新型コロナウイルスの終息がみえないなか、人に言いづらい悩みや問題を抱えた家庭の子供にとって「居場所」になっている小さな食堂が大阪にあります。
食堂を切り盛りする女性が見つめる子供たちの「変化」。
複雑な家庭環境を抱えるある少女との日々を取材しました。
大阪府豊中市の路地裏にある小さな食堂「ごはん処・おかえり」。
【子供】
「おいしい」
出てくるのは手作りの温かいご飯。
連日、無料で子どもたちにふるまわれます。
店を切り盛りする、地元出身の上野敏子さん(52)。
去年9月、地域の子供や親たちを支援しようと店を始めました。
【上野敏子さん(52)】
「しんどい層が固まっている地域でもあって、その人らになんとか還元できるような仕組みと相談が受けられる場所が受けられる場所になればいいかな」
訪れる子供達の中には、貧困や暴力、子育てを放棄するネグレクトなど様々な家庭の問題を抱えた子たちもいます。
おかえりでは、ボランティアの協力も得て、週に2日ホームレスへの炊き出しも行っています。
材料は全国からの寄附でまかなっています。
【炊き出しをもらった人】
「心も体も温かくなる」
炊き出しを手伝うこどもたちの中に、小学6年生のかなこ(仮名)がいました。
【かなこ(仮名)】
「『ありがとう』とか、普段あまりそういうこと言われへんから嬉しかった」
平日の午後、家で過ごすかなこたちがいました。
――Q:学校は?
【かなこ(仮名)】
「行ってない」
「友達おらんから学校に。みんなしゃべりかけてもこーへん」
足の踏み場もないような部屋で、ほぼ毎日、明け方までゲームやスマートフォンを続けて昼に起きる生活。
2人暮らしの母親はうつ病や髪の毛を自分で抜いてしまう抜毛症を抱えていて、仕事はありません。
【かなこ(仮名)の母親】
「3年前ぐらいからうつ病で、なので外には出たくない感じです」
――Q:ごはんつくったりも?
【かなこ(仮名)の母親】
「そうですね。子どもには負担かけてますね。(学校行ってなくて)勉強は全然おいついてないし、それもあって友達ができないのもあると思う」
かなこは家でご飯を作ってもらうことはほとんどありません。
夜遅くまで友達と出歩くこともあったといい子ども食堂を転々とする中、「おかえり」を知り、通うようになりました。
――Q:二人にとって、おかえりってどんな場所?
【かなこ(仮名)】
「ご飯食べて、遊ぶ場所とみんなで合流する場所」
そんなこどもたちを上野さんは母親のように迎えいれます。
しかし、新型コロナウイルスの緊急事態宣言を受け、「おかえり」も4月から約3カ月間、休業を余儀なくなされました。
その間も、上野さんのもとには母親などからの相談がSNSで次々とはいりました。
【上野敏子さん(52)】
「コロナ切りで職を失うことによって、心理的に追い詰められたママの方から、子供と長時間一緒にいてるストレスが加わって、子供と一緒に死にたいとかいう、叫びみたいなのもある状況が続いています」
そんな中、無料で持ち帰れるように手作り弁当を置くことにしました。
ある日、店先に手紙が残されていました。
【店先に残された手紙】
「私は子供たちをかわいがることができなくて、(親が)ずっと帰ってこない家で、小4の姉が卵かけご飯を作って5歳の妹に食べさせてた。おかえりのお弁当を頂いて帰った日、久しぶりの栄養と料理の味がした。涙がでるくらいだった。おいしいご飯で心が満たされるってあるんだなと思いました」
様々な支援を続けるのにはワケがあります。
2人の息子それぞれに障害がある上野さん。
身近な人たちから「お前は障害児しか産めない」などと言われ続けました。
【上野敏子さん(52)】
「だから死にたかったんですよ、自殺願望も凄い強くて、踏切見たら飛び込みたいし、車走ってるの見たら飛び込みたくて。やっぱりしんどさがわかるから、ちょっとでも荷物おろせたらなっていうおせっかいですよね」
7月―かなこたちが久しぶりに顔を見せました。
【上野敏子さん(52)】
「誰踊ってるの?」
【子供】
「(かなこ(仮名)の彼氏。群馬の子とつきあってるねん」
【上野敏子さん(52)】
「待って…ネット?」
【かなこ(仮名)】
「TicTokで知り合った」
【上野敏子さん(52)】
「ママも知ってんの?」
【かなこ(仮名)】
「うん」
【上野敏子さん(52)】
「とりにおいでや~」
【かなこ(仮名)】
「おいしい」
【かなこ(仮名)】
「自粛の時ずっと家出てへんかった、(友達に)会われへんかったから死のうと思った」
かなこの口から出てきた「死ぬ」という言葉。
上野さんはすぐに母親に連絡しました。
【上野敏子さん(52)】
「ママ気付いてる?ラインあるやん?あれの…」
【かなこ(仮名)の母】
「背景?」
【上野敏子さん(52)】
「死」ていうのがあって…」
【かなこ(仮名)の母】
「(背景)変えたの知ってる。目の前で」
【上野敏子さん(52)】
「させたらあかんねん、死やん。死ぬっていう字やねん。これって明らか病んでるよねってサインかなと思って、普通何もない子が使わへんから」
少しでも子どもらしい時間を過ごさせたい―以前からそう考えていた上野さんは、夏休みに全く違う世界につれていくことにしました。
山形県小国町―。
人口約7300人の小さな町です。
【子供たち】
「や~、けむし~おってんて」
【山形のボランティア】
「え、どこ、いないよ、だいじょうぶだ」
迎えてくれたのは上野さんの活動に賛同し、おかえりに米などを寄付しているボランティアの人たちです。
ここで約2週間過ごすかなこ。
スマートフォンやゲームはありません。
この日の昼ごはんはそうめんと天ぷらです。
約15人分の天ぷらをかなこが揚げていきます。
【山形のボランティア】
「味見してごらん」
【かなこ(仮名)】
「おいしい」
【上野敏子さん(52)】
「そうそう」
山形の生活にも慣れてきたある朝のこと。
かなこが自分で宿題を始めました。
次々と他の子が勉強に飽きていく中、ひとり、かなこは1時間半の間、机に向かいました。
【かなこ(仮名)】
「終わった~。やったすごい~」
【上野敏子さん(52)】
「自分でやろうっていう気になる、大阪におったらおそらくなかったんやろうなというこの光景なので、それが見れたことがうれしいのと、本人らも自分でやったっていう気になることがちゃんとわかってよかったん違うかな」
【子供】
「おんぶ~」
【上野敏子さん(52)】
「おんぶはやめて重いねんて~」
そして、夜が更ける前に眠りにつきます。
山形での時間はあっという間に過ぎていきました。
8月23日―2週間ぶりの自宅。
【かなこ(仮名)】
「起きてへんかったら最悪や」
【上野敏子さん】
「起きてるはず、さっきLINEきたもん」
【かなこ(仮名)】
「え、なになになに!?作ったん!?」
【かなこ(仮名)の母親】
「作られへん、ケーキ屋さんで買った」
【上野敏子さん(52)】
「ほめたってやきょう。めっちゃがんばっとったから」
【かなこ(仮名)】
「楽しかっけど、寂しかった」
【かなこ(仮名)】
「朝ごはんがあった、、、こっちにはないもん」
【母】
「自分でつくればいいやん」
【かなこ(仮名)】
「いらない、朝ごはんなんか食べるもんじゃない」
かなこは始業式の一日だけ学校に行ったものの、また昼夜逆転の生活に戻りつつあるといいます。
【上野敏子さん(52)】
「むこう(山形)で身に付いた良い習慣だけ、継続してもらえるように働きかけ出来たらいいかなって思ってますけど…厳しいんちゃうかな。(多様な体験を)一個一個埋めていくことで、なんか学校に一歩行けるようなきっかけ作りが出来たらいいかな」
すぐにすべてを変えることはできません。
だからこそ、子どもたちを見守り続けます。