新型コロナウイルスの感染拡大で、必要性が高まっている感染対策のプロがいます。
「感染管理認定看護師」はこれまで、主に病院で指導や助言を行ってきましたが、高齢者施設を巡回する新たな取り組みを始めました。
クラスターを防ぐため何が必要とされているのか、取材しました。
■クラスター経験した高齢者施設の証言「施設だけで行う感染対策には限界が…」
大阪市・城東区にある城東特別養護老人ホーム。
今年4月、入所者と職員あわせて9人が感染するクラスターが発生し、入所者2人が入院先の病院で亡くなりました。
【城東特別養護老人ホーム 総主任 浅野孝志さん】
「残り9部屋含めて食堂、トイレ全てレッドゾーン。認知症のある方もいらっしゃったので、なかなかお部屋だけでの隔離というのが難しい。こちらの(隔離)フロアを運用することになりました。2週間休みなしでその間業務にあたらせてもらいました」
施設では、感染対策を徹底し職員の定期的なPCR検査を実施。
クラスター発生時に備え、大阪府のマニュアル動画などを参考にして、感染の恐れがある場所と安全な場所を分けるゾーニングの事前準備も行っていました。
しかし、専門的な知識のない職員だけで行う対策には限界がありました。
【城東特別養護老人ホーム 中島素美施設長】
「施設の作りがこうなっているから(感染対策は)どうするべき、という具体的な話はマニュアルからは引っ張り出しにくいです。保健所には何度もこの(感染対策の)質問はしましたが、具体的にアドバイスもらえるほどは(保健所は)ご存じなかった。恐怖感があるのでつい厳しくする。より丁寧にゾーニングしようとしてしまう。そうするとほかの業務が回らないジレンマに陥ってしまう」
クラスターが発生する前も、発生した後も、行政からは感染対策の助言を受けることができませんでした。
施設では、どこに問題があったのか、いまだに結論を出せずにいます。
【城東特別養護老人ホーム 中島素美施設長】
「もし同じことが起きたら同じことで悩んじゃうんだろうと思います。結局我々で線引きしないといけないですよね。線引きが本当に正しいのか、ここまでは頑張った方がいいよとか、もっとこんないい方法があるよということを、知恵として持っておかないと、どこの介護施設も疲弊するんじゃないですかね」
■大阪のこれまでのクラスターは高齢者施設が最多…行政のサポートは?
リスクの高い入所者が多い高齢者施設。
大阪府で去年2月以降に発生したクラスターのうち、最も多いのが高齢者施設で、その数は、240を超えます。
大阪府はこれまで、施設に対して、どのようなサポートをしてきたのでしょうか。
【大阪府 福祉部 谷脇博之課長】
「感染予防でいうと、研修会を実施したり、動画で感染予防対策を施設で見ていただいて、お勉強いただく。予防段階で個別に支援ができるかどうかは、福祉部には専門家もいないので、なかなか対応はしづらい」
■大阪府看護協会が提案「感染管理認定看護師による施設巡回指導」
施設のクラスターを防ぐために、何ができるのか。
大阪府看護協会が提案し、大阪府が今年度から始めた事業があります。
この日、堺市のサービス付き高齢者住宅「ひまわりの家 蔵前」を訪れたのは「感染管理認定看護師」です。
感染管理認定看護師とは、専門的な知識を持ち、主に病院内で活躍する「感染対策のプロフェッショナル」です。
この資格を取るには、疫学や統計学など約30科目、合計600時間を超える授業や実習を受ける必要があります。
堺市の高齢者住宅では、感染管理認定看護師が、感染対策の指導を行いました。
【感染管理認定看護師】
「吸引しないといけない人が急に発熱したら、N95(マスクを)付けるようなマニュアルになっていますか?」
【施設長】
「いや、そこまではなってないです。普通のマスクのままですね」
【感染管理認定看護師】
「(たんの)吸引をする時に、エアロゾル(ウイルスの粒子)がすごい飛ぶので、できればN95マスクにした方がより安全かなと」
大阪府看護協会では、府内の高齢者施設に順次「感染管理認定看護師」を派遣し、感染対策の指導を行っています。
【施設の職員】
「完全に隔離できる部屋があったとしても、そこまでの動線で必ず接触するので、(陽性者が)出たときにそこをどう隔離して守っていくかが大きな課題で悩んでいます」
【感染管理認定看護師】
「すれ違うくらいだったら、マスクされていたらそこで感染するわけではありません。そんなにきっちりゾーニングはできないんですね。部屋の中でレッドゾーンにして、万が一(陽性者が)外に出ていくことがあるなら、マスクをして会話をせずに対応できる」
この施設では、これまで、感染対策について相談できる専門家がいなかったため、構造に合った正しい対策ができているのか、自信がありませんでした。
【ひまわりの家 蔵前 太田斉子 施設長】
「医療従事者が多いとはいえ、感染のことに関しては不十分な知識の者ばかりなので。隔離部分を分けていくかはどうシミュレーションしてもなかなか難しい。今回見ていただいて、すれ違う部分は、きちんと予防していたら大丈夫とか教えていただけたので、そうなると柔軟的に考えられるかなと」
【大阪府看護協会 感染管理認定看護師 柴谷涼子さん】
「施設に来させていただいて、話をして初めて分かることと、相談をして、このやり方でしましょうかと、折り合いをつけて話できることがある。資格を持ってその道で経験を積んできている人の力が必要だと思う」
■求められる個別の支援…一方、マンパワーの限界も
しかし、施設の巡回指導を行うマンパワーには、限界があります。
大阪府内にある高齢者施設は約3400。
これに対し、大阪にいる感染管理認定看護師は184人。その大半が普段は病院で勤務しているため、巡回に参加できるのは25人にとどまっています。
【日本看護協会の会見】(6月29日)
「ニーズが急増しておりまして、これらの社会的要請にこたえるために、感染管理認定看護師を向こう3年間で重点的に養成することにも取り組みを進めていきたい」
日本看護協会も掲げる「感染管理認定看護師の育成」
しかし、資格の取得までは最低6か月、高額な費用もかかるため、ハードルが高いのが現実です。
6月、大阪府看護協会は、大阪府とともに、研修会を開きました。
認定看護師の人員が限られる中、病院や施設で働く看護師に直接指導し、感染対策の知識を深めてもらう目的です。
普段やっているオムツ交換やたんの吸引も、感染対策という視点から学び直します。
【参加した看護師】
「(病院の)マニュアルも改定されていないところもあるので、こういう勉強会に来たら、いつでも新しい知識を持ってやっていかないといけないと感じます。持ち帰ってこれが正しいと伝えていけるようになりたいですね」
【大阪府看護協会 感染管理認定看護師 柴谷涼子さん】
「基本的な知識を身に着けてもらえたら、少しずつ経験積み重ねると応用ができるようになるので、そういう力を研修でつけてもらいたい」
大阪府の吉村知事は、今後の巡回や研修について…
【大阪府 吉村知事 】(7月5日)
「非常に重要な事業だと思っています。一挙に増やすことは難しいと思うが、できるだけ総数は増やしていきたい。看護師は普段の仕事がある中の限りある資源にはなるが、どう広げていけるか、高齢者施設は多いですからこれから追求していきたい」
第4波を経験した今でも、いつ感染が広がるか、施設の不安は絶えません。
次の波を見据えた、さらなるサポートが必要とされています。
(カンテレ「報道ランナー」7月5日放送)