
遺族は、Aさんが長時間労働とハラスメントによって自殺したと訴えています。
遺族側弁護士の資料によるとAさんは、7年目以下の劇団員が出演する新人公演で、下級生をまとめる役を担っていました。そのため、1日のうち、稽古はおよそ15時間。帰宅後は自宅での書類作成に2時間半を費やし、睡眠時間は3時間ほどしかありませんでした。
死亡する直前1カ月の時間外労働は、過労死ラインを大きく超える277時間になっていたといいます。
【宝塚歌劇団 木場健之前理事長】「健康面の管理・配慮をもっとすべきだった。そういう点で、安全配慮義務を十分に果たせていなかったと深く反省しております」
劇団側は労働時間が管理できていなかったことを認めました。
一方で、故意にヘアアイロンを額に押し当てるなどのハラスメントがあったとする遺族の主張については…。
【宝塚歌劇団 井場睦之制作部長】「故人へのラインでのいじめや、ハラスメントという事実は確認できなかった。また、その他、故人に対するいじめやハラスメントも確認できなかった」
ハラスメントについては、真っ向から主張が対立。遺族は今も再調査を求めています。劇団の内部で、一体何が起きていたのか。
■長時間労働よりつらい…「延々と罵倒される」
亡くなったAさんと同時期に歌劇団に所属していた元劇団員の女性に話を聞きました。
【元劇団員】「自分の命を捨ててでも、このことを知ってほしかったのかなって。なんで助けてあげられなかったんだろう、話を聞いてあげればよかった」
ハラスメントが原因で劇団を退団した女性。新人公演で劇団員がどれだけつらい思いをするのか、自らの経験を語ってくれました。
【元劇団員】「報道で出ているように3時間しか寝られない時もあったんですけど、私の時は15分くらいしか睡眠がとれなくて、ベッドで寝てしまうと寝過ごしてしまうから、廊下にバスタオル敷いて寝て。お風呂も入れない。下級生は資料作りや小道具のことを資料にまとめて上級生に提出しなければいけないっていう作業が永遠に続くので」
女性も長時間労働があったと証言。しかし、これ以上に苦しかったのは…。
【元劇団員】「いろんな上級生に取り囲まれて、密室空間に閉じ込められて、その中で延々と罵倒され続ける。謝り続けないといけない。それで私も過呼吸になってフラフラになって、それでも怒られ続けていたので、これって死ぬまで続くんじゃないかなって思うことたくさんありました」
Q.こうした状況を異常だと思わなかった?
【元劇団員】「私はずっと、(劇団の)中にいる時からおかしいと思っていたんですけど、完全に洗脳されている状態なので、これが当たり前で、耐えればいい。文句言う方がおかしいというか。劇団や上級生に歯向かっているって思われるから、我慢している子たちが多い」
こうした異様ともいえる先輩からの指導は、宝塚音楽学校に入学した初日から始まると女性は話します。
【元劇団員】「到底、タカラジェンヌが使う言葉じゃないでしょって思うような汚い言葉で罵倒される」
清く、正しく、美しく…。そのモットーから大きくかけ離れた、タカラジェンヌの罵声とは…。
■「トイレ禁止」異常なルールを破ると暴力も
さまざまな内情を話した元劇団員は、「宝塚音楽学校に入学したその日から“絶対服従の文化”が体に植え付けられる」と証言しています。
1年生の“予科生”は私語禁止、笑顔禁止、手を体の横につけておくといった掟を守らなければなりません。初日からそれを破ると、上級生の“本科生”が…。
【元劇団員】「できてないと、40人の上級生に取り囲まれて、“連続謝り”っていう謝り方をしないといけなくて、脳しんとうを起こして倒れる子もいるし、過呼吸になって意識失う子もいるし。涙と鼻水で制服ぐちゃぐちゃになっても拭かせてもらえない。本科生には絶対に逆らってはいけない、絶対服従っていうのを洗脳させるためのガイダンスが最初に行われて、みんなそれでおびえあがって」
さらに、日常生活でも…。
【元劇団員】「トイレに行かせてもらえないっていうのが、一番しんどくて。朝学校に行く前に寮でお手洗い済ませてから帰るまで、トイレに行っちゃだめっていう暗黙のルールがあって。それで粗相してしまう子たちもいたし」
Q.どうやって対応していたのですか?
【元劇団員】「オムツつけている子がいたりとか、一切飲み物を飲まない、ご飯も食べない。お風呂に入れていないから、臭いし汚いし、トイレに行かせてもらえないし、人間以下。
人間として扱われない。でも『それはしょうがいないよ。1年目だから耐え抜くしかないよ』って、先生は言うだけ。助けてはくれないですね」
あいさつや掃除の方法などのルールを少しでも守らなければ、暴言を浴びせられ、暴力を受けることもありました。
【元劇団員】「『おい』とか『お前』とか、『死ね』って言われたこともあるし、『まじで顔も見たくねーんだよ』。到底タカラジェンヌが使う言葉じゃないでしょって思うような汚い言葉で罵倒される。階段の上から突き飛ばされたり、足ぱっくり割れる子もいたし、ハサミが飛んできたり、ノートが頭上を飛んできたり。よけたら怒られるんですよ。『何よけてんだよ!』って」
2年間の学生生活を耐えて、タカラジェンヌになってからは、上級生からの暴力はなくなりました。しかし、“度を越える叱責”は続き、さらに長時間労働も重なり、精神的に追い詰められたことで、女性は退団を決意しました。
【元劇団員】「ずっとしんどくて、親に『もう無理、もう行けない劇団に。やめさせてほしい』って言ったことが何回もあって。それでも親はがんばれとしか言いようがない。行かなかったら同期が責め立てられる。連帯責任なんで。そのこと考えたら行くしかない。精神がすり減っていって、最後のほうは上級生の目が見られなくて、床見て。自分じゃなくなっている感じ。笑顔もできない、しんどくて。会話もまともにできないみたいな感じで退団しちゃったので」
こうした実態を把握していないのか、歌劇団は肯定も否定もせず、次のようにコメントしました。
【宝塚歌劇団】「ご質問いただいている内容も含め、外部弁護士による調査報告書の内容にとどまらず、劇団員へのヒアリングや対話を続けながら、また、外部有識者のご意見もいただきながら、宝塚歌劇団がより良い組織となるよう、改革を進めてまいります」
さらに、女性はこのように語りました。
【元劇団員】「みんな、自分が言ったってばれたくない。誰が裏切り者か、誰が仲間なのか分かってない状態だから。話も持ち掛けられないし、OGで集まっても、この話一切しないんですよ。その雰囲気も異常だし、言えない雰囲気。怖いんだと思います、相当。みんな宝塚の怖さ知ってるから、余計に言いたくない。(Aさんが)罵倒されていたり、いじめられていた状況が目に浮かぶから、ショックと罪悪感でいっぱいで。一時期、この件に関して見たくなくて。でもやっぱり、証言しないと」
舞台が大好きだったのに、宝塚を去った女性。勇気を出して行った証言によって、少しでも劇団の体質が変わることを願います。
(関西テレビ「newsランナー」 2023年12月27日放送)