関西きっての歓楽街・北新地。
6月5日に、ようやく営業を再開したクラブがあります。
【クラブ山名・山名和枝さん】
「2カ月ぶりにシャンパンやわ」
多くの著名人が愛し、”北新地の伝説”とも呼ばれる、クラブを取り仕切るのは、山名和枝さん、84歳。
この道60年、北新地と共に歩んだ山名さんにとっても、営業再開までの道のりは、険しいものでした。
【吉村洋文・大阪府知事】
「夜のナイトクラブバー、夜から早朝にかけて密室で接客するエリアの利用については、自粛をお願いしたい」
大阪・北新地のナイトクラブなどで相次いで感染者が発生。
その後、緊急事態宣言が出され、クラブやキャバレーは休業に追い込まれる事態に。
北新地の活気は、失われていきました。
老舗三大クラブの一つ、「クラブ山名」。
山名さんは、休業するかどうか悩んでいました。
従業員の生活を守るためにも、営業はなんとか継続したい。
ただ、ある常連客の一言で、決断しました。
【山名さん】
「『トップを走っている店のママさんは東京も大阪も明日から休みだよ。君は代表しているような立場にいながらやる(営業する)のはやめておけ』と言われました。身を切られる思いがしますが、休むべきだと決心した次第です」
店を構えて、52年。初めての長期休業でした。
山名さんは、24歳でこの世界に飛び込みました。
映画で見て抱いた、夜の社交場への憧れ。ただ、浮き沈みの激しい業界を生き抜くのは、簡単ではありません。
自分の店を、北新地きってのクラブにまで押し上げた原動力は、”人への好奇心”でした。
【山名さん】
「人が好き。すてきな人に出会うと燃えるんですね。嬉々としちゃって、こんな人と話せる仕事に就いたのは、なんてラッキーなんだと。それで60年たっちゃったんですよ」
新型コロナウイルスは、山名さんの生きがい、「人とのつながり」を奪っていきました。
再開に向け、スタッフには不安も
休業中の店内にラフなスタイルの女性たちが集まり、声を掛け合っています。
【スタッフ】
「あ~!」
休業から、約2カ月が経った、この日。
店には、久しぶりにスタッフの姿が。
【スタッフ】
「おはようございます」
【山名さん】
「なつかしいね。みんなかわりましたね。私は太ってね」
【スタッフ】
「なっちゃんは、やせたらしいですよ。(山名さんの体温を測り…)36.5度です」
ミーティングでは、これからの営業に関して話し合われました。
【クラブ山名関係者】
「休業要請が少し解除されるということで、クラブ山名もそろそろ営業できるんじゃないかということで、とにかく今三密を防ぐということが一番大事ですので、だいたい(客は)10人くらいが限界かなと」
【スタッフ】
「席の取り合いになるのは想像できるから。お客さんをいっぱい持っている女の子とか、ママとかを優先的に入れられたら、ほかの女の子の席が取れない」
【スタッフ】
「営業が始まって、席に限りがあって、女の子が頑張ったら、頑張るほど取り合いになるじゃないですか?」
【山名さん】
「そんなに心配しなくても、どなたも見えなかったということにもなりかねない。(営業再開を)待ちかねてるけど(店を)開けたからといって客が走ってくるほど世の中甘くない」
”新たなスタイル”で…52周年の日に営業再開
営業再開は、6月5日。
クラブ山名、52周年の記念日に決まりました。
~6月5日 営業再開当日~
【スタッフ】
「楽しいわ。2カ月ぶり。化粧の仕方をすっかり忘れちゃった」
【山名さん】
「すっかり太ってしまって3キロぐらい太った」
さあ、北新地へ。
【他のクラブのママ】
「ママ、まだ?」
切磋琢磨してきた北新地のクラブのママたちがお祝いに駆けつけました。
【他クラブのママ】
「えらいねえ。全部したんや」
店内にはアクリル板での仕切りが各席にセットされていました。
ママたちはその一角に座り、まずはお祝いの乾杯です。
【他クラブのママ】
「52周年おめでとうございます」
【山名さん】
「今回は営業できないと思っていたので、とてもうれしいのと、同業者に祝っていただけるのは格別ですね」
【他クラブのママ】
「いかがですか?2カ月お休みしてて?」
【山名さん】
「この仕事しかできないし、この仕事ならやっていける自負がある」
久々の営業、お客さんも次第に増えてきました。
【スタッフ】
「お隣、大丈夫ですか」
【男性客】
「向かい側でいいですよ」
パーテーションで仕切られたテーブルにマスクの着用。接客での座る場所も、お客さんにお伺いしています。スタッフも客も、慣れない環境の中での再スタートです。
【他クラブのママ】
「お休みの間は?」
【山名さん】
「私ってこんなにだらしないなと思うくらい、テレビばっかり見てね、これ以上休みいらない。死ぬまで働きたい」
2か月前の日常が、少しずつ戻ってきました。
【スタッフ】
「ありがとうございました」
【スタッフ】
「やっと大好きな新地に帰ってこれて、うれしいです。ママがスーパースターなので、皆で高めていきたいと思います」
【山名さん】
「この仕事は、誠心誠意頑張っている店だけが残ると思っている。私が生きている限りは大丈夫だと思っています」