【問題】
ある街で、父親が子供を乗せて、運転していたところ、トラックと正面衝突しました。
この事故で、父親は即死、後部座席の少年(子供)は意識不明の重体です。
少年は救急車で病院に搬送され、すぐに脳切開の手術をすることになりました。
執刀医は、海外でも高名な脳外科の権威です。
ところが、この脳外科医は手術室に横たわる少年を見て、こう叫びました。
「この患者は私の息子なので、私には手術できない」
Q:この脳外科医と患者の関係をお答えください。
(解答はページの最後に…)
これは、「無意識の偏見」に関するクイズのですが、この多くの人が持っている、「無意識の偏見」に気づくことで、女性の登用を進めようとしている企業を取材しました。
【アシックス営業部 河上剛 部長】
「アシックスジャパンの河上と申します。よろしくお願いします」
関西の20以上の企業が参加して行われた、男性管理職向けの研修。
キーワードは「アンコンシャスバイアス=無意識の偏見」です。
【チェンジウェーブ 藤原智子 顧問】
「無意識バイアスみたいな得体のしれないもの、一人一人の感覚とか無意識の中に存在するものを話題に出すって結構難しいんですよね」
アシックスの営業部長・河上剛さん。
女性に対して、様々な配慮をしてきたことがあったといいます。
【アシックス営業部 河上剛 部長】
「女性なので、ちょっとこの仕事は相手の得意先が怖い人なので女性はやめておこうかなとか、育児で、時短での業務になっている時とかは、本人にはやっぱり聞かないけど、無難な仕事だけをやってもらう」
政府は2020年までに女性管理職の割合を30%にする目標を立てていましたが帝国データバンクによると、実際は平均7.8%にとどまっています。
5年前、女性管理職の割合が7%ほどだったアシックス。
東南アジアなど生産現場への出張に女性を行かせるのは、「かわいそう」という風潮がありました。
【アシックス人事総務統括部 増田桂子 マネジャー】
「結果として、それは配慮であり、女性側も「ありがたいな」と思う部分もあると思うんですけど、無意識バイアスのせいでそういった機会を与えることをしなかった場合、せっかく成長する種だったかもしれないのに、それを見過ごして見逃してしまうということになりかねない。それは会社の成長にとって機会損失だと思っている」
管理職の「無意識の偏見」にもとづく「配慮」が個人や組織の成長を制限していると考えました。
そこで3年前から、管理職を対象に、自らの偏見に気づいてもらう取り組みを始めたのです。
管理職向けの研修を行った企業が開発した無意識バイアスを測定するテストの実際の画面です。
真ん中に出てくる単語を「女性または仕事」「男性または家庭」のどちらに属するか選んでいきます。
例えば、「給料」は仕事に属する単語ですが、「仕事と男性」を結び付けて考える人は反応スピードが遅くなりがちです。
河上さんは「男性は仕事、女性は家庭と強く結びつけて考える」傾向があるという結果になりました。
【アシックス営業部 河上剛 部長】
「バイアスが無いと思っていたので、これの結果だけみてしまうと、とても意外なところ。今後はしっかりと耳を傾けたいと思うようになります」
こうして無意識の偏見に気づいてもらうことで、職場に変化がー女性の管理職の割合は5年で4%増えました。
井上聖子さん(38)は6歳の息子を育てながら、チームのマネジャーとして働いています。
【アシックス営業部 河上剛 部長】
「子供ができたらたぶん退職するのかなということを漠然と思っていて、今思うとそういうのはバイアスだったかなと思います」
無意識の偏見は、女性の中にもあります。
アシックスでは、女性管理職向けの研修も行って意識改革を促してきました。
井上さんは、子供を夫に任せて、中国やオランダなど海外出張にも積極的に参加しています。
【アシックス井上聖子マネジャー】
「出張や昇進に対しても、個人でみていただいて、しっかり成果を出してるかとか、業務に適切な人かというところをフラットに見ていただいている」
「自分らしくキャリアのステップ踏んでいくのでいいんだなとちょっと安心した」
「無意識の偏見」は会社だけでなく、家庭などの場面でも見られます。
専門家によると、無意識の偏見は、無意識だからこそ、強固なループになるそうです。
例えば、会社内で「管理職に女性がいない」→「社員たちは女性に対する無意識の偏見がかかった判断や行動」→「女性社員はサポート役に回ることで経験値が積めない」→「女性に管理職は無理」
このように、偏った考えや既成事実によりループはどんどん強固になっていきます。
この「無意識の偏見」は誰にでもあるもので、いったん構築されると、払拭は難しく、「自分にもあるもの」と認識して、意識的にコントロールし続けることが重要だということで、まずコミュニケーションを十分に行い、決めつけないで「聞いてみる」ということから始めることが重要だということです。
冒頭のクイズの答えは、「執刀医は少年の母親」でした。