そっくりな2匹の犬。
実は、クローン技術で作られたものなのです。
中国で徐々に増えているクローンペット。
取材をしていくと、日本国内でも身近にクローンペットがいるかもしれない実態がみえてきました。
日本で飼育されている犬や猫の数は、約1860万匹。(一般社団法人ペットフード協会によると:2019年)
日本人の7人に1人がペットに癒しをもらい、限りある時間をともに過ごしています。
一方で…
【中国のクローンペットの飼い主】
「前の犬はおとなしい女の子だったけど、この2匹もそっくりです」
ペットブームに湧く中国ではなんと、ペットが死んだ後にその細胞から作ったクローンを飼う人が増えているのです。
クローン動物を作って販売…北京のベンチャー企業
中国の最新ペット事情はどういうものなのかー。
取材班は上海で開かれていたペット展の会場に向かいました。
その中で多くの人が注目していたのは…
【記者リポート】
「ペット展に出ているこちらの会社。看板には、前と同じ姿で戻って来る、と書かれています」
壁には、“永遠に一緒”などの宣伝文句。
クローンの動物を作って販売する北京のベンチャー企業・シノジーンです。
展示されている3匹の犬。
一番右にいるのは9歳です。
そして、横にいる2匹は9歳の犬の細胞から作られた、まもなく2歳になるクローンの犬です。
“元の犬”が伏せをすると…
クローンも伏せをします。
見た目も仕草もそっくりです。
実はこの犬、有名な映画にも出演し、高額のギャラを稼ぐ”タレント犬”。
高齢になり、その能力を残すため、クローン技術で新たな犬を作ったといいます。
【タレント犬のクローンの飼い主】
「映画撮影の時に外見が同じ犬が沢山いると、交代出来るんですよ。(犬の)仕事の負担を減らすことができます」
クローンで作った犬の価格は590万円ほど。(クローン猫…約390万円)
通常の犬の約50倍から330倍と非常に高額ですが、訪れた人たちは興味津々です。
【訪れた男性は…】
「理解は出来ますが、倫理的、気持ち的に受け入れるには時間かかりますね」
――Q:(クローンに)心配は?
【訪れた女性は…】
「ないですよ。値段が高いことぐらいかな」
【訪れた女性は…】
「うちの犬は誰にでもなつくのよ。もしクローンでそっくりな性格の犬が出来たらとても良いわね」
シノジーンの代表は家庭でのクローンの需要は徐々に広まりつつあると話します。
【シノジーン 米継東代表】
「ペットの世界では、(クローンのような)生殖技術は欠かせないものだと思います」「私たちの技術でペット産業を発展させたいんです」
17年間飼っていた愛犬のクローンを「注文」
取材班は、実際にクローンの犬を2匹飼っている男性を訪ねました。
【クローンペットの飼い主】
「さあ、抱っこしようね。こちらがトウトウ、こちらがコウコウです。去年生まれました」
おととし、17年間飼っていた犬ががんになり、死ぬ直前に男性は皮膚細胞を採取。
シノジーンにクローンの犬を作るよう注文しました。
【クローンペットの飼い主】
「初めて見た時に、そっくりだと思いました。前の犬は家族の一員でしたから。他の犬を飼うなんて考えられないです」
長年寄り添ってきた家族とこれからも過ごしたいー。
男性はクローンの作成に抵抗はなく、実際にそっくりな2匹を飼ってみて満足しているといいます。
クローン犬を作るには「3匹の犬」が必要
そもそも、クローンの動物はどのように作られているのでしょうか。
【クローン会社「シノジーン」担当者】
「この部屋は卵細胞を移植するための準備をする場所です。ここでクローンの準備をします」
取材班が案内されたのは、顕微鏡や試験管が並ぶ研究室です。
中国では人間のクローンの作成は禁止されていますが、ペットについては明確な規制がありません。
シノジーンは、この研究室で3年前から犬のクローンを作りはじめ、いまでは年間50匹以上のクローンの犬や猫を販売しています。
【クローン会社「シノジーン」担当者】
「スタッフが(飼い主の元に)細胞を採取しに行きます」「培養液に採取した体細胞を入れて、輸送するんです」
クローンを作るには、3匹の犬が必要です。
まずは、クローンを作りたい“元の犬”の皮膚細胞を死ぬ前、もしくは死んだ直後に採取、DNAを取り出します。
そして、メスの卵細胞から核を取り除き、“元の犬”のDNAを含む細胞核を入れます。
その後、別のメスの子宮に移植するのです。
【記者リポート】
「なかなか人懐っこい犬ですね」
成功すれば2カ月ほどで生まれるというクローン。
“元の犬”と外見だけでなく、能力もそっくりになると担当者は話します。
【クローン会社「シノジーン」担当者】
「(”元の犬“が)知能が高ければ、クローン犬も賢くなりますし、運動能力も同様です。クローンで多くの要素が受け継がれるんです。私たちは優れた遺伝子を残すために働く犬のクローンも作っていますよ」
北京の警察では去年、学習能力や記憶力、攻撃能力が高いクローンの警察犬を導入。
中国ではクローン動物の活用に国を挙げて取り組んでいます。
この会社には「日本からの注文」もあるという…
しかし、日本も無関係ではありません。
シノジーンには日本の飼い主からも注文があるといい、私たちの身近にクローンの犬がいるかもしれないのです。
【日本の飼い主】
「悲しさを埋めるのに手段としたら、分からんでもないんですけど、でも命っていうことを優先的に考えた時に理解しにくいかな」
【日本の飼い主】
「生命がモノになっちゃうような気がします。大抵の人は反対だと思いますけど…介助犬とか盲導犬とかになってくると、素質が問われますからね。人間のためには要るかもしれないですね。でも、本当はかわいそうですよね」
生命倫理に詳しい北海道大学の石井哲也教授は、クローンのペットを受け入れてしまうと、生命の尊厳をないがしろにしかねないと指摘します。
【北海道大学 石井哲也教授】
「ペットがもし病気とか、年を取るといった時に『いやもう、またクローン作ればいいじゃないか』と。お世話しないで放置されてしまうと、そういった社会になっても構わないかどうか、というような問題にも発展しかねない」
家族として、ときにはパートナーとして私達を支えてくれる犬や猫。
ひとつの命だということを忘れてはいけません。