「JR西日本イコール鉄道っていうイメージを覆さないといけない」前代未聞の経営危機…JR西日本が検討する”ローカル線廃止”と”デジタル戦略” 2021年04月21日
新型コロナウイルスの影響で乗客が減ったJR西日本が、経営の見直しを迫られています。
安全性を担保しながら、どのように私たちの「生活の足」を確保していくのか。
多くの課題に直面するJR西日本の今を取材しました。
■「地域共生」で生き残りへ…豪華寝台列車「トワイライトエクスプレス瑞風」運行再開の背景
4月8日、JR西日本の本社に集まったのは、山陽・山陰地方を周遊する豪華寝台列車「トワイライトエクスプレス瑞風」のクルー約100人。
新型コロナウイルスの影響で運休して以来、1年2カ月ぶりとなる運行再開を前に、目指すべき姿を話し合うためです。
【トワイライトエクスプレス瑞風料理長・川並信重さん】
「地域の食材をしっかり使った、お客様に合わせた料理を提供できるようになることが世界一を目指すには必要」
料理長の川並信重さん。
感染症対策で、食事の提供が「食堂車」から「客室」に変更されたため、客室まで運んでも料理の質を保てるよう、訓練を重ねてきました。
ただ、運休してからの約半年間は、在宅勤務をせざるを得ない状況が続きました。
【トワイライトエクスプレス瑞風料理長・川並信重さん】
「列車で料理をしたくてこの会社に入って、こんなに列車に乗れないと思うことはなかったので、もどかしいと言いますか、結構苦しい期間。運行再開の日も決まりましたし、そこに向かってどう走っていくかっていうのが見えてきましたので、当然、全体の士気は上がってきた」
感染が広がる中でも運航再開に踏み切った理由。
そこには「地域共生」という戦略があります。
2020年4月以降、近畿圏の在来線の利用客は、通勤客などが減ったことで、例年の7割程度になっています。
ただ列車を走らせていれば乗客が集まる時代は終わり、瑞風のブランド力によって、鳥取県や島根県などにある停車駅の地域そのものを活性化させ、鉄道の利用を促そうという狙いです。
【JR西日本瑞風推進事業部・魚本佳秀部長】
「地域の皆様と一緒になって、観光を通して交流人口を拡大していくと、地域経済にも貢献できますし、我々にとっても鉄道利用が増える」
大阪などに「まん延防止措置」が適用される中で迎えた4月14日の運行再開。
28人の定員中、6人のキャンセルが出たものの、大きなトラブルなく、2泊3日の旅を終えました。
【トワイライトエクスプレス瑞風料理長・川並信重さん】
「喜んでいただいて、おいしかったというお声がけもいただいた。何事もなくお客様安全に旅を終えられて、ほっとしている」
(4月24日出発分は緊急事態宣言の影響で運転取りやめ)
■ローカル線の廃止も選択肢…長谷川社長「地方ローカル線を維持しながら安全投資をやっていくことが難しくなっていく」
2020年度に、約2400億円の赤字を見込んているJR西日本。
今後、どのように会社を立て直すのか。
長谷川一明社長が明かしたのは、「地域共生」という理想とは相いれない、「ローカル線の廃止」という厳しい選択肢でした。
【JR西日本・長谷川一明社長】
「特に非常にご利用の少ないローカル線は、厳しい経営状況だというのがございます。これまでも京阪神圏、あるいは新幹線、そういったもので収益が相当上がってましたので、経営として成立してきたということでございますけれども、非常に新幹線の経営そのもの、あるいは京阪神圏の経営そのものも、容易ではなくなってくるということになると、地方ローカル線を維持しながら安全投資、こういったものをしっかりとやっていくことが、なかなか難しくなっていく」
安全最優先を掲げるJR西日本。
2022年度までの中期経営計画では、老朽化した点検用車両の取り換えの先送りなどで、「安全投資」を300億円減らし、5000億円としましたが、これ以上減らすことはできません。
【JR西日本・長谷川一明社長】
「最大限安全に配慮しながら、資金的な制約もある中で、(安全投資額を)調整させていただいた」
■「会社に変革をもたらさないといけない時代に来ている」デジタル戦略で生き残りへ
苦境のJR西日本が、重視している事業があります。
4月8日に行われたのは、社長自ら統括する「デジタルソリューション本部」の定例会議。
2020年11月に設立されたばかりで、会社全体のデジタル化を進めています。
【記者リポート】
「JR西日本のゆめ咲線に来ています。こちらにある設備を使うと、将来的に信号機などを無人で点検できるようになるということで、JR西日本では、設備投資を進めています」
「IoTインフラネットワーク」と呼ばれる、この設備。
信号機などに設置したセンサーやカメラから情報を収集し、異常がないか常時点検できるようになるということで、投資額は、約11億円。
これまで数カ月に1度現地を訪れて実施していた定期点検がいらなくなり、作業の効率化につなげます。
さらに、デジタルソリューション本部は、新規事業の創出も担当しています。
【JR西日本デジタルソリューション本部・塚田愛理さん】
「私も週1でしか出勤してませんので、本当に在宅勤務っていうものも主流になってくると、”別に鉄道を利用して通勤しなくてもいいよね”って風潮になってくる。JR西日本イコール鉄道っていうイメージを覆さなきゃいけない、会社に変革をもたらさないといけない時代に来ている」
入社4年目の塚田愛理さんが担当しているのは、スマートフォン向けのアプリ、「WESTER」
現在は、経路検索や、駅周辺のスポットなどを表示する機能があります。
今後は、旅行や食事の予約から、日用品の購入にいたるまで、あらゆる場面で、「WESTER」1つで、完結するような形を目指しています。
【JR西日本・長谷川一明社長】
「鉄道事業であることは、基本であることは変わりませんけれども、それを補完していくような事業というのは、やはり、しっかりと育てていかないと」
限られた収益をどこに振り分けるのか。
今、難しいかじ取りを迫られています。
(カンテレ「報道ランナー」4月21日放送)