【特集】交際相手の男が…2年間も娘に「性暴力」 なぜ娘のSOSは母親に届かなかったのか 「家庭内性被害」の実態、当事者3人が語る 2019年10月16日
「幸せな、ごく普通の家族」に見える、一枚の写真。
その中で笑顔をうかべる男は、肩に手をまわしている女の子に対して性暴力をふるっていたとして、有罪判決を受けました。
私たちは今回、被害にあった女の子、母親、そして加害者の男、当事者3人に話を聞くことができました。
子供がどうして声を上げられないのか、届かないSOSについて考えます。
“性暴力”くり返した男…『万引きと一緒』
マスク姿で現れた大隈英知被告(49)に、記者から質問が投げかけられていた。
――Q:判決どのように受け止められていますか?
――Q:(懲役)5年ということをどのように?
質問に無言を貫く大隈被告。
2010年から2年間にわたり大阪府の自宅で、交際相手の娘に繰り返し性交したとして15日、懲役5年の実刑判決を受けました。
判決前、大隈被告が語っていたのは…。
【大隈英知 被告】
「(本人にも母親にも)ばれないしいけると思ってたんです、万引きと一緒ですね。誰も見てないから。気づかれていないからいける。でもいつかはばれる。わかってることとやっていることは違いました」
相手は当時、中学生の女の子でした。
「自分」よりも…「家族」を守った娘
被害を受けていたゆうりさん(仮名)。
【ゆうりさん(仮名)】
「されてるときは…どういうふうに思ってたんですかね。早く終わんないかなとか、早く死ねたらいいのになぁとかですかね」
5歳の時に両親が離婚。
母親は女手一つでゆうりさんと息子2人を育てていました。
小学生のとき、同居し始めたのが、当時母親と交際していた大隈被告でした。
父親のように慕っていた男性、しかしあるときを境に…。
【ゆうりさん(仮名)】
「ズボンずらされたり、上を捲し上げられたりっていう感じが多かったです」
――Q:小学校高学年くらいから?
「そうですね。どんどん回数が増えて、それがどんどん内容的にひどくなっていって…」
初めは遊びだと思っていたことが性被害だと気づいたのは、中学生になってからでした。
母親が風呂に入っている間や家族が寝静まった後にゆうりさんの部屋に入ってきた大隈被告。性行為に及ぶようになりました。
【ゆうりさん(仮名)】
「嫌だなって思ってずっと寝ているフリをしていました」
「きょうは来るだろうか、きょうはされるだろうかという恐怖感はずっと続いてあるけど、日常的に繰り返され過ぎていて、悲しいとか辛いとか衝撃的なこととして受け止められなくて」
感情を押し殺すようになっていったゆうりさん。その時には被害を打ち明けられませんでした。
【ゆうりさん(仮名)】
「何が一番嫌って、されていることで家族が壊されることが嫌だったので。されていることが表面化しなければ家族は一緒にいたり生活はできているわけで。それを壊さないでいるほうが私にとっては大事だったんですよね、自分のからだを守ったり、心を守ったりすることよりも」
家庭内の性的虐待、年間1500件も…”氷山の一角”
全国の児童相談所で扱う、家庭内の性的虐待は年間1500件。
しかし専門家は、小さい子供の場合、性被害に遭っていると気づかないケースも多く、この数字は氷山の一角にすぎず、気づいたとしても、多くの子供は、ゆうりさんのように被害を隠そうとすると指摘します。
【愛育研究所 山本恒雄客員研究員(元児童相談所職員)】
「お母さんを裏切っている、隠し事を持っているという罪の意識があって、それがもし明らかになったら家にいる居場所を失うとか、お母さんの愛情を失ってしまうとかを恐れるので、被害について言えない」
母親は…「被害に気付かなかった」
母親は同じ家で暮らしていましたが、被害に気付かなかったと話しました。
初めて被害を打ち明けられたのは去年のことでした。
【ゆうりさんの母親】
「サーって青ざめる、血の気が引く感じでしたね。登校拒否にもなるし引きこもるし、数々の不思議な『なんで?なんで?』ってずっと思っていたことが、『だからか』と…」
逃げたい…発した「小さなSOS」が届かない
ゆうりさんが発していた「SOS」。
初めは、自分の体を傷つけることでした。
【ゆうりさん(仮名)】
「最初に自分を自傷したのは太ももの付け根だったんですよね。そこになんでしたかっていうと、脱がしたらすぐに見えるじゃないですか。見たらちょっと”ひく”かなって思って、相手が。萎えるかなぁとやってたんですけど、一向に効かないから、色んなところにやってみて…」
【母親】
「いつの間にか長袖しか着なかったんですよ。夏の暑いときに『半袖は?』って聞いたら『半袖なんか着ない』って。SOS出してたとは思うんですけど、なんやろなぁ…出してるけど気づかせないようにするので、娘もね」
【ゆうりさん(仮名)】
「中学2年生の時に、このままじゃだめだなぁと思って、どうにか自分の中で解決できたり逃げられないかと模索してベランダの中で寝てみたり、押し入れで寝てみたりしたんですけど、あまり上手くいかなくて…」
【母親】
「彼に相談したんですよ。『娘がベランダで寝るんだけど、どうしよう』って。そしたら『心配やな、言うわぁ』ってベランダに行って娘に『そんなとこにいたら風邪ひくから家に入り』って…」
SOSは「届かないまま」でした。
被害は、ゆうりさんが実の父親の元で暮らすようになる中学3年まで続きました。
“時効”を主張する被告に「実刑判決」
ゆうりさんは3年前に結婚し、夫と1歳になる娘と3人で暮らしています。娘ができたことが過去を振り返るきっかけとなり、母に被害を打ち明け、裁判をすることを決めました。
「本人にもバレていないと思っていた」と話していた大隈被告。
その一方で、“同意があった“と匂わせる、理解に苦しむ発言も…。
【大隈英知 被告】
「ものすごいなつかれてましたよ。ずっとべったりくっついていちゃいちゃしたりとか、抱き着いてきたりとか。疑似的な恋愛感情みたいなものがあったので。二人にしか分からないことなので。そういうことも含めて彼女は一切の記憶を消したいでしょうし、よく自殺せずにいてくれたなと思います」
裁判の中で、大隈被告は性交を認める一方で、「期間は短く、7年の時効が成立している」と主張していました。
しかし裁判長は、犯行は起訴内容通り2012年までの約2年間続いたと時効の成立を認めず、実刑判決を言い渡しました。そして「被害を誰にも打ち明けられなかった女性の精神的、身体的な苦しみは甚大」と指摘しました。
表面化しづらい子供への家庭内の性暴力。
被害から逃れるためにできることはあるのでしょうか。