関西屈指のリゾート地和歌山県・白浜町にある南紀白浜空港。
東京からの「玄関口」として業績を伸ばしつつあったなか新型コロナで危機的な状況になっています。しかし、それを逆手に取り「今だからこそできる」町づくりに乗り出しています。
新型コロナの影響で…飛行機が全て運休
【南紀白浜エアポート・岡田信一郎社長(48)】
「本来だったら電気がついてエアコンがついてっていう状況ですけど、運休していると電気は消す、お店は閉まっている。エアコンも切っているので暑い感じですね」
照明が落とされた、空港のロビー。
新型コロナウイルスの影響で、飛行機が全て運休するという、想定外の事態が起きました。
【南紀白浜エアポート・岡田社長】
「早くこのボードに文字が現れてほしい。光がともってほしい」
東京・羽田空港との間を1日3往復の飛行機で結ぶ、南紀白浜空港。
去年の春に民営化されました。
それまでは和歌山県が運営していて、収支は毎年3億円ほどの赤字。「少しでも赤字を減らしたい…」と考えた和歌山県は、民間事業者を公募して、運営を委ねることにしました。
【和歌山県・仁坂吉伸知事】(おととし7月)
「観光客がガバガバ来るというような。ものすごく立派な、活力のある空港にしてほしい」
選ばれたのは、”事業の立て直し”を得意とする、東京のコンサルティング会社などが設立した「南紀白浜エアポート」。
社長の岡田信一郎さん(48)はかつて、関西空港の民営化を手掛けた、「経営再建のプロ」なのです。
【南紀白浜エアポート・岡田信一郎社長】(おととし7月)
「お客さんをたくさん呼んできて、地域の活性化に頑張っていきたいと思います」
旅客の数を、10年で倍の25万人。
20年後には30万人とすると掲げ、運営を始めた岡田さん。
世界遺産も多く、自然が豊かな和歌山県への観光客・ビジネス客の誘致に積極的に取り組み、初年度から飛行機の利用者を1割ほど増やすことに成功していました。
順調な滑り出しかと思われましたが…新型コロナウイルスの感染拡大に伴う「緊急事態宣言」で、県をまたぐ移動が制限されたことで、状況は一変しました。
【南紀白浜エアポート・岡田信一郎社長】
「これが5月17日の最終便ですよね」
見せてくれたスマホには、その最終便の飛行機の動画がありました。
この便を最後に、羽田との定期便はゼロに。
空港の収益の柱である「着陸料」が入ってこなくなりました。
【南紀白浜エアポート・岡田信一郎社長】
「これは涙が出ましたね。胸が熱くなって”また飛んできてほしいな”と。本当に空港が閉鎖してしまうような危機感と寂しさがありましたね」
しかし、そこは「経営再建のプロ」。
転んでもただでは起きません。
今だからこそできることとは何なのか?会議を開いて知恵を出し合います。
【南紀白浜エアポート・岡田信一郎社長】
「コロナの影響でどーんと下がっていて、5月は(月間旅客数が)319になっている。悲惨な状況で、何とかこれを、ここから打開してこの水準まで上げていかないといけない」
「今は『守り』と『攻め』両方やらないといけない。コロナから回復した時、日本の観光地すべてがゼロベースに戻っている中で、和歌山、白浜が一歩先んじて上に出たい」
「飛行機が飛ばない」日々。
しかしそのタイミングを利用して、「空港が抱える課題」の解決策を、推し進めることしました。
滑走路をよく見ると…所々にひび割れが。
飛行機が着陸する際の「重み」で生じます。
このひび割れが大きくなると、滑走路で飛行機が傾く危険などが生じるため、毎日、車に乗った人の目で点検しています。
しかし。
【南紀白浜エアポート・池田直隆さん】
「車に乗りながら人間の目で確実に気付くというのは正直難しいのが事実ですね。小さいひびが広がっていく過程を人間の目ではなくドラレコを使って早めに検知していく」
南紀白浜エアポートは、大手電機メーカー・NECと共に、「滑走路を自動で点検するシステム」の開発を進めています。
市販のドライブレコーダーで滑走路を撮影し、人工知能でひび割れを検知。
このシステムが完成すれば、より精密な点検ができるとともに、経費も節約できる可能性があります。
空港そのものだけでなく、地域の企業を巻き込んだ、新たな取り組みも。
こちらは和歌山を拠点に営業する紀陽銀行。
窓口での営業を終えた支店の中に、南紀白浜エアポートの社員の姿が。
【抗菌業者(デルフィーノ)の社員】
「このカウンターの上に手をついたりされると思いますので」
【南紀白浜エアポート・森重良太さん】
「ドアノブとかやっとかないと皆さん触る」
ウイルスへの不安が蔓延する中、東京の抗菌業者と協力して「地域を丸ごとウイルスから守る取り組み」を始めたのです。
南紀白浜エアポートが仲介役として、地域の企業に抗菌業者を紹介。
「和歌山全体の安全性」を打ち出すことで、今後、訪れる人を増やしたいと考えているのです。
【紀陽銀行朝来支店 高岸徹支店長】
「感染を気にされる方がいて、椅子にも座らない。立ったままのお客様もいるので今回、依頼することになりました」
救急車などにも施されているというこの抗菌コート。
白浜周辺では、空港や銀行の他に、アドベンチャーワールドのレストラン、観光バス会社など、すでに20カ所以上で実施されました。
さらに、これまで培ったノウハウが注目を集めています。
南紀白浜エアポートは去年1月から「顔認証システムを使って手ぶらでショッピングや観光ができる」という実験を進めてきました。専用サイトで顔の情報を登録しておけば、実験に参加している商業施設なら、顔の情報だけで買い物などをすることができます。
【南紀白浜エアポート・森重良太さん】
「手ぶら・顔パス・キャッシュレスというのを元々コンセプトとしてやっていましたので、結果的にコロナの感染予防でも非接触によるサービス、おもてなしが有効に活用されるのではと考えています」
飛行機が飛ばなくなってから1カ月。
6月中旬、南紀白浜空港に、ようやく飛行機が戻ってきました。
【南紀白浜エアポート・岡田社長】
「良かった、良かった。ジェットエンジンの音というのも、非常に心地よいものがありますよね。残念ながらまだきょう一日(往復)一便の状態ですから、これがやっぱり一日3回来るようになったらいいなという風に思っています。まあ、これからですね」
民営化の直後に経験した、大きな試練。
「飛行機が飛ぶ日常」の大切さを噛みしめながら、「空港を拠点とした地域の活性化」に取り組んでいます。