みなさんは、アートセラピーという言葉、ご存じでしょうか?
悩みを抱える人に絵を書いてもらい、心のケアをする取組みなのですが、最近では、コロナ対策に追われる団体からの依頼もあるそうです。
注目が集まるアートセラピー、心と向き合う現場を取材しました。
「悩みの元」を一緒に探す
【桑原則子さん】
「何使ってもらってもいいので。真ん中に自分を書きます。人型にしてもらってもいいし自分らしい雰囲気で結構です。。そこから、これが備わっていたら私最強という、わがままな絵にしてみて下さい」
桑原則子さん(50)が行っているのは、「アートセラピー」
絵や工作などのアートを使って、心に悩みを抱える人たちのストレスを軽減させたり、リラックスさせたりします。
この日、桑原さんのもとを訪れた女性は、心のバランスが崩れ、あまり家から出られない状態になっていました。
【相談に来た女性】
「自分の確立されたものがあって、それを守るものが薄くあって」
【桑原則子さん】
「この黄色が確立されたものなんや。薄いんや周りが」
【相談に来た女性】
「気持ち的にこっちの方が」
【桑原則子さん】
「これを包んであげたらいいけど。包み方もめっちゃ雑。自分やでこれ。もっと大切にしてもいいかと思ったけど」
【相談に来た女性】
「大切にするっていうのが一番分からない」
【桑原則子さん】
「自分を?」
【相談に来た女性】
「うん」
【桑原則子さん】
「そっか。そうやなあ…だいぶ長いこと そうしてきたんやと思うわ」
何に悩んでいるか、分からないという女性。
桑原さんは、絵のタッチや色づかいなどを見ながら悩みのもとを一緒に探し、本当の自分に気づく手助けをします。
【桑原則子さん】
「だいぶちゃうよな。最初真っ黒とかあった。変わっていますよ。着実に。なんとなく感覚で私もキャッチしたやつを聞きながら、そういう意味かという感じですね。見ただけで霊能力者みたいに分かるのではなく、なんとなくこうなんちゃうかなと思ってしゃべっていくと、なるほどなるほど」
【相談に来た女性】
「自分の一番暗いものを重い石を取り払ってくれた。私自身が話すのは苦手、言葉にするのができない、私は絵を描く方が出しやすい」
アートセラピーを始めて4回目、女性は、このあとアルバイトに行けるようになりました。
精神科の医師もカウンセリングに活用
美術大学出身の桑原さん。
主婦をしながら絵手紙教室を開いていましたが、大学院の研究機関でアルバイトをしていた時に、アートセラピーの存在を知り、36歳で色彩心理学の学校へ。
カウンセラーなどの資格も取得しながらアートセラピストとしての道を歩み始めました。
【桑原さん】
「紫を選びました、紫って怪しそうとなる場合もあるけど、紫はすごく高貴なイメージ。ものすごい大好きな色とかと言った時に、紫で塗ってたらしんどそうとかいうわけではない。その人の中に答えがあるのでそれを聞かせてもらっている。アートを使って」
アートセラピーは絵画療法とも呼ばれていて精神科の医師もカウンセリングに活用しています。
【精療クリニック小林・小林和医師】
「全ての人が自分の心を言葉にできるとは限らない。多くの人はモヤモヤしていて、なかなか言葉にならない。わかるための手段として、そういうツールを使う。そこで知らず知らずに絵を描いたときに、その人の何か無意識が作用している。それを見て、それを繰り返して、自分のことを知っていく。アートはそういう作用がある」
コロナで疲弊するスタッフのケアにも
心に悩みを抱える人たちから相談がある一方で最近では企業などからの依頼もあります。
この日は歯科医院です。
【桑原則子さん】
「2人1組になっていただいて遊びたいと思います。目をつむってくにょくにょあちこち書いて下さい。目をつむっているので、はみ出るかもしれないので、もう1人は、はみ出ないように誘導してあげて下さい」
「新型コロナウイルスの感染対策で、日々神経を尖らせている従業員の心を和らげてほしい」と依頼がありました。
【桑原則子さん】
「こうやって遊ぶことで、親近感がわいたりするので、こういう遊び方もすごくアートセラピーになります」
【スタッフ】
「他のみんなの絵を見たりとかして笑ったりしたときにリラックスできました」
【五條歯科医院・五條房己理事長】
「新入社員の歓迎会とか送別会もやっていなかったので、みんなと触れ合う機会がなかったですけど、こうやって少人数でも色々みんなの考え方など、分かることができて良かったと思います」
学校に行きづらい子も…心に変化が
学童支援員の経験もある桑原さん。
学校に行きづらい子供たちの心のケアも行っています。
去年からは、コロナの影響で直接来られない人のために、オンラインでのアートセラピーも始めました。
岐阜県の通信制高校に通うかなん君は、中学の時に学校に行きづらい状態になり、半年前から参加しています。
【桑原則子さん】
「この紙内に思いつく人、その人に似あう傘をプレゼントしてみてください」
【桑原則子さん】
「出来ました?…閉じてる紺の傘は誰に送ったんやろ?」
【かなん君】
「お父さん」
【桑原則子さん】
「なんでお父さんだけ閉じてる感じなんやろ?」
【かなん君】
「思い浮かんだ傘が閉じていた」
【桑原】
「なんか絵に力が出たねかなん君。絵に力が出てきた」
かなん君は当初、無表情で、口数も少なく、絵にも力強さがありませんでした。
しかし、アートセラピーで見えない心を形にしていくことで、今では顔の表情も豊かになり、目を合わせて話ができるようになりました。
【かなん君】
「ずっと引きこもっていたんですけどアートセラピー始めたら釣りに行ったり、遊びに行ったり外に出られるようになりました。自分はこのままではいいのかなと変えられる時間が出来た」
【桑原則子さん】
「コロナも大きいですけど孤独感あるし、人からどう見られているとかすごい息苦しい世の中。アートで何描いてもいいし、それ描いたことで分かってくれる。共感してくれる、ものすごく幸せ。喋っててOKもらえるよりももっと奥底なんですよね。それがアートセラピーのすごいところ」
暮らしの中でどこか生きづらさを抱える人たち。
心の隙間をアートが満たします。