財政破綻の危機が叫ばれる、京都市の市営動物園。
市から「節約の工夫を」という要請を受け、今年度から本格的に始めたのが、エサの寄付の受け付けです。
いざ始めてみると、漬物の老舗から、造園業者まで、様々な人からの協力が。
地域の輪で支えられる動物園を取材しました。
■チンパンジーのお昼ごはんは、老舗漬物店からの寄付
京都市左京区の京都市動物園。
チンパンジーたちがお昼ごはんとして食べているのは、白菜や大根などの野菜。
どこから来たかというと…京都漬物の老舗、「大安」です。
【大安 大角安史社長】
「こちらが弊社の主力の半割大根という商品なんですけれども、青首の上の部分、ここになります」
「この大根の葉っぱの場合は、非常に繊維がきつくて、浅漬けの場合だとちょっとおいしくないですね。なので、この部分は切り落として廃棄しています」
大安では、野菜の使わない部分を年間で約200トン廃棄していて、その一部を、動物園に寄付しているのです。
【大安 大角安史社長】
「本当に、うれしい限りですね」
「我々が協力できるっていうのは、SDGsというか、サステイナブルな、そんなサイクルが回ればいいのかなと思っています」
京都府漬物協同組合と動物園の間で始まった取り組みで、大安が動物園と調整して、今年の春から週に2回、あわせて30キロの白菜と大根を運びこんでいます。
届けられた野菜は、飼育員が、動物に合わせてカットしていきます。
【京都市動物園の飼育員】
「寄付をいただけるようになって、これをベースに栄養計算をしました」
「フサオマキザル用のエサで、体が小さいので、ちょっと細かめに切っています」
「こっちの軸というか、ちょっと残った部分は、ツキノワグマにあげています」
■京都市が直面する深刻な財政危機…動物園も例外でなく
動物のエサの寄付が始まった背景にあるのは、京都市が直面している厳しい状況です。
市債の残高が1兆3000億円を超えるなど、財政破綻の危機に陥っていて、京都市の門川市長は、「このままでは10年以内に財政が破綻しかねない」としています。
市営のバスや地下鉄の敬老パスの交付年齢の引き上げなど、市民サービスも見直しの対象になっています。
そんな中、市営である動物園も、例外ではありません。
1937年に作られ、真夏にはエリア内の気温は52度になったこともある、サルたちが暮らす「サル島」
今年、温度調整ができる施設に改築される予定でしたが、一転、工事は白紙になりました。
動物の命になるエサは確保されてはいますが、市があらゆる分野で経費削減を進める中、動物園も「節約の工夫を」と要請されているのが現状。
そこで、今年度から、本格的にエサの寄付を受け付けることにしたのです。
【京都市動物園 和田晴太郎 副園長】
「(エサ代は)予算はつけてもらっているんですが、その中で動物園として、いかに努力できるかというところに取り組んでいる」
「(エサ代は年間)だいたい6000万円ほどかかります。今年、年間を通して取り組んだ場合、(寄付が)600万円ぐらいの効果になるんじゃないかという風には考えています」
■規格外で捨てるはずだった野菜も動物たちに
寄付は様々なところから。
この日は、JA京都市から野菜が届きました。
【JA京都市 嵯峨野支店 榎本貴文支店次長】
「農家さんの畑に行ったら、規格外で捨てる野菜っていうのがすごく多かったので、個人的に、もったいないな、とすごく思ってたんですね」
「結構がつがつ食べてくれたので、やっぱり新鮮な野菜はおいしいんかな、みたいなのは思った」
キュウリが大好きなナマケモノ。
寝起きでもぺろりとたいらげました。
財政難をきっかけに本格的に始まった、この取り組み。
エサの調達は、動物の安全などを考慮して登録業者からの購入のみとなっていましたが、危機的状況を受けて運用を変更し、実現しました。
■野菜だけでなく…木の枝もゾウの「エサ」に
寄付は、エサに見えない、こんなものも…
造園業者が廃棄するはずだった枝。
動物にとって毒になる木が混じらないように、動物園が指定した種類だけを持ってきてくれることになっています。
この日寄付された「シラカシ」は、ゾウの大好物です。
【京都市動物園の飼育員】
「(シラカシは)やっぱり高いので、こんなにいっぱい量はあげられなくて、今はいっぱいあげられるので」
「みんなハッピーというか、とても良いことだと思います」
実際に動物が食べるところを初めて見るという、造園業の廣田さん。
動物や園にとっては、もちろんハッピーな取り組みですが、廣田さんにとっても嬉しいことです。
【廣田造園 廣田福太郎さん】
「もう、ただただびっくりしましたね。すごく食べていて」
「いつも京都市の清掃局に持って行って、お金出して処分していましたね。ありがたいです」
【京都市動物園 和田副園長】
「現在は21の企業、生産者様と取り組みを進めさせていただいています」
「エサをそれだけきちんと節約できたりですとか、端材を使ったりですとか、環境を考えた取り組みができるという意味では、非常に大きいと思いますね」
「動物園をいかに持続的に、安定して運営していけるか。市民の方ですとか、動物園をサポートしていただける方と、どういう風に連携していけるのか。いろんな方に協力していただきながら、動物園の運営というものをより良いものにする」
財政難がきっかけとなった、この取り組み。
やってみると、地域の輪の中で、節約だけではない効果が生まれているようです。
(カンテレ「報道ランナー」9月30日放送)