長期間滞在し、温泉に入りながら「湯治」ができる場所として江戸時代から人々に愛されてきました。
女将の熊野幸代さん(47)です。
予約表をめくると記された予約客の名前の上には、ほとんどキャンセルを示す赤線がひかれています。
【旅館しらさぎ 熊野幸代 女将】
「キャンセル、キャンセル、キャンセルで、ほとんどもうキャンセルになってしまったので」
コロナの影響で売り上げが例年の4割ほどに落ち込んでいます。
【旅館しらさぎ 熊野幸代 女将】
「こちらが宴会場です。コロナになって半年くらい、うちの名物の着せオケ宴会って言うのは、できてないんですけども、その「着せオケ宴会」をやっている母です、大女将です」
【母・智恵子さん(73)】
「(着せオケ宴会を)35年やってます」
さびしそうに話す、智恵子さん。
団体客を招くことが出来ずコスプレをして、カラオケを歌う”名物の宴会”も開けていません。
【母:智恵子さん(73)】
「もうさみしい限りでね。衣装部屋で泣いております。もう早く皆さんと一緒にね 笑いたいです。大笑いしたいです」
創業以来、家族で営んできた旅館。
存続の危機です。
そこで女将の幸代さんが考えたのが…「サポート女将」企画です
■新たな名物を…「サポート女将」を募集
【旅館しらさぎ 熊野幸代女将】
「みなさまこんばんはー、「サポート女将」に応募頂きましてありがとうございます」
旅館の新たな名物を作るためにアドバイスをしてもらう女性、その名も「サポート女将」をインターネットで募集したのです。
すると栄養士や会社員など全国各地の8人が名乗りを上げてくれました。
【旅館しらさぎ 熊野幸代女将】
「今までは椿温泉の中から椿を発信していくことしか考えてなかったんですけども、そうじゃなくて、同じ思いを共有しているのであれば、外から盛り上げていただいて、また中から盛り上がっていくっていうようなちょっと方向を変えたやり方でもいいんじゃないかなって、行く行くは日本一、女将のいる宿にしたいと思っています」
これまで「しらさぎ」では地元の食材を使った「海鮮釜飯」が名物で、客の心を癒してきましたが…
今回、この釜飯を超える「幸せの釜飯」をサポート女将の力を借りてつくることに決めました。
サポート女将には、どうすれば「幸せの味」になるか、オンラインの会議でアドバイスをもらいます。
【大阪のサポート女将 自営業】
「ウツボの釜飯をベースにして温泉卵自体をトッピングで入れるとかっていうとこで」
【東京のサポート女将 会社員】
「「幸せの味」ってなんだろうっていうのも最初に私がおもったのは、釜飯の蓋を開けてほあーんっていうあったかさ香り、見たときの楽しさって言うんですかね、具材の楽しさ」
会議の結果、コラーゲン豊富なウツボなど和歌山の食材をメインに、栄養と美容にもこだわった釜めしをつくることになりました。
■ウツボを使った「幸せの釜飯」を
【旅館しらさぎ 熊野幸代 女将】
「すごいすごい、でもこれこんなに怖いけど美味しいもんね」
さっそく、ウツボを買い付けに行きました。
そして、旅館の厨房スタッフとともに試作を重ねます。
【長女 舞花さん(18)】
「かわいくない?こっちより、こっちの方が好き」
長女の舞花さんも一緒です。
【長女 舞花さん】
「表紙はこう置いたときに可愛いってシンプルで目立つみたいな感じがよかったから、あとレトロな感じにした」
■いずれは故郷に…長女もアイデアを
幼い頃から旅館の手伝いをしてきた舞花さん。
東京の大学への進学を控えたこの日も、幸代さんの相談に乗ります。
いずれは故郷に戻り、椿温泉を最も魅力的な湯治場にすることが舞花さんの夢です。
【長女 舞花さん】
「(しらさぎの良さは)温かさですかね、めっちゃでっかいわけでもないし、キレイな宿って感じでもないし、でも家族も仲いいし、家族とパートさんも仲いいし、みんなが温かい雰囲気を持って、やっていってるっていうのが魅力かなと思います」
【旅館しらさぎ 熊野幸代 女将】
「私よりもずっといろんなことを考えていたりとかアイデアくれたりとか、もう同志ですよねほんとに、お互いが支え合うっていうね」
試作を重ねながら熊野さんは自分自身にとっての「幸せの味」について考えていました。
【旅館しらさぎ 熊野幸代 女将】
「でこぼこおにぎりしか作れないんだけど」
【旅館しらさぎ 熊野幸代 女将】
「よいっしょ…指が使いにくいっていうのがあるので、おにぎりを握るのが大変なんだけど」
10年ほど前に患った病気の影響で指先が思うように動かせません。
それでも毎朝欠かさず握るのが、塩むすびです。
【旅館しらさぎ 熊野幸代 女将】
「めっちゃほおばるやん大丈夫?」
【長男 元貴くん】
「いつも元気づけられるおにぎりです。お母さんの愛がこもってるから」
【旅館しらさぎ 熊野幸代 女将】
「おばあちゃんがつくってくれていた「塩むすびの味」っていうのが、いつも何かのときに思い出す私の中の「幸せの味」だったんですね」
【旅館しらさぎ 熊野幸代 女将】
「お塩を「和歌山の海水のお塩」を使ったらいいんじゃないかということで「温泉水」と「和歌山の塩」をあわせたお出汁になってます。ご飯の、食べた感じが柔らかいっていうか ほんとに「幸せの味」っていう感じがします」
新作釜飯に、代々引き継がれる「母の幸せの味」が入りました。
■人の温かさを…完成した「幸せの釜飯」
4月9日「幸せの釜飯」が完成しました。
和歌山県在住のサポート女将を旅館に招き、釜めしを食べてもらいました。
【自営業 和歌山のサポート女将】
「すごーい ドライトマトがすごく宝石みたいにキラキラしていてすごい美味しそう」
「ドライトマト」と「クコの実」で椿の赤をイメージ。
ウツボは食感がよく出汁が染み込む団子にしました。
【自営業 和歌山のサポート女将】
「温泉卵のオレンジ色がすごくきれいな色で、全体的に赤みがかったトーンでまとめられてるのですごくおいしそう」
「美味しかったですもう一言それだけ めちゃくちゃ美味しかった。椿に来れて、幸せっていうようなそういう気持ちでしたね、ほんとに」
女将は、完成した幸せの釜飯を長女の舞花ちゃんにも食べてもらいたいと考えていました。
【女将】
「お疲れー。どうよ今日は。学校どうだった」
【舞花】「今日ね3回もあったんよ授業が」
【女将】「オンラインで?」
【舞花】「全部オンラインやった」
舞花さんはいま、東京で一人暮らしをしています。
幸代さんは、冷凍した釜飯を送り届けていました。
オンラインで顔を合わせながら一緒に釜飯を食べます。
【舞花】「なんか、わるいけど、今までのやつより好きよな」
【女将】「舞花はな、ウツボ好きやもんね」
【女将】「完食?」
【舞花】「おいしい」
【女将】「うん、ね」
【女将】
「ここまで形にできたのは、舞花がおったからやし。この釜飯のことだけじゃなくって、ほんとに人生のママのサポーターだったんやなって、たった離れて3日やけど、すごい感じてます」
【舞花】
「言ってたやん、おばあちゃんがつくった塩にぎり。美味しいってさぁ味だけじゃないやん、なんって言うんやろう、ほっこりするなぁみたいな気持ちがさぁ そういうのを感じたかなぁ。材料とか見ても今までなかったなって思うけど、人の温かさとか、感じられるからいいなって思うよ」
【女将】「また送るよ」
【舞花】「食べよじゃあ」
【女将】「一緒に食べよう」
和歌山県白浜町 椿温泉 湯治が出来る宿「しらさぎ」。