シリーズ企画「今、考えたい“性”のコト」
1回目は、若者たちからの相談が増えている妊娠への不安について考えます。
新型コロナウイルスの影響が長引くなかで、妊娠に不安を感じる若者たち。
その背景を取材しました。
■「コンドームをつけるタイミングをみんな知らない」関西初の「ユースクリニック」助産師の危機感
【19歳女性】
「避妊をせずに行為をしたのですが、射精はせずに終わりました。妊娠の可能性ってあるのでしょうか」
【18歳女性】
「ゴムなしで性行為をしてしまって、生理が来なくてとても不安です」
【21歳女性】
「親にも彼にも相談できず、わからないことが沢山あります」
大阪にあるクリニックには、10代から20代の女性から、切実な声が寄せられています。
ここは、2020年に関西で初めて開設された「ユースクリニック」
スマルナ医科歯科レディースクリニックOSAKAに併設されています。
「ユースクリニック」とは、生理や妊娠、避妊といった性の悩みを医師のほか、助産師や薬剤師が無料で相談にのってくれる場所です。
【スマルナ医科歯科レディースクリニックOSAKA・上林比呂己助産師】
「自粛の期間はどこにも行けないけど、彼氏彼女、パートナーには会いたい人が多いので、そこで性行為になってしまった時に、『妊娠したかもしれない』という相談はすごく増えた」
月経中は、性行為をしても妊娠しない。
膣の外に射精すれば、避妊しなくても大丈夫。
途中からコンドームをつければ妊娠しない。
これらは全て、間違った避妊方法です。
【スマルナ医科歯科レディースクリニックOSAKA・上林比呂己助産師】
「コンドームをつけるタイミングをみんな知らないんです。挿入する前に着けないといけないんですけど、挿入して射精のときにつけるイメージがある人もいて、妊娠が成立してしまう可能性がある」
しかし、若い世代に聞いてみると…
【18歳男性】
「(避妊)せえへんときもある。流れに任せてるときもある。いけるやろーって軽率な考えです」
【16歳女性】
「アプリで妊娠しにくい日(いわゆる“安全日”)や妊娠度が分かるんですよ。そういうのみんな使ってたりするかな」
【14歳男性】
「最初は(避妊について)分かってなかったのでしてなかったですけど、その後はしてます」
–Q:いつまで(避妊)してなかった?
「小6の終わりくらいまでは。AV見てたことあるので、AVのおかげっすねだいたい」
聞こえてきたのは、避妊への誤った知識と意識の低さでした。
■高3で予期せぬ妊娠…中絶した女性の後悔「相手が避妊の大切さを分かっていなかった」
予期せぬ妊娠をしてしまう若者は後を絶ちません。
10代で中絶する件数は年間1万件以上。
新型コロナウイルスの影響で、さらに増えている恐れがあるとして、国が実態調査を進めています。
関東の大学に通う、みゆさん(20)。
高校3年生のとき、当時付き合っていた年下の交際相手と避妊をせずに性行為をして、その後、妊娠が分かりました。
【みゆさん】
「終わった、という一言で、この世の終わり感というか、こんなに『やってしまった』って思ったのは初めてなくらい、すごくショックだった」
受験勉強の真っただ中だったみゆさん。
交際相手と親にだけ相談し、産まない選択をしました。
【みゆさん】
「妊娠すると体がしんどくなることもあったり、妊娠がばれたら退学になるとかいろいろ考えていたので。そういうことがなくなった点では最初すごくほっとしたんですけど、『私、あの赤ちゃんの命なくしたんだ』というのに次の日に気付いてからはしんどい日々が続きました」
みゆさんには、交際相手に思いをはっきり伝えられなかったという後悔があります。
【みゆさん】
「相手が避妊の大切さ、そういったことが分かっていなかったので、コンドームを自分で買ってはいたんですけど、つけてくれることはなかったです。『やだ、いらない』みたいな…いらないんじゃないんだけどって思ってたけど伝わらず、妊娠するまでは避妊の大切さを分かってもらえませんでした」
■避妊しないのなら断ってもいい…性行為の前にお互いの意思を確認する「性的同意」
避妊の大切さをなかなか分かってもらえない現実。
こうした中、性行為の前にお互いの意思を確認する「性的同意」の大切さが、注目されています。
3月、奈良県で行われた、「性的同意」について学ぶセミナー。
小学校から高校までの教師らが参加しました。
【性的同意を啓発「Genesis」鈴木七海さん】
「普段とっている同意『ご飯食べに行かない?』『一緒に映画行かない?』。性的な同意『セックスしない?』。私たちはあまり違いはないと思っていて、なぜか性的なことは確認しない、そんな現象が世の中で起こっているんじゃないかなと思います」
まずは、性行為をしたいか、相手の気持ちを確かめること。
そして、交際していても避妊をしなければ、断ってもいいということを伝えています。
【大阪府内の私立高校の養護教諭】
「恋人だったら、いつでもOKしないといけないと思い込んでいるとよく聞くので、断る練習を授業でできたらいいなと思った」
お互いの気持ちを確かめるこんな工夫も…
【記者リポート】
「こちらは、大阪のユースクリニックの相談室です。中には、性教育の本やコンドームが置かれています。気軽に手に取って、パートナーと性について話し合うきっかけにしてほしいという思いが込められているんです」
【スマルナ医科歯科レディースクリニックOSAKA・上林比呂己助産師】
「コンドームって男性が選ばれることが多いと思うんですが、いろんな種類があって、女性も一緒にパートナーとコンドームを選ぶ楽しさを、知ってもらえるのはいいんじゃないかなと思って。いっぱい持って帰ってください、なくなったらまたもらいに来てね、と伝えています」
■予期せぬ妊娠減らすためにSNSで発信…高3で妊娠・中絶した女性の取り組み
高校生の時、予期せぬ妊娠・中絶を経験したみゆさん。
今は、同じ世代の人たちに性の知識を教える講座を開いています。
【みゆさん】(講座にて)
「性的暴力っていうのがあって、いわゆるレイプというような性暴力をすることだけではなくて、避妊に協力しないことっていうのも性的暴力にあたります」
「手をつなぐときから『手をつないでいい?』『いいよ~』ってやり取りをしておくことで、セックスのときも聞きやすくなるんじゃないかと思います」
さらに、SNSなどを通して情報を発信し、妊娠しても通うことができる高校を作る活動もしています。
【みゆさん】
「情報がなくて不安で押しつぶされそうな子たちをできるだけ減らして、情報がきちんとあってその子が自分の意思で自分のことを決められる。ポジティブにというと難しいかと思うけれども、できるだけ冷静に後悔のない選択肢をとれるような活動していきたい」
性について正しく知って、本音で話せる関係を築くこと。
それが大切な人を守ることにつながります。
(カンテレ「報道ランナー」4月5日放送)
■<取材後記>「予期せぬ妊娠」防ぐために求められる「性的同意」…男性の5人に1人は「コンドームを頼まれないとつけない」との調査も…産婦人科医が勧める「コンドーム」と「低用量ピル」の“ダブル”の避妊
コロナの影響で外出自粛が長引く中、特集の中でもお伝えしたように、専門窓口への「妊娠したかもしれない」という不安の相談が増えています。
心配になってくるのが「予期せぬ妊娠」です。
18歳から29歳までを対象にした調査では、「避妊について話し合ったことがある」人は27、9%で、30%にも満たないという結果が出ています。
さらに、男性の5人に1人は「コンドームを頼まれないとつけない」と回答。
一方、女性は7人に1人が「避妊について意見を言えなかった」と回答しています。(ILADY.性と恋愛調査2019より)
日本では、避妊方法としてコンドームを選択することが一般的ですが、「途中からコンドームを使う」などの誤った使い方や、「コンドームが破れた、外れた」などで、実は失敗率が高いとも言われています。正しく装着しないと、15%の失敗率というデータもあります。(日本産科婦人科学会「HUMAN+女と男のディクショナリー」P28~29より)
そこで、産婦人科医は、「コンドームの装着」と「低用量ピル(経口避妊薬)の服用」のダブルの避妊を推奨しています。より確実な避妊効果が期待できる経口避妊薬「低用量ピル」の服用と、性感染症を防ぐためにコンドームを併用することを勧めているのです。
この低用量ピルは、毎日1錠ずつ女性が服用するもので、婦人科などの病院で処方してもらう必要があります。月経不順や月経前症候群(PMS)の改善、月経痛の軽減といった治療にも使われています。
国連が発表している「避妊法選択2019(Contraceptive Use by Method 2019)」によると、ピルの内服率はフランスで33、1%、カナダで28、5%、アメリカで13、7%と、女性が主体的に選択できる避妊方法として使われています。一方日本では、2、9%にとどまっているのが現状です。
正しい知識を知って、それぞれが自分とパートナーに合った方法を主体的に選択する必要があるのではないでしょうか。
(関西テレビ記者 竹中美穂)
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