今年9月に発覚した関西電力の幹部による金品受領問題。
キーマンは、今年3月に死去した福井県高浜町の森山栄治元助役です。
原発がある高浜町で、大きな影響力を持っていたとされる元助役、問題が起きた背景を関係者の証言を基に辿ります。
菓子箱の下に隠されていた金貨。
中には、小判の形をしたものも。
さらには、商品券やスーツ券、現金まで。
福井県高浜町の森山栄治元助役が関西電力の幹部に渡していた金品の数々です。
【八木誠 前会長】
「地元に影響力の大きな方だったことは間違いございません。地域全体に関してこの方の発言力が大変大きかった」
【岩根茂樹社長】
「やはり森山案件は特別だと。過去から続く森山氏の影に怯えてしまった」
関西電力の去年の社内調査では、原子力事業に関わった幹部など20人が、3億2000万円相当の金品を受け取っていたことが判明しました。
関西電力社内では人権研修の講師を務め、「先生」とも呼ばれていた森山元助役。
かつて一緒に仕事をした元部下は、こう証言します。
【森山元助役の部下】
「優れた人やなと思っていたんです。県の対応とか、関西電力の対応は助役にみな任されていましたから、町長は」
原子力発電所がある町の実力者と、その影に怯える関西電力。なぜこんな構図が出来上がってしまったのでしょうか。
==1980年1月==
一つのきっかけとなったのが、1976年に町議会で可決された、高浜3号機・4号機の増設誘致決議です。これを機に、全国から原発反対派が集まる中、森山元助役は町議会で、建設推進に向けた発言を繰り返します。
【原発反対の町議】
「原発の増設を再考すべきではないか?」
【森山助役(当時)】
「この問題ですけれど、これは安全な中でやることであるならば進めていく。関西電力に対して申しておりますことは町と共に共存共栄が基本姿勢」
地元の同意をとりつけた森山元助役。
その存在感は、日に日に増していきました。
【元部下の男性】
「関西電力から助役に話さなあかんということで。毎日毎日30分なり1時間なり、仕事の状況を話されたり…日課です」
助役を退任した後、原発工事に関わる複数の会社で顧問や相談役などを務めて関西電力幹部への働きかけを続け、金品を贈る行為も徐々に本格化します。
【関電元幹部①】
「工事には“地元の業者を”と繰り返していた」
【高浜町の建設業者】
「ある業者は工事の受注額の『7%』を元助役に渡していた、と聞いた」
さらには、原子力発電所の保全や点検をする、関西電力の子会社の顧問も務めていました。「発注」「受注」の双方に関わり、自らも“利益”を得ていたことになります。
こうした中、2004年8月には福井県の美浜原発3号機で配管が破裂し蒸気が噴出する事故が発生。高温の蒸気を浴びた作業員5人が死亡し、6人が重軽傷を負いました。
この事故の後に関西電力は、原発事故などへの対応機能を強化するため、大阪にあった原子力事業本部を福井に移転。その結果、元助役と幹部が会う機会が増えたとみられます。
辞任した八木前会長が金品を受け取っていたのも、原子力事業本部長を務めていた頃でした。
そして2011年3月。
東日本大震災の後、国は、原子力発電所の新しい規制基準を作り、地震や津波などへの安全対策を強化します。
【関電元幹部②】
「東日本大震災以降、安全対策工事をするために、工事がいっぱいできた。ぼんぼんぼんぼん工事が出て、あの人の懐が潤ったやろう」
工事が増えたことに伴うように、森山元助役から贈られた金品の額も増え、2017年には1億円に達しました。常識では考えられないほどまでに増えた金品の額。
こうした事実を隠したまま関西電力は、全国でも有数の「原子力依存への道」を進めていたことになります。
原子力発電のコストについて研究している専門家は、「今回の問題には肝心のことを隠そうとする企業体質が現れている」と指摘します。
【龍谷大学・大島堅一教授】
「原子力が重要だっていうことであればね、重要であればこそ隠しておかないといけないものがあってはならない。安全性についてもそうだし地元同意も当然そう。環境面とか安全性の面で色んな懸念を持っている方々も含めて透明性を確保して同意を取る。そうすると正当性があって説得力も出てくる」
原子力事業に対する不信感を高めることとなった、森山元助役との「不透明な関係」。
関西電力は、「失墜した信頼」を取り戻すことができるのでしょうか。