衆議院選挙で、大阪では維新が躍進し、自民党が小選挙区で全て敗北しました。
特に自民党では、長年の支持基盤を持つ「重鎮」やそれを引き継ぐ「世襲議員」の落選が相次ぎました。
関西テレビは今回、大阪2区に立候補した日本維新の会の守島正さんと、大阪15区に立候補した自民党の加納陽之助さんを密着取材。
これまでの常識がひっくり返った裏側を追いました。
■選挙で不可欠?「地盤」「看板」「カバン」
「地盤」(後援会)「看板」(知名度)「カバン」(金)
選挙で勝つための財産ともいえる3つの「バン」は、そのまま子供や親族に引き継がれることが多く、その結果、「世襲」と呼ばれる議員がたくさんいます。
今回の衆議院選挙で、ある新人は「世襲」に挑み、また、ある新人は「世襲」を実現しようと戦いました。
■義父は元大臣…世襲で挑む選挙戦
【自民党・加納陽之助さん】
「自由民主党の加納陽之助でございます。自民党にあたらしい風を吹かせてまいります」
【自民党・竹本直一 元衆議院議員】
「永田町最大の話題の1つが、竹本から加納へのバトンタッチなんです」
大阪15区から出馬した加納陽之助さん(41)。
街づくりを通して日本を元気にしたいと、国土交通省の官僚を辞めて臨みました。
加納さんの義理の父親は竹本直一さん(80)。
自民党大阪府連の会長時代、大阪都構想の住民投票で先頭に立って反対運動を展開。
その後、IT担当大臣をつとめるなど、25年にわたって議席を守ってきた重鎮です。
80歳の竹本さんは、今回の衆院選も出馬する意向でしたが…
【自民党・竹本直一 衆議院議員(当時)】(今年7月)
「やはり私も後期高齢者でありますので、後のことも考えてあげないといけないなという思いで、もし彼が(自民党の公認候補に)選んでもらえるのであれば、引き継ぎたいと思うに至った」
竹本さんの跡を継ぐことになった加納さん。
「地盤」を引き継げるかが、大きな課題です。
【有権者】
「竹本さんの後?若いね。41に見えへんなぁ」
【自民党・加納陽之助さん】
「よろしくお願いします」
【有権者】
「竹本さんは?」
【自民党・加納陽之助さん】
「引退されて、次は私が頑張ってまいります」
有権者から出るのは、竹本さんの話題。
知名度が課題です。
【自民党・加納陽之助さん】
「加納という名前がなかなか現段階では知れ渡っていないので、そのまま竹本先生の名前を書く人もいるかもしれない。しっかり認知度をあげていきたい」
竹本さんも、加納さんと並んで演説し、加納さんへの支持を訴えます。
【自民党・竹本直一 元衆議院議員】
「次の衆議院選挙、竹本直一ではございません。加納陽之助41歳が立候補予定者として立っております。どうぞ頭の中にいれてあげてください」
演説の後、2人に話を聞くと…
【自民党・竹本直一 元衆議院議員】
「演説というのは人との対話ですから。大勢いる人の中で俺はこれを言うんだと。こういう気持ちでやれば(結果が)ついてくる。最初の発声は大きくなったのでよいと思います」
【自民党・加納陽之助さん】
「おっしゃる通りで場数を踏むのが大事かなと」
■地盤なしで「世襲」に挑む
一方で、世襲に挑む新人もいました。
【日本維新の会・守島正さん】
「我々は大きな組織や業界団体の支援はありません。みなさんの1票、改革の志だけが頼りです」
日本維新の会の守島正さん(40)は、吉村知事と同じ2011年に大阪市議会議員に初当選し、3期10年務めました。
大阪維新の会の政調会長として大阪都構想の政策を取りまとめ、党内でエースと呼ばれている守島さんが今回挑んだのは、「大阪2区」。
3代続く政治一家が長年、議席を守ってきた選挙区です。
3回連続当選している自民党の左藤章さん(70)は、義理の祖父が大阪府知事。
義理の父は郵政大臣などを歴任し、10月行われた葬儀には、岸田総理も駆けつけました。
左藤さんの選挙事務所には、長年関係を築き上げてきた業界団体などからの推薦状が、ずらり。
一方の守島さん、事務所の秘書は1人です。
【守島さんの秘書】
「こんな候補者いるのかなって思いますけどね。全部1人で作業しているのでびっくりしています」
強力な地盤を前に、維新がまだ勝利したことのないこの選挙区を選んだのは、守島さん自身です。
【日本維新の会・守島正さん】
「地盤、看板だけで受かり続けることができない世の中になっているということも見せたい」
――Q:もともと国会議員になりたかった?
「全然。政治家なんてなる直前まで一度もなかった」
――Q:小さい時の夢は?
「実家が町工場で金属部品を加工する小さい工場。工場の社長って書いてました」
もともと国会議員はおろか、政治家を目指したこともなかったという守島さん。
実家は大阪市東淀川区にある部品加工の町工場を経営しています。
守島さんは、幼い時から経営者としての父親の背中を見て育ってきました。
【守島正さんの父・俊行さん】
「貧乏症やから。そんなに親がざくざく金を(使わなかったし)北新地も1回も行ったことないしね」
――Q:そういう背中を見ていた?
「僕は仕事だけだから。小さいころキャッチボールに行ったら、10分くらいで、しんどいと言って帰られたと(守島さんが)今でも言いいますわ」
地盤がなく、組織票も見込めない選挙戦。
維新でのこれまでの「実績」と、市民感覚を武器に、多くの有権者に投票を呼びかけます。
【日本維新の会・守島正さん】
「町工場の息子が本当に大物議員と対峙できているのは、ありがたい限りです」
「ここで実績残したら、次に続く世代に、看板や地盤がなくても世襲じゃなくても(国会議員を)やろうと思ってくれる子が続いてくれる可能性があるので、あえて町工場のせがれ感を伝えようかなと」
■最後の訴えでマイクを握ったのは…
それぞれの12日間の戦い。
竹本さんの跡を継ぎ戦ってきた加納さん陣営が、最後に訴えます。
【自民党・加納陽之助さん】
「知名度ゼロからの戦い。あと1歩のところまで、皆さんのお力でなんとかくることができました」
しかし、最後の最後にマイクを握ったのは、加納さんではなく、竹本さんでした。
【自民党・竹本直一 元衆議院議員】
「3万の今川軍を3600の織田軍でやっつけた、あの桶狭間の戦いを思い出しましょう。我々は河内において桶狭間の闘いを必ず実現させます」
■維新が躍進 自民が全敗「世襲」めぐり明暗
そして、戦いが終わり、結果は…
【自民党・加納陽之助さん】
「25年間議席を守り続けてきたところを今回も守らなければならない。その期待に答えられなかったのは非常に申し訳思い出でいっぱいです」
加納さんは、維新の前職、浦野靖人さんに5万票近い差を付けられて敗北。
比例復活もかないませんでした。
加納さんをはじめ、自民党が大阪で擁立した候補者は全敗。
歴史的な大惨敗となりました。
【自民党・竹本直一 元衆議院議員】
――Q:竹本さんが立候補していたら?
「なんとか当選していたと思いますよ。知名度はだいぶ違いますからね」
そして、維新は大躍進。
擁立した15の小選挙区で全員が当選。
守島さんは、左藤さんに4万票の差をつけ、小選挙区を勝ち取りました。
【日本維新の会・守島正さん】
「市民の思いや声は時には大きな組織を打ち負かすことができる。自分の思い、1票次第で、市民の力で組織の壁も超えられるし、選挙結果を左右できるということが、風潮として広がればいいなと思っていますし、一定できたんじゃないかと思っております」
大きく塗り替えられた大阪の勢力図。
これまでの選挙の常識が変わりつつあるのかもしれません。
選択の潮目は今後、何をもたらすのでしょうか?
(カンテレ「報道ランナー」2021年11月4日放送)