ブースター問題は「表向きの理由」
河野太郎防衛相が突然発表した陸上配備型の迎撃ミサイル「イージス・アショア」の配備計画停止。その理由について河野防衛相は迎撃ミサイルが切り離す推進装置「ブースター」を演習地内に確実に落下させることが難しくなったと説明。
防衛省によるとブースターの制御がソフトウェアの改修だけでは対応できないことがわかり、ミサイル本体側のハードウェアを改修するには2000億円超の費用と10年以上の期間がかかるとして停止を決定しました。ただ、このブースター問題はあくまでも「表向き」の理由で、本当の理由はイージス・アショアでは太刀打ちできない新たなミサイル「ゲームチェンジャー」の登場にあるとみています。
イージス艦の負担軽減のはずが…
そもそも、日本のミサイル防衛はイージス艦の迎撃ミサイルSM3と地対空誘導弾PAC3の二段構えでした。ただ、イージス艦の場合、乗員300人程度を乗せた状態で海上に展開し、1日24時間365日を交代しながら警戒を続けなければなりません。人員的にもコスト的にも海上自衛隊への負担は大きく、その負担を軽減させるために地上配備型のイージス・アショアが必要とされていました。
イージス艦を弾道ミサイル警戒から解放することで、中国の海洋進出が懸念される南西諸島などへの警戒監視に充てることができると期待されていました。
「ゲームチェンジャー」になりうる2つのミサイル
しかし、そこへ登場したのが「ゲームチェンジャー」になりうる新型ミサイルです。ひとつは、北朝鮮が「新型戦術誘導兵器」と呼ぶ短距離弾道ミサイルです。ロシアが保有する「イスカンデル」ミサイルの技術をベースに改良した兵器とみられ、高度100キロ未満の比較的低い高度を飛翔し、発射後に不規則に軌道を変えることから、通常の放物線を描く弾道ミサイルを迎撃するSM3では対処が難しいとされています。
さらに、もうひとつの脅威として登場したのが「極超音速ミサイル」です。名前の通り音速を大幅に超えるスピードで飛翔するミサイルです。最速では音速の20倍、対地速度では時速2万4500キロ、分速に直すと400キロにもなり、東京・大阪間を1分余りで飛ぶ計算になります。既に、ロシアや中国はこの極超音速ミサイルを実戦配備しているとされていますが、今のところ迎撃できる兵器は存在しません。急速に発展するミサイル技術にイージス・アショアでは対処できない恐れもあります。
アメリカはすでに超音速ミサイルを迎撃するシステムの開発に着手していますが、まだ実現する見通しは立っていません。さらに、極超音速ミサイルは、従来の早期警戒衛星では探知しづらいため、新たな衛星システムの配備も必要とされています。
どうなる?日本のミサイル防衛
イージス・アショアの配備停止することで、今後日本のミサイル防衛をどうするのかを考えなければなりません。来年にも8隻体制になるイージス艦をさらに増やす案もありますが、自衛隊の負担はさらに増すばかりです。自民党内からは、攻撃兵器に対し常に受け身となる防御兵器には限界があるので、ミサイルの発射台を直接攻撃する「敵基地攻撃能力」について議論すべきだという意見も出てきています。イージス・アショア停止は「英断」との評価もありますが、課題は残されたままです。
カンテレ「報道ランナー」 神崎博 報道デスク