SNSなどで悪口やうそを書き込まれ、精神的に追い込まれる人が後を絶ちません。
訴えるためには複雑な手続きが必要で、国が法改正など被害者救済を進めていますが、泣き寝入りしてしまう被害者が多いのが現状です。
実際に被害に遭った人はどのような負担を強いられているのか、1人の女性を取材しました。
■弁護士からの忠告「被害者も我慢が必要」 誹謗中傷を訴えるための”高いハードル”
去年9月、弁護士事務所を訪れたのは、瀬戸麻希さん
【瀬戸麻希さん】
「まったく虚偽の過去の事実みたいなことをSNSでさらされていまして…」
インターネット上で受けた『誹謗中傷』の相談です。
半年ほど前、自身のツイッターに知らないアカウントから特定の罪名をあげて『犯罪歴がある』などのウソを書きこまれました。
【瀬戸麻希さん】
「刑事告訴はできそうですか?」
【神戸マリン綜合法律事務所・西口竜司弁護士】
「内容として、これは名誉棄損に該当します。これを告訴することは十二分にできます」
【瀬戸麻希さん】
「じゃあ民事と刑事で・・・訴えたいと思います」
訴えたいと話す瀬戸さんに、弁護士からある忠告が…。
【西口弁護士】
「相手を特定するとなると、かなりめんどくさい流れになってくる。瀬戸さんにも頑張っていただくというか、我慢していただくことになる。我々が危惧しているのは瀬戸さんの心です…」
顔の見えない匿名の相手を訴える…
そこには高いハードルがあります。
誹謗中傷を書いた相手を特定するためにはまず、裁判所を通じて、ツイッターなどのSNS運営会社にIPアドレスなどの開示を求める必要があります。
さらに、その情報をもとに再び裁判所を通じてネット接続事業者に氏名や住所などの開示を請求。
2つの手続きが必要なケースがほとんどです。
一般的には情報開示まで半年以上、弁護士費用は数十万円かかると言われています。
大きな負担を強いられますが、瀬戸さんは「家族の名誉にも関わる」と訴えることを決意しました。
【瀬戸麻希さん】
「開示請求されたらいいなとは思うけど、できるのかなって不安。もしかしたらすごく仲のいい人かもしれない。知り合いかもしれないと思うと、人間不信になってくるっていうところで誹謗中傷って卑怯だなと思います」
■加害者「訴えられないか不安」という声も…なぜ誹謗中傷を?
相次ぐネットでの誹謗中傷…
なぜ相手を傷つける投稿をするのでしょうか…
加害者からの相談を受ける、NPO法人を訪ねました。
【『あなたのいばしょ』大空幸星代表】
「『アドバイスをするつもりだったんです』というような声が寄せられていて、本人は誹謗中傷をした自覚はなかったと思う、しかし結果的に傷つけてしまったと。”ゆがんだ正義感”で芸能人とかに対してコメントを残している」
しかし去年5月、テレビ番組に出演し、誹謗中傷を受けた木村花さんが亡くなったことを受け、これまでの書き込みに不安を感じ始める人も…
ー―『あなたのいばしょ』のチャットに寄せられた投稿―ー
「私は生きてていいんでしょうか。人を殺してしまった」
「感想を書いただけのつもりがこんなことに」
「訴えると言っていてとても不安です…」
悩み相談ができる匿名のチャットに寄せられた声…
中には「逮捕されることが怖く何日も寝られません」というものまで。
誹謗中傷問題に詳しい専門家は、ネットに書き込みをする際にリスクを自覚することが重要だと話します。
【国際大学グローバル・コミュニケーション・センター・山口真一准教授】
「木村花さんにリプライを書いていた60%くらいのコメントが実は削除された。自分が訴えられるかもと感じた人が多かったと思う。このように自分にリスクがあると認識すれば、それによって、書くのを思いとどまることも十分考えられる」
国も対策に乗り出しました。
【高市早苗総務相(去年5月当時)】
「開示手続きを円滑化する方策などについて検討を開始しました」
被害者の負担を減らすため、新しい裁判手続きなどの検討を開始。
これまでは2段階の手続きが必要でしたが、被害者の申し立てを受け裁判所が一度の手続きで情報を開示するかどうか判断。
SNS運営会社やネット接続事業者に命令を出します。
総務省は法改正に向けて作業を急いでいて、今月20日の衆議院本会議で武田良太総務相は「本通常国会の法案提出に向け、速やかに準備を進めてまいります」と述べました。
■弁護士への相談から数カ月…SNS運営会社からの反論も
――去年11月ーー(弁護士への相談から2カ月)
裁判所を通して、ツイッター社に情報開示を求めていた瀬戸さん。
この日、結果が出る予定でしたが、弁護士からの電話を受けて表情が暗くなります。
【弁護士と電話する瀬戸麻希さん】
「どんな感じですか…感触としては…」
弁護士によると、ツイッター社からの反論もあり、裁判所の判断は先延ばしになりました。
さらに一カ月半後…
瀬戸さんから『訴えを諦める』と突然の連絡が入りました。
いったい何があったのでしょうか?
【瀬戸さんの代理人・西口弁護士】
「一言でいうと、(瀬戸さんの)過去のテレビ出演といった情報を相手方(ツイッター社)代理人がクローズアップしてしまった」
――Qテレビ出演の内容というのは?
【瀬戸麻希さん】
「『昔は非行に走っていたけど、更生しました』的な内容だったんですけど…自分でもテレビ出たことさえ忘れていたのに、突然そういう話が出てきて、えってなって」
7年ほど前に、出演したテレビ番組。
もちろん瀬戸さんはツイッター上に書き込まれた犯罪について、話していないし犯した過去もありません。
しかし弁護士によると、テレビ番組を見つけたツイッター側が「番組で犯罪をにおわせる発言をしていて、誤信してもやむを得ない」と反論。
裁判所もそれを認め、情報開示は叶いませんでした。
悪質な書き込みであったとしても、『情報開示』には高いハードルがあります。
【瀬戸さんの代理人・西口弁護士】
「”表現の自由”というのは重要な権利ですので、よほどの事情がない限りそれを妨げることはできないと。いわゆる表現の自由を守るという観点で、ツイッター社は職務を遂行されているのかな…」
瀬戸さんが弁護士に相談をしてから4カ月、かかった費用は約40万円。
しかし、加害者を知ることはできませんでした。
【瀬戸麻希さん】
「今回ので精神的に疲弊しちゃって、なんかもういいかなって…疲れちゃったんで、今後当面訴えたりしないと思います」
自由なネット空間で、どのように誹謗中傷を防ぐか…
多くの課題が残されています。
(関西テレビ「報道ランナー」 2021年1月21日放送)