新型コロナウイルスの感染拡大で大阪の救急医療がひっ迫しています。
今現場ではいったい何が起きているのか。取材しました。
感染リスク…救急現場での対応に負担増
【看護師】
「耳原総合病院ER担当です」
電話が終わると、看護師たちがてきぱきと動き出します。
「93歳女性、意識消失!15分で来ます。一回(心肺が)止まって…」
――Q:コロナ疑いですか?
【耳原総合病院・大矢亮救急総合診療科部長】
「施設からだから、そうとは言えないが、その(コロナ)対応しないといけないかな」
受け入れの要請があったのは、高齢者施設で倒れ、一度心肺停止した93歳の女性。
間もなく、消防隊が女性を搬送してきました。
心臓マッサージや人工呼吸を装着する処置が必要な場合は、万が一の感染リスクから身を守るため、感染した人と同じ装備で対応にあたらなければいけません。
新型コロナウイルスの感染拡大は、救急医療の形を大きく変えました。
【耳原総合病院・石原昭三循環器センター長】
「処置が遅れたり、自分が住んでいるエリアと相当遠いところに搬送されているのが実際に起きている。本当に重症患者の行き場がなくなるのは、目の前かなという状況ですね」
私たちの生活を支える医療の現場で、今、一体何が起きているのか。
新型コロナウイルスの感染拡大の陰で、危機に直面している救急医療の現状です。
大阪市内で断られ…『大和川を越えてくる』
耳原総合病院。地域医療支援病院として、堺市の医療を支えています。
感染症指定医療機関ではありませんが、大阪府からの要請を受けて、今年7月から新型コロナウイルスに感染した患者の受け入れにも協力しています。
24時間、365日「断らない救急」を掲げ、年間6000件を超える患者を受け入れてきた「救急総合診療科」。
第一波、第二波とは大きく異なる、コロナ第三波の影響を感じています。
【大矢医師】
「大阪市内で行き先がないからといって、(救急患者が)大和川を越えてこの病院に来ます。大阪市内の救急の診療が大変になると、その余波を受けていると実感する。例年の2倍、月によっては3倍近く(大阪市から)来てます」
大阪市内の病院で受け入れを断られた患者が、隣の堺市まで、30分ほどかけて搬送されてくるというのです。
【耳原総合病院・北芝典子看護部長】
「そやな結構来てるね、この日。えらい遠方からきている」
――Q:大阪市内で断られる?
【看護師】
「取ってくれなくてと…10件(電話を)かけたけど、あかんかったということで、こちらに来たりする」
【北芝看護部長】
「病床もパンパンになってきだしてているからね。観察室も埋まり始めたから、一番まずいパターンに入っている」
寒くなるにつれて、心筋梗塞や心不全といった一刻の猶予も争う、患者の搬送が増えてきます。
この日、心不全で、意識を失った患者が運び込まれてきました。
詳細な聞き取り調査ができない上に、肺に影があったため、新型コロナ陽性者と同じ対応をせざるを得ません。
この病院は、感染症専門の病棟はないため、今年に入って急きょ簡易な装置を付けて、空気を外に漏らさない個室を用意しました。
患者と向き合う手順や時間、仲間との連携、全てが変わってしまいました。
【北芝看護部長】
「一気に感染症の専門病院並みの準備をしなさいと言われたので、どこも突貫なのではないですかね。ひと手間かけないといけない。その分時間が長くなる。例え1分だろうが2分だろうが、生命予後に直結する。救急をやっている医師も看護師もジレンマを感じている。ただ、そこをないがしろにすると自分たちもばく露する可能性もあるし、そこのせめぎ合い」
急性期の医療の質は、確実に下がっている
この日、病院の幹部が集まりました。
大阪市で高度な3次救急を担う急性期医療センターでクラスターが発生し、救急の受け入れが一部制限されたのです。
【耳原総合病院・川合篤事務次長】
「急性期医療センターさんでのクラスターが発生となっている。この辺が広がると救急でまた圧力がかかるのかという懸念がかなり強い。病棟はほぼ埋まった状態」
院内では救急患者を受け入れるための病床がひっ迫していました。
【石原医師】
「助けられる人を助けられない状況になっている。救急の受け入れを制限すると本当に重症の患者の行き場所がなくなるのは目の前かなと」
――Q:医療崩壊起きている?
【石原医師】
「ベッドが全く入院できなくなって、救急車がどこにも行き場がないという状況にはまだなっていないが、すぐ入院したり処置を始められるところが、転院先を探さないといけないということは普通に起きているので、医療崩壊というか…急性期の医療の質は確実に以前に比べて下がっている」
ベッドがひっ迫するのは、ほかにも理由があります。
――Q:(患者の転院を)受けてくれない?
【看護師】
「検査してくださいといわれることが多い。PCR検査とか検査をしてください…その結果で確認させてもらいますと…」
看護師は、他の複数の病院に、電話していました。
ベッドと人手に余力を生むために、この病院の軽症の患者を他の病院に転院させようとしても、肺炎の症状や熱があったりすると受け入れてくれないことも多いのです。
受け入れ先が見つかるまで、4時間かかりました。
――転院先が見つかってよかったですね。
【看護師】
「そうですね、本当によかったですね。4、5時間かかって見つからないこともありますし」
救急隊員と励まし合う日々
救急総合診療科の入り口には、看護師や医師から救急隊員に向けたメッセージが貼られるようになりました。
【北芝看護部長】
「夏前から毎日水分を取ってくださいねとか、やりとりしていて、お互いが本当に大変なので。励まし合わないとやってられないというのが、現場の声だと思う」
12月に入り、また新しいメッセージが貼られました。
これが、現場の声です。
「大阪モデル赤信号が点灯、正直、頑張り続けるのも限界があります」