世界中で愛される作品を作ってきた京都アニメーション。
亡くなった35人、それぞれの方には「家族や友人」との日常がありました。
その日常を突然奪われ残された人々が、今の気持ちを話してくださいました。
作品にみた「娘の生きざま」
【石田奈央美さんの母】
「プラスチックのところはもう焦げています。金具だけは残っています。長い毛してたからゴムをくくってその上に自分の毛を巻き付けていたからゴムはどうもなかった」
事件に巻き込まれた石田奈央美さん(当時49)。
あの日、身に着けていた髪飾りが両親のもとに警察から手渡されました。
高校を卒業した後、一度は病院で働き始めたものの、夢を諦めきれずに京都アニメーションに入社。登場人物の肌や髪の色、風景の濃淡を決める色彩設計という重要な仕事を任されていました。
【石田奈央美さんの母】
「ようあそこまで頑張ってね、好きだから頑張ってたんだろうけど、あの会社があったからこそあの子も生きがいだったんじゃないか。仕事が好きだったから。まさかこんな形で終わるとは思わなかった。ほんまショックですね。まだ死んだみたいに思わない。帰って来るかなって錯覚起こすときもあります」
毎朝使っていた3人分の食器は、食卓に並ばなくなりました。
家では仕事のことはあまり話さなかったという奈央美さん。
両親は事件から1ヵ月を迎える前に、初めて娘が携わった代表作を一緒に見ました。
奈央美さんが心から愛した仕事でした。
【石田奈央美さんの母】
「すごいなええ。きれいやな、暗いところなんかすごいきれい」
映像から伝わった奈央美さんの新たな一面。
翌日になって父親が思いを話してくれました。
【石田奈央美さんの父】
「素晴らしいと思った。もやもやしてたけど、ああやって死んだから。でも待てよと、心の中で『奈央美って素晴らしかったんだな』と誇りに思える」
自慢の友だち…書いてくれた絵は宝物
人気作品「らき☆すた」でも監督を務め、会社を引っ張ってきた武本康弘さん(47)。
警察が犠牲者の身元を発表した2日後、スタジオの前に、青春時代を共に過ごした仲間の姿がありました。
【高校時代の友人】
「まだここにいるのかな、家族のところにいるのかなって思いで手を合わせた。昔話をしていました。ひとつひとつお話してお礼を言って」
高校の文芸部で一緒だった男性は、武本さんは部内で中心的な存在だったと話します。
【高校時代の友人】
「初めて映画の監督をやったときにチラシを持ってきてうれしそうにしていました。自分にとっては、自慢の友達ですよ。よかったなと思いましたね。たけちんと出会えたこと」
今年の正月も高校時代の仲間と集まり、家族のことなど何気ない話をしたといいます。
【高校時代の友人】
「これが(武本さんが)専門学校卒業して京アニに入ったころ。大阪で集まった時に練習やって書いていたこれも鉛筆一本で書いているんですよ。この細い線、はっきりした線を鉛筆一本で。とんでもないなと思いましたよ」
次々にヒット作に携わり、友人にとっても期待の星だった武本さん。
しかし今はもう、話をすることも、練習で書いた画を見せてもらうこともできません。
【高校時代の友人】
「これは、ずっと僕の宝物だった。なんぼでもこれから生まれてくるものだから1枚ぐらい僕が持ってにやにやしてもいいかなって思っていたんですけど、そうもいかんので、みんなに見てもらってもいいかなって思って」
今も娘に対する思いだけが…
京都アニメーションで約20年間、着色や仕上げを担当した津田幸恵さん(41)。
「映画けいおん!」や「涼宮ハルヒの憂鬱」などに関わり、作品の繊細な色づかいを支えた一人です。
【幸恵さんの父・伸一さん】
「焼けた第一スタジオ、あれをつくるときにね、幸恵が屋上の菜園をするということでその係を引き受けたようでなんか結構、自分から進んで色んなことをかって出ていたみたい」
父親の伸一さんは、仕事をしていくなかで、だんだん明るくなる娘の姿を感じていました。
親元を離れて一人で暮らしていた幸恵さんのマンションに残された私物は、近いうちにこの家に運ばれます。
【幸恵さんの父・伸一さん】
「楽しく遊んできた、その時その時の衣装とかだいぶ衣装関係があるみたいなんで、たぶんほとんど処分しますけど、置いておきたくはないですね逆に」
この事件で、被害者の名前が公表されるのをためらう家族も多くいます。
その中、伸一さんは事件当初から取材に応じ、実名を出すことを承諾しました。
【幸恵さんの父・伸一さん】
「やっぱり京都アニメーションに勤めている人間として(幸恵さんの)名前を知っている人はいるはずなんで、その人らに対してはっきりとあそこで死んだんだということを知らせた方がいいと思って」
娘の命が突然奪われてから1カ月近くが経ちました。
伸一さんは、今も幸恵さんへの思いだけを持ち続けています。
【幸恵さんの父・伸一さん】
「悔しさよりも、今、幸恵が…いなくなったというかそういう変な感じ。なんでこんな目にあわないかんかったのという思いはある。娘への思いだけで犯人の『は』の字も入る余地はないですよ。そんな余裕ないですわ、まだまだ…ほんまに」