異例の裁判で「逆転勝訴」
【記者リポート】
「泉佐野市側の逆転勝訴です!地方自治体が国を訴えた異例の裁判で、泉佐野市の逆転勝訴です!」
「過度な返礼品でふるさと納税を集めた」として制度から除外されて1年。
「逆転勝訴」を受け、大阪・泉佐野市の千代松市長は…。
【泉佐野市・千代松大耕市長】
「今回の判決に関して、泉佐野市の主張を全面的に認めていただいたというところで、私自身もホッといたしているところ。国に勝つことができたというのは地方自治においては新しい一歩だ」
泉佐野市を”全国1位”にした「キーパーソン」
ふるさと納税をきっかけに、長い間、国との関係に翻弄されてきた泉佐野市。
人口10万人あまりの地方自治体がなぜ、ふるさと納税で全国一位になれたのか…。
そのキーパーソンが、市の成長戦略担当理事・阪上博則さんです。
【泉佐野市 成長戦略担当理事 阪上博則さん】
「こんにちは、お世話になります、よろしくお願いします」
泉佐野市は、去年、ふるさと納税の制度から除外されましたが、制度への復活を信じて、準備をすすめています。泉佐野市は「返礼率5割」を呼び水に寄付金額を伸ばしましたが、法律で「3割以下」と規制されたため、事業者とともに返礼品の改定をすすめています。
この日、阪上さんは地元の料亭に返礼品に関しての打ち合わせに訪れていました。
【ワタリガニ専門店「割烹松屋」 濱田憲司さん】
「半分ワタリガニで、半分イクラ入れるとかね。そのイクラがけるんかどうか分からないですけど」
【泉佐野市 成長戦略担当理事 阪上博則さん】
「地場産品の規制の所に、ちょっと引っかかってくる可能性はありますね。いいのかな~?例えば松屋さんの所で、醤油漬けにしてないイクラを仕入れて、自分の所で醤油漬けして、加工されるっていうのであれば、大丈夫なんです」
1000億円超の負債のため…緻密な戦略で
【泉佐野市 成長戦略担当理事 阪上博則さん】
「ふるさと納税をやりだしたきっかけは、一千何百億という負債を抱えていて、期待していた関空もなかなかやっぱり盛り上がらないっていうような状況だった。我々は財政が非常に厳しい中で、新たな政策を打っていくことが難しかったので、その原資を稼ぐためにふるさと納税に取り組んでいった」
制度が始まった、2008年度はわずか「694万円」だった寄付金額。
他の自治体の肉や海産物などを取り入れた豊富な品揃えと、返礼率5割をうたうことで人気を集め、2017年度には「135億円」を突破。その後、18年度には全国トップの「497億円」を集めました。
その背景には、阪上さんの、緻密な戦略がありました。
【泉佐野市 成長戦略担当理事 阪上博則さん】
「ふるさと納税の4大サイトって言って、そういう所のランキングに位置してるような返礼品が、どういうものか載ってるかっていうことは、結構ずっとこういうの調べていますね」
説明しながら見せてくれた書類には、詳細なデータが記されていました。
【泉佐野市 成長戦略担当理事 阪上博則さん】
「(この書類は)今日、実は部外の方に初めて見せたぐらいなので。次に来る返礼品が、『じゃあ何なのか』、『次のトレンドが何なのか』っていうのを、早くキャッチして、それをしっかりと供給量をしっかり出していくっていうのが、当時としては戦略としてもっていました」
総務省からの通知は…あくまで「指導」
過熱する返礼品競争に総務省は「高額品はダメ」「返礼率3割以下」「地場産品に限る」と相次いで通知を出してきました。
しかし、通知はあくまで「指導」で、従うかどうかは本来、地方自治体の判断に任されているのです。
そして、「戦い」の始まりは2年前…
【野田聖子総務大臣(2018年当時)】
「泉佐野市については、何度となく総務省から個別の要請を続けてきました。真摯に受け止めて頂いて、1日も早く必要な見直しをなさっていただきたい」
これに対し、泉佐野市は…
【泉佐野市 成長戦略担当理事 阪上博則さん】
「名指しでご指摘いただいたようですが」
――Q:「行き過ぎ」を助長したりする要因を作っている認識は?
【泉佐野市 成長戦略担当理事 阪上博則さん】
「ございません」
そして、泉佐野市が返礼品に上乗せして、アマゾンのギフト券を提供する取り組みがさらなる対立を深めました。
【石田真敏総務大臣(2019年当時)】
「ふるさと納税制度の根幹を揺るがし、制度の存続を危ぶませるものと考えています」
しかし、制度からの除外が色濃くなる中、「返礼品収入をあてにしていた事業者を倒産させないため」批判覚悟で突き進んだといいます。
ようやく「法改正」も…新制度から泉佐野市は「除外」
そして、去年6月、ついに総務省は法律の改正に動きます。
返礼品を「寄付額の3割以下」で「地場産品に限った」自治体だけが参加できる新制度に移行しました。
ここで、はじめて法的なルールを作ったのです。
しかし…
総務省は「これまでに高い返礼率で多額の寄附を集めたことは制度の趣旨に反しているので、参加させない」として、泉佐野市など4つの自治体を新制度から「除外」したのです。
【泉佐野市 成長戦略担当理事 阪上博則さん】
「僕らはもう本当に、これオフレコの方がいいかな?『ホンマに今の国って、何するか分からへんな』って思っていて、ひょっとして今回もし仮に勝てたとしても、別の何か理由を作って、また除外しに来ようとするんじゃないかなっていうくらい、国のことを信用してないですね」
そして戦いの場は法廷へ。
「法的ルールがない時期のふるまいを理由に新制度への参加が認められないのは違法だ」として泉佐野市は総務省を相手取って裁判を起こします。
しかし、高等裁判所では、主張が認められず敗訴。
上告するにあたり、泉佐野市が頼った法学者は、「最高裁で国が勝てば地方自治は死んでしまう」と訴えます。
【神戸大学名誉教授(行政法) 阿部泰隆弁護士】
「総務省は、『けしからん』と思うんなら、さっさと法律作ればよかった。何年も指導してみたり、自由にやってよいと言ってみたり、あれこれわけのわかんないこと言っていた。『指導』ですから従う義務はない。最高裁で泉佐野市が勝てば、国と地方の関係がきちんとした法治国家になって、よりよい社会にいくし。最高裁で泉佐野市が負けたら、地方自治は窒息状態になる」
除外は…「裁量を逸脱していて違法」
泉佐野市だけでなく、今後の国と地方のあり方も左右する裁判。
最高裁が出した判決は…
【最高裁判所】
「原判決を破棄する。(除外した国の)決定を取り消す」
最高裁は、「法改正の前に返礼品について法律で定めた規則は存在せず、泉佐野市を除外したのは裁量を逸脱していて違法だ」と指摘。
「たしかに泉佐野市の返礼品の提供は社会通念上節度を欠いていたが、今後も同じ対応を継続するとは推認できない」として、国に対し泉佐野市を除外した決定の取り消しを命じました。
文字通りの「逆転勝訴」となったことに阪上さんは…
【泉佐野市 成長戦略担当理事 阪上博則さん】
「市民の皆様、事業者の皆様にご期待にお答えしたいと思っていたので本当にほっとしているというのが正直な所」
また市役所で勝訴の知らせを聞いた千代松市長は…
【泉佐野市 千代松大耕 市長】
「決して本市が新制度に指定をされたというところではまだございませんので、これ以降、早期に1日も早くふるさと納税制度に復帰できるようにすすめさせていただきたい」
最高裁判決から3日…
総務省は、「判決で指摘を受けたことは地方自治を所管する立場として重く受け止めている」として、除外していた泉佐野市などの制度への参加を認める通知を出しました。
参加が認められたことをうけて、泉佐野市は、「地場産品規制」「返礼率3割以下」などの法令を遵守した上で、返礼品の準備が整い次第、7月中旬にも寄付の受付を再開したいとしています。