大雨の浸水被害を最小限に食い止めるために、大阪府では「地下河川」の整備が行われています。
1990年着工で、完成予定は2044年。
約55年という巨大プロジェクトです。
都市への浸水被害をいかにして防ぐのか、その最前線を取材しました。
今年5月、大阪府寝屋川市で発生した巨大な水柱。
大阪では猛烈な雨が降り、24時間の雨量で5月として過去最多を記録する場所もありました。
この時起きていたのが、マンホールから水がふき出す「ウォーターハンマー」と呼ばれる現象です。
片平敦気象予報士とともに、現場へ向かいました。
【片平敦 気象予報士】
「ありました。このマンホールですね。一抱えもあるマンホールですが、これがふき飛ぶほどの水ということは、どれほどの威力だったのかなと思います」
【近隣住民は】
「家が3階建てなんですけど、(水の高さは)それより上でした。怖いのは怖いです」
一体なぜ、こんなことが起きたのでしょうか。
【大阪府東部流域下水道事務所 幾度学総括主査】
「重さはだいたい190キロ近くあります」
「鍵をロックしているんですけど、それがちぎれる圧力、約10トンから20トンがかかったのかなと。地下16メートルの所に雨を溜めて流す下水管が入っています」
特別に許可をもらい、マンホールの下にある地下空間へ足を踏み入れました。
【片平敦 気象予報士】
「広いですね。広くて意外と涼しい。ただ、足元がにゅるにゅる、ちょっと臭いです」
下水管には生活用水と雨水が混ざって流れています。
中には様々なごみがあり、蛙の姿もありました。
【大阪府東部流域下水道事務所 幾度学総括主査】
「(下水管は)直径5,5メートルあります。これは3キロくらいあるが、ほかにも色んな幹線が繋がっていまして、全部で貯留20万トンできる」
20万トンもの水を溜めることができる、この巨大な下水管。
実は5月の大雨で満杯になっていました。
【大阪府東部流域下水道事務所 幾度学総括主査】
「マンホールがふきとんだ原因は、急な雨で水位が上がり、圧力が大きくなって上流側に逃げていくことによる」
【片平敦 気象予報士】
「一気に集まると、どこかでふき出してしまうということですね」
■「水の逃げ場」がほとんどない寝屋川流域
なぜ、寝屋川周辺では雨水が溜まりやすいのでしょうか。
大阪府の人口の3分の1を抱える寝屋川流域は、山などに囲まれていて、土地が低いため、水が流れ込みやすくなっているのです。
さらに、都市化が進むにつれて貯水機能を果たしていた水田などが少なくなり、「水の逃げ場」がほとんどなくなっています。
寝屋川流域では9年前の豪雨で大規模な内水氾濫が発生しました。
浸水した建物は約2万棟にのぼった上、増水した用水路で、高齢の女性が死亡しているのが見つかりました。
■大阪の地下で進む巨大工事「地下河川」
今年5月の大雨でも、同様の被害が出てもおかしくない雨量でしたが、浸水の被害は数軒でした。
なぜ、このような違いが出たのか。
その理由は、下水管のさらに下にある「地下河川」です。
片平気象予報士と、その中へ向かいました。
【大阪府寝屋川水系改修工営所 山本公一主任専門員】
「建物で言うと12階から13階の高さです」
大阪府内で進む総事業費、約3600億円の巨大プロジェクト「地下河川」
北部にあるこの「地下河川」は、寝屋川市から大阪市都島区までをつなぎ、溜まった水を即座に、大阪市内を流れる大川まで逃がす計画です。
現在は鶴見区まで完成していて、5月の大雨の時には、雨水26万トンをため込み、地上の浸水被害を減らしたのです。
これは現段階で許容できるギリギリの量でした。
【片平気象予報士】
「私の仕事は気象予報士なので、降ってくる雨について『こうなるから皆さんこう行動してください』『命を守ってください』とソフトな情報を伝えているけれど、ソフトだけじゃダメで、ハードの観点から大きな施設を造ってくれていることで、被害が減らせているとすごく実感しました」
ただ、「地下河川」全体が完成するのは20年以上先で、その時にならないと水を川へ流すポンプ設備がないため、さらに強い雨が降ると、地上へあふれ出すリスクがあります。
【大阪府寝屋川水系改修工営所 山本公一主任専門員】
「地下河川として流す施設はあくまで将来の目標で、そんなに目の前、数年後ではないので、油断はできない」
また、地下河川が完成した場合は、1時間あたり最大63ミリの雨に耐えられるということですが、想定を上回る雨が降れば対応しきれません。
大雨による浸水被害を防ぐために、私たちは何ができるのでしょうか。
片平気象予報士は、「生活排水を控えること、水を流さないこと」に気を付けてほしいと話ます。
台所の水やお風呂にためた水を一斉に流すと、寝屋川流域は人口密集地帯であることから、地下河川をあふれさせるきっかけにもなりかねないというのです。
大阪府の担当者も、水を流す時間を、雨の勢いが収まってから流す、1時間2時間流す時間をずらすだけでも、効果があると話しています。
(カンテレ「報道ランナー 」8月17日放送)