人生で出会った最高の一冊ってありますか?
その一冊を、児童養護施設の子供たちに贈ろうというプロジェクトが始まりました。
きっかけは施設で暮らす、ある女の子の切実な言葉でした。
■児童養護施設を巣立った大学生
関西の大学に通う、山内ゆなさん、18歳。
この春、児童養護施設を巣立ち、キャンパスの近くで一人暮らしをしています。
【山内さん】
「今の授業は家族についてで好きなんですけど、前の授業はよくわからない、「生命と科学」みたいな、苦手です」
大学生活の傍ら、山内さんは今、クラウドファンディングを活用して、あるプロジェクトを行っています。
“児童養護施設の子供たちに、あなたの最高の1冊を”
全国100カ所の施設に、本を100冊ずつ届けようと、インターネットを通じて支援金を募っています。
協力してくれた人には、自分が人生で出会った最高の1冊を選んでもらい、支援金でその本を購入。
贈り主のメッセージとともに施設に届きます。
■きっかけは小学生の女の子の言葉
全国の児童養護施設には、様々な事情から、親と一緒に暮らすことができない、約2万5000人の子供がいます。(去年3月、厚労省調べ)
山内さんは育児放棄によって、2歳から施設に入りました。
多い時で100人が共同生活をしていて、一生の仲間と言える存在もできました。
【山内さん】
「気づいたらいっぱい人がいるみたいな、お兄ちゃん、お姉ちゃん。自分より小さい子もたくさんいるって感じ。集団生活なのである程度のルールはあるけれど、そのルールをみんなでやぶったりしてみんなで怒られて、それでもまたふざけて、みたいな」
本を送るきっかけとなったのは、高校3年生の時、一緒に暮らしていた小学生の女の子に言われた言葉でした。
『本を読みたいから、国語の教科書を貸してほしい』
【山内さん】
「(施設に)本はちょっとはあって、寄付で届く本なので同じ本が何冊かある、あんまりジャンルも多くなかった。本を読み切って違うものを読みたかったのかな、本を読みたいから教科書を貸してほしいって、小学校5年生の子から高校生3年生のわたしに言ってきたので、それがすごい衝撃的で」
貸したのはこちらの教科書。
女の子は教材となる小説などを楽しそうに読んでいました。
■SNSで呼びかけ…始まったプロジェクト
施設では、個人情報保護のため、インターネットを使える環境がなく、得られる情報が限られています。
本を増やしたいと考えた山内さんは、去年12月にSNSで発信。
すると300冊が集まり、自らが暮らしていた施設を含む2カ所に届けることができました。
職員に案内をしてもらうと…
【施設職員】
「頂いた本の棚です。子供たちは本棚の周りにばっと集まって、かじりつくように読んでますよみんな読んだことない本は」
【施設職員】
「低学年の子とかは先生読んでーって一緒に読んだりしますね」
飛び出す絵本から、エッセイ、小説まで約100冊。
どんな思いで本が贈られたか、子供たちがすぐにわかるようにもなっています。
【施設職員】
「送ってくださった方のメッセージを読んで、本を選んでくれる子もいたりする」
貸出ノートにはひらがなを覚えたばかりの子どもたちの字が並びます。
【施設長】
「いろんなジャンルの本が集まってきたことはよかった。我々が選んだら限定したものになってしまう。興味あることに触れられるという喜び。そういった機会を山内さんきっかけに集まってきた話ですから大切にしなければと」
【山内さん】
「かわいくないですか?」
子供たちは本を送ってくれた人にメッセージで感謝を伝えました。
“かわいくておもしろい本をいろいろくれてありがとう。大事にするね”
“またたくさんの本を読むね。いっぱい読んで勉強します“
もっと多くの子供たちに本を届けたいと、4月からクラウドファンディングで支援を呼び掛けることにしました。
■人生で出会った「最高の一冊」を
山内さんは、いま大学で社会福祉を学んでいて、将来は、子供の福祉に携わりたいと考えています。
【山内さん】
「本を読むことでこういう人生の人もいるんだ、みたいな。自分もいろんな人生歩んでいいんだ、とか。本を通じていろんな言葉にであったりとか、いろんな人生を歩んできた人がいると思うので、その人たちの体験談だったりを読んで、自分の「好き」とか「やってみたい」を見つけられるようなものになったらいいなって」
【山内さん】
「誰かの人生で出会った最高の一冊が、また誰かの人生で出会った最高の一冊になったらいいなって思います」
山内さんはこのプロジェクトを「ジェットブック作戦」と名付けました。
施設のこどもたちがジェット機のように、力強く社会へ羽ばたいてほしいという願いが込められています。