介護施設の入居者の家族が直面する現実です。
入居者の安全を守るために家族の面会を制限する施設がまだ多くありますが、家族と会えない人たちはどのような思いでいるのか。
認知症を患う妻との面会を待ち望む男性を取材しました。
認知症の妻との…大切な面会の時間
滋賀県大津市に住む梅本高男さん(77)。
7年前に妻の安子さん(77)が認知症と診断され、慣れない料理を作るようになりました。
【梅本さん】
「初めて作ったらまずいね、食べてられへん。それを恐る恐る出した。そしたら(妻が)『お父さんこれおいしいね』って言ってくれて、もっとおいしいもの作ろうって思ってそれから約6年ずっと」
年月が経つにつれ症状が悪化し、介護の負担は、大きくなっていきました。
【梅本さん】
「(妻が)『あんた誰やと、なんでここにいてるんやと。ここは私の家だと、出て行けって』言う。その時は僕もストレスがいっぱいたまっていたから、僕も言い返して『これはわしが建てた家だと、お前こそ出て行け』と。僕が言った声よりも大きな声で言い返してくる。それが2日くらい続いたのかな、3日目か4日目に気が付いたら妻の首を絞めかかっていた」
5年間、在宅介護を続けましたが、精神的にも肉体的にも限界を感じ、安子さんを特別養護老人ホームに入居させることに。
【梅本さん】
「きょうはお父さんやっちゃんに会いにきた」
【妻・安子さん】
「お父さんなんだよね?」
梅本さんは、毎日のように施設に行き、安子さんと出来る限り一緒に過ごしました。
施設に入居してからは、面会のこの時間が2人にとって大切な時間になりました。
しかし施設でインフルエンザが流行し今年2月から面会が禁止に。
さらに新型コロナウイルスの影響で、会えない状況が続きました。
面会制限で…妻の動画を「朝昼晩見ている」
(ペットのインコ)
『梅本ピヨちゃん。おじいちゃん』
外出もままならなくなり、梅本さんはペットのセキセイインコに話しかけることが多くなりました。
そんな中、少しでも安子さんの様子を知りたいと、施設に頼んで動画を撮影してもらいました。
【梅本さん】
「これ見たらね、毎日妻と会える。今は朝昼晩見ている」
動画を見て自らを安心させることが日常になりました。
それでも、会えない日々が不安を募らせます。
【梅本さん】
「おそらく僕の顔もわからないと思う。だから取り戻せるかどうかですわ、今度面会できたときにね」
また再び、安子さんに会いに行ける日まで。
それまでは、インコのピヨちゃんがお話し相手です。
【梅本さん】
「やっちゃん、やっちゃん。好き好き好き…ん?言える?」
家族と入居者の距離に悩む介護施設
重症化しやすい高齢者の安全を守るため、介護施設はこれまでにない対策を迫られています。
大阪府堺市の老人ホーム「ひだまり」。
介護の際、どうしても密着するため、職員はマスクにフェイスシールドをつけ、消毒もこまめに行っています。
この施設では、5月から屋外に限って面会を再開しましたが、感染防止に加え、熱中症にも気を配らなければなりません。
【浦佐智子 施設長】
「家族と入居者の自由をあまり奪わないようにと考えているので、室内よりかは良いかなと思っているけど、暑すぎたらだめですよね。暑すぎたら外用の扇風機を置いてとか対策はとります」
家族と入居者のためにどういう対応をとるべきか。
模索が続きます。
ガラス越しの夫に…手を差し伸べた妻
安子さんが入居する施設でも6月に入ってようやく、ガラス越しでの面会が許可されました。
【梅本さん】
「やっちゃん、お父さんってわかる?ちょっと思い出しているのかな?」
マイクを使い、話をします。
梅本さんは、2人の思い出の写真を渡しました。
【梅本さん】
「山奥でクマが怖くてね、秋だからクマが出てきて、大きな声で話しながら滝まで行ったよね?覚えているかな?もう忘れてしまった?」
写真を手でなぞるように見ていた安子さん。
ふと顔を上げ、手を差し出してきました。
【梅本さん】
「握手?これガラスだから握手できない、いつも手をつないで歩いていたのにね。今は怖い怖い病気が流行っていてだめなんよ」
安子さんは病気が進行し、言葉を発することが難しくなりました。
それでも梅本さんは会えなかった時間を取り戻すかのように優しく話しかけます。
【梅本さん】
「道の駅行ったら、お母さんがこんな山奥で泊まるのはいやだって言って」
「そこからほかの道の駅を探して走っていった」
思い出したのでしょうか、安子さんが恥ずかしそうに笑いました。
【梅本さん】
「良い顔やわ。もう安心した。いつまでも元気でいてよ」
ガラス越しで、いつものように手を握ってあげることもできません。
それでも、久しぶりに安子さんに会えました。
【梅本さん】
「生の顔がすぐ見えるし、顔色もすぐわかるし。目の動きとかもみんなわかるからね。これほどいいものはないですわ。こっちの話もちょっとわかるのかな。うんうんとうなづくのが何とも言えない。それとニコって笑ってくれるのも。きょうは最高、最高でした」
どんな形であっても、会いに行く
あちこちに安子さんとの思い出の写真が飾られた自宅で、アルバムをめくる梅本さん。
静かなリビング。
そこへ、梅本さんを励ますように、インコの声が響きました。
(ペットのインコ)
『やっちゃんやっちゃん、好き好き好き』
ずっと一緒に過ごしてきた2人。
どんな形であっても、体が動く限り会いに行きます。