「なにわの台所」と呼ばれる大阪の黒門市場。
最近は外国からの観光客で大変な賑わいでしたが、新型コロナウイルスの影響でその姿は消え、閑散とした状態になっていました。
再び、お客さんを呼び戻すために…奮闘する市場の人たちの姿を取材しました
大阪・ミナミの黒門市場。
ここに店を構える老舗の和菓子屋・三都屋。
創業から70年以上が経った今、“かつてない危機”に直面しています。
【三都屋・北岡裕一さん(52)】
「これまだ、人通るようになったほうよ。本当にガラガラやった。(市場の)南の端まで2人とか、歩いている人。そんな状態が続いたからびっくりやったわ。このままではどうしようもない」
江戸時代から続く黒門市場。
年の瀬には、正月用の食材を買い求める客が多く訪れることで知られ、「なにわの台所」とも呼ばれています。
一方でここ数年は、年々増加する外国人観光客が「美味しいもの」を求めて集まる“観光スポット”となっていて、去年は一日3万人が訪れていました。
しかし現在は…約3割の店がシャッターを降ろしたまま。
新型コロナウイルスによって、外国人観光客の姿が消えてしまったのです。
和菓子の三都屋を営む、北岡裕一さん。
早朝から工場に立ち、老舗の味を守り続けています。
【北岡さん】
「今までの売り上げと比べたら数段下がっているからね。常に7~8人はここで作業をしていた状態だったから」
今年4月の売り上げは、コロナの前に比べて、20分の1にまで落ち込みました。
北岡さんの妻で、三都屋の社長を務める由実子さん。
二人は悩みに悩んだ末に、「ある決断」をしました。
【北岡さんの妻・由実子さん】
「このまま全員を路頭に迷わすわけにはいかないなと。今残ってくれているスタッフだけでも守ろうと。申し訳ないですけど何人かの方にはお願いして、雇用を継続することが難しいということをお話して。びっくりしますけど皆さん“わかっています、大丈夫ですよ”って」
【北岡さん】
「一生懸命、今まで一緒に頑張ってきていただいたスタッフの方にね。悔しいですね」
黒門市場の人たちは皆、同じような危機感を抱いています。
【ニューダルニー・吉田清純さん】
「本当に天と地を我々見た感じですね。もちろん商いも、売り上げもそうですけど、人の流れですよね。人の流れが天と地。そのぐらいの差があります」
カレーの店「ニューダルニー」を営む、吉田清純さん(72)。
店の売り上げは、以前の3割ほどにまで減りました。
振興組合の副理事長も務める吉田さんは、黒門市場は「外国人の客に頼りすぎていた」と話します。
【吉田さん】
「商売人ですからその時、その時の世間の体制に目を向けて商いするのが当たり前と思っているので、それ(外国人客への対応)は間違いじゃなかったと思っています。でも余りにもたくさんの方がいらっしゃったのでちょっと対応しきれない。日本のお客様にも対応し切れなかったという点は多々あるのかなと思っているんですよね」
黒門市場で話を聞いてみると。
【近所に住む女性】
「私らにしたら人少ないほうが歩きやすいので、足が悪いから突き飛ばされる。そんな日が多かった」
【仕入れに来た男性】
「観光客と、僕らみたいな地元で商売している人とのバランスがもうちょっと取れればいいかなと思ったことはありましたね」
【大和果園・迫栄治さん】
「みんなのお店も相変わらず大変やと思うし、うちの店も非常に厳しい状況で。黒門市場としても積極的にお客さんを呼んでいこうと」
黒門市場に活気を取り戻すために、何ができるのか?
この日、北岡さんが中心となって、対策会議が開かれました。
【北岡さん】
「今まで外国人が多かったから行きにくかったんやけど、今やったら買い物に行きやすいから久しぶりに行きたいわとかいうお客さんの声が増えてきているらしいから、もう一度日本人のお客さんに喜んでもらえる商品を出せば、そこは通じると思います」
黒門市場の自慢は、やはり「食材」。人々を魅了してきた「なにわの味」を、100円か500円で楽しめる「ワンコイン市」を開催することを決めました。
北岡さんは早速、ワンコイン市に参加する店舗を回り、「特別な商品」を販売してもらうよう呼びかけます。
<<みな美>>
【北岡さん】
「てっさを500円ぐらいで出してくれへんかなということでお願いしたけど、いける?」
【みな美・秦悦史さん】
「いけます」
【みな美・村上建治さん】
「ほんまは泣いていますけど、ハハハ」
【秦さん】
「限定、今のところ3日間で60皿と考えているんですけど」
【北岡さん】
「ちょっと増やそうか。一日50(皿)ぐらいはできひん?」
【村上さん】
「30やで…50はきついな」
【秦さん】
「市場のためにね」
<<若鶏の小嶋屋>>
【若鶏の小嶋屋・山内康至さん】
「これと、専用の卵かけ醤油がセットで、830円が500円」
【北岡さん】
「これもええけど、こんなんええやんなあ」
…と言いながら、卵をもうワンパック追加しようとしています。これには山内さんも…
【山内さん】
「死ぬ…死んでまうわ。せめてこうしてくれへんか」
折衷案で、「卵2パック」を1セットにしました。
【北岡さん】
「これでもええやんか」
【山内さん】
「これでもほんなら、500円します」
【北岡さん】
「そら魅力ある」
それぞれの店舗に、無理をお願いした北岡さん。
自らは、伝統の「餅」で勝負。優しい甘みの餅で通常の1.5倍の「ジャンボ大福」を作ります。
通常、大福は1個160円。
ワンコイン市では「ジャンボ大福」を、100円で販売します。
【北岡さん】
「見てくださいこれ。伸び伸び。最高においしいで。ガーッと食べてビューっと伸びるのがいいよね」
いよいよ、ワンコイン市が始まりました。
脂が乗った、長崎産の中トロ。そして黒門名物・ふぐの刺身。7月16日から3日間限定で販売され、毎日50皿が、あっという間に売り切れました。
売れば売るほど赤字ですが、今回は特別に、黒門市場の振興組合が補填します。
【ワンコイン市に訪れた人】
「新聞のチラシに色々なお店が安くしていると書いてあったので、こら行かなあかんなと思って。楽しみに買うて帰ります」
【ワンコイン市に訪れた人】
「いいものがあるから、これからもこんな感じやったら来やすいですよね。頑張ってほしいですね」
北岡さんの「ジャンボ大福」にも人だかりが。
久しぶりに、活気が戻りました。
【北岡さん】
「本当、今回やって良かったな、嬉しいなという素直な気持ちです。第一歩ですけどね。このまま何もしなければ、またお客さんがいなくなる。そういう危機感を持って、第二弾、第三弾の手を考えて、お客様に常に喜んでいただける黒門市場でありたいと考えています」
「なにわの台所」として、その歴史を紡いできた黒門市場。
支えているのは、地域の人たちです。