体は男の子。 でも心は女の子…。
性別への違和感を訴える6歳の園児の情報を、大津市がホームページに無断で公開していたことが分かりました。
園児の母親への取材を通して浮彫りになったのは、『性的マイノリティー』に対する社会の理解のなさでした。
■『体は男の子、心は女の子』園児が”性別への違和感” 保育園ではいじめも…
【保育園児が書いたメモ】
「なかまはずれ、あちいけ」
覚えたばかりの文字で明かした苦しい胸のうち。
このメモを書いた6歳の園児は今、保育園に通うことができていません。
滋賀県大津市に住む、佐藤ゆうきちゃん(仮名)。
体は男の子ですが、3歳の頃から「かわいい服を着たい、自分は女の子」と話すようになりました。
【ゆうきちゃんの母親・佐藤さん(仮名)】
「まだ子どもが小さくて言葉が出ない時から指差しなどをして、女の子の服を選んでいたりとか」
「妹がいるから、その影響じゃないのか(と当初思った)」
母親はゆうきちゃんの意思を尊重し、女の子として接することに。
4歳の時、大津市の公立保育園にゆうきちゃんが入園すると、佐藤さんは園に事情を説明したうえで、女の子の服装で通わせることもありました。
しかし、入園から1カ月後…。
【ゆうきちゃんの母親・佐藤さん(仮名)】
「性の違和感に関して悩んで泣いて、『死んで生まれ変わって女の体に生まれ変わりたい』とか『間違えた体で生まれてきた』と泣いている」
園は、職員用のトイレを使わせるなどの配慮をしていました。
しかし、身体測定では他の園児たちの前で服を脱がなければならず、ゆうきちゃんはひとり苦しんでいたのです。
さらに、服装がきっかけでほかの園児から「うそつき」と言われたり、持ち物を切り刻まれたりするなど、いじめにあっていました。
■保育園にいじめの相談するも”じゃれあい”と判断 園児は「死にたい…」
佐藤さんは女の子の服装を止めさせることも考えましたが、ゆうきちゃんをさらに苦しめることにつながりかねません。
保育園に相談をしましたが…。
【ゆうきちゃんの母親・佐藤さん(仮名)】
「平行線で、全く話を聞いてくれなかったです。『成長過程』と『じゃれあい』ばかりずっと言われて。『本人の思うままにしていいのかを主治医に聞いてほしい』と言われました」
ゆうきちゃんは、大学病院で心と体の性別が一致しない「性別違和」と診断されました。
保育園は身体測定の方法を変えるなど対応し、いじめについては注意深く見ておくと返答。
しかし、性別をからかういじめは収まらず、ゆうきちゃんは円形脱毛症などの症状が出て、去年10月、とうとう保育園に通えなくなりました。
【ゆうきちゃんの母親・佐藤さん(仮名)】
「いじめ行為をされた時のことを急に思い出してしまって、日中泣いちゃったりとか。大人に対してもまったく不信感が募って、目も合わせられなくてしゃべれなくなっちゃってて…」
「『死にたい、死にたい』と言ってます」
性的マイノリティーの子どもがほかの子と同じように生活するのは無理なのか…。
佐藤さんとゆうきちゃんが苦しむ中、さらに追い詰められる出来事が発覚しました。
■無断で大津市のホームページに公開…ゆうきちゃんの『性別への違和感』
大津市がホームページで公開している市内の保育園の評価書。
ゆうきちゃんが通っている保育園のページに「今年度入所した4歳児が、自分の性に違和感を感じる訴えをし11月に受診」などと記されていたのです。(現在は削除済み)
氏名はないものの、ゆうきちゃんと特定されてしまうと感じた佐藤さん。
保育園側から事前に説明はありませんでした。
【ゆうきちゃんの母親・佐藤さん(仮名)】
「子供も性別違和に関して、からかわれるし馬鹿にされるし、もう誰にも言われたくないと言って泣いたりとかもしていたので」
「まさか大津市のHPに出し続けているってことが信じられなくて。(今後も)噂とか、またいじめられる可能性がすごい高まってしまうので、この地域の小学校には行けないとは思います」
■市はなぜ公開を…? 専門家「行政の”認識の甘さ”が露呈」
佐藤さんが取り下げを訴えるまで、評価書は半年ほどにわたって、誰もが見られる状態になっていました。
子どもの権利に詳しい弁護士は、行政の”認識の甘さ”が露呈したと指摘します。
【子どもの権利に詳しい石田達也弁護士】
「自分が認識している性と戸籍上の性が一致しない状態。そういった自分の性別に関することを自分の同意なしに、むやみやたらに第三者に公表されない権利というのを個人が持っている。市政のあり方全体が問われる問題ですよ」
大津市は関西テレビの取材に対し、「個人の特定はできないと考えておりましたが、対象者がかなり限定されることから、不適切な掲載であったと反省しております」とコメントしました。
また、両親に対して『いじめ』について認め、「成長過程の中で起こったことという言葉だけでは収まらせず、もう一歩踏み込んだ支援が必要であった」としています。
今後、専属の職員を1人配置するとしていますが、佐藤さんとゆうきちゃんはすでに大津市を離れ、新しい環境で再スタートすることを決めました。
【ゆうきちゃんの母親・佐藤さん(仮名)】
「私の子どもは早いうちから親に性別違和に関して言えましたけど、なかなか世の中には、言えない子どもたちも多くいると思うんです」
「若い時から人は男・女の2通りだけでなくて、世界には多様な人がいることを知ってほしい。まずは正しい知識や正しい理解を私たち(おとな)がしていかないと、子どもたちにも伝わらないと思います」
もうすぐ小学1年生になるゆうきちゃん。
どんな服装で通うのか、まだ決めることができないでいます。
(カンテレ「報道ランナー」1/27放送)