ウルグアイのホセ・ムヒカ元大統領、質素な暮らしぶりから「世界一貧しい大統領」として親しまれ、「幸せとは何か」を世界に問いかけた人です。
そのムヒカに惹かれ、単身ウルグアイ会いに行った女子大学生が京都にいます。
彼女が、ムヒカ元大統領から託された、日本人へのメッセージとは?
“世界一貧しい大統領”私が恋したワケ 京都の女子大生会いに行く
「素晴らしい人生とは、生きる理由をもっていること―」
世界一貧しい大統領から、直接受け取った言葉です。
京都市内で、ある大学生が開いた展示会。
ウルグアイの元大統領ホセ・ムヒカの言葉の数々が紹介されています。
この展示会を開いたのは、立命館大学に通う岩本心さん(22)です。
【大学生・岩本心さん】
「今の自分の幸せや豊かさについて、変えろというわけではなくて、見つめ直すきっかけになれば。自分の人生において一番大事なものを再確認することが出来たらなと思います」
心さんはなぜ、ムヒカに惹かれたのでしょうか。
“世界一貧しい大統領”ホセムヒカ元大統領が問いかけた「本当の幸せ」とは
2010年から5年間、ウルグアイの大統領を務めたホセ・ムヒカ。
在任中、大統領公邸に住むことを拒み、小さな農場で質素な暮らしを続けました。
収入の大半を寄付していた彼は人々から敬意をこめて、「世界で一番貧しい大統領」と呼ばれています。
その名が世界に知られるようになったのは、2012年。
経済発展と環境保護の両立を考える国連会議でのスピーチでした。
【ウルグアイ ホセ・ムヒカ大統領(当時)】
「きょうの午後からずっと私たちは、持続可能な発展と膨大な数の貧困者対策を話し合ってきました。しかし、私たちの頭をよぎるのは何でしょうか。現在の裕福な国々の発展と消費モデルでしょうか。人類はいま自分たちの欲望を支配できていない。逆に人類の方がその力に支配されているのです」
世界中で翻訳され、絵本にもなったこのスピーチ。
【ホセ・ムヒカ大統領(当時)】
「もしも、インドの人たちがドイツの家庭と同じように車を持てば、この地球はどうなるのか。息をするための酸素は残されるのか」
「水不足や環境の悪化が今ある危機の原因ではない。本当の原因は私たちが目指してきた幸せの中身にあるんだ」
ムヒカは「人間の幸せ」について問いかけたのです。
【ウルグアイ ホセ・ムヒカ大統領(当時)】
「我々は発展するために生まれてきたのではありません。幸せになるために、この地球に生まれてきたのです。(賢人たちは)『貧しい人は少ししかものを持っていない人ではなく、もっともっといくらあっても満足しない人のことだ』と。発展は人類の幸せ、愛、子育て、友達をもつこと、そして必要最低限のもので満足するためのものなのです」
“世界一貧しい大統領”に恋した女子大生 「本当の幸せ」って何?
日本人の父と日系メキシコ人の母との間に生まれた心さん。
1人暮らしの生活費はすべてアルバイトで稼いでいます。
8歳の頃、両親の離婚をきっかけに生まれ育ったメキシコを離れ、愛媛県で農家を営む父親のもと、4人の兄弟と一緒に育ちました。
「懐かしい」
実家の家計が苦しく、朝も夜も新聞配達をして学費も稼いだこともありました。
ここは彼女がつらい時に来ていた場所。
【心さん】
「ぼーっとしてリフレッシュして帰ってました。本当にしんどかったときは大学を辞めちゃおうかと考えたときがあって。30分とか1時間くらい、新聞配達所のおじちゃんが心配して迎えに来るまで、ここにいたこともありました」
「本当の幸せ」とは何か―?
ムヒカのスピーチを知ったのは就職活動について考えていたとき。
【心さん】
「ムヒカさんのリオでされたスピーチを聞いたときに、本当に自分が行きたい職種に進むほうが、大手企業にいくよりも自分にとって価値がある就活なのかなと思いましたし、競争社会の中で自分は勝者になるために生きてきている感覚があったことも見つめ直しました」
ムヒカの言葉をきっかけにもっと世界を知りたいと思うようになりました。
原発事故があったチェルノブイリ、フィリピンのスラム街など。
リュック1つで、世界を巡りました。
そして…
【心さん】
「私は…。あなたの考え方を尊敬しています。とても尊敬しています。だから…。あなたに質問があります。いま質問してもいいですか?」
なんと、ムヒカに直接会うことが出来たのです。
【心さん】
「大統領時代の夢は?」
【ムヒカ】
「そうだね‥貧乏人の数を減らすこと。そして生まれたときからみんなが同じ権利を有する社会を作ること。でもこれは最も難しいことかもしれないね」
【ムヒカ】
「人間はそれぞれ違うんだ、寝るベッドも違うよね。ある人はチャンスが多い、でもある人は何もない。難しいよ」
突然の訪問にもかかわらず、丁寧に答えるムヒカ。心さんは、こんな質問をしました。
『日本人についてどう思いますか?』
ムヒカは「日本は確かに裕福な国だ。ただ、絶望的に働く人が多い。競争心にあおられ、若者は試験に落第し、自殺することもある。日本人は国の発展のためではなく、自分の幸せのためにもたたかわなければいけないね」と答えました。
そして大学生の心さんに対して…
【心さん】
「『学校っていうのは、勉強するだけの場所じゃなくて生きる理由を見つける場所だ』と言っていて、すごく考えさせられました」
心さんはいま、大学4年生。国連で働くという夢ができました。
【心さん】
「いまのほうがすごい楽だなと思います。自分のしたいことをはっきりもってそれに向かって自分のペースで頑張っているほうが自分らしいなと思います」
素晴らしい人生とは、生きる理由をもっていること―。この言葉を胸に彼女は生きています。
企画展示「世界一貧しい大統領から学ぶ“本当の豊かさ”」も10月28日まで、立命館大学の国際平和ミュージアム行われています。