元気いっぱいの小学3年生です。
生まれつき、わずかな音しか聞こえません。
地元の小学校に通い、国語と算数は少人数の支援学級で授業を受けていて、紗唯ちゃんへの授業は手話を用いて行われています。
そのほかは通常学級で、特別支援の先生による手話のサポートを受けながら、クラスメイトと一緒に勉強し、休み時間を過ごします。
担任の先生が首から下げるのは「ロジャー」と呼ばれるマイク。
周囲の雑音の中でも、先生の声を無線で補聴器に届けることができます。
今ではみんなが着けているマスクに、紗唯ちゃんは困ってしまうようです。
先生が、授業で問いかけをした時も・・・
【先生】
「こんなの見たことありますか?」
(数秒経ってから)
【紗唯ちゃん】
「あるある!」
クラスメイトが先生にあてられた時も、誰があたったのかすぐに見つけることが難しい様子です。紗唯ちゃんにとって「口の動き」は“誰が”・“何を”話しているのかを把握するために大切な情報ですが、マスクで隠れてしまい、話についていくのが難しくなっています。
【担任・山野善樹先生】
「質問の意図が分かっていない時や、こっちの感情が伝わりにくいときもあります。マスクは、障害・言葉の壁としてすごく大きいと思います」
【元担任】
「(以前は)フェースシールド使ってたやん、今はマスクやん。どっちがよかった?」
【紗唯ちゃん】
「透明(のマスク)」
【元担任】
「そうやんな。友達にも透明のマスクをつけてほしいねんな」
【紗唯ちゃん】
「でも1年生の時な、(先生が)透明のマスク忘れたっていうてた」
【元担任】
「2人で勉強してたときに透明マスク忘れて、よく(紗唯ちゃんに)先生が怒られたな」
そんな中でも、「できないから助ける」のではなく「一緒に学ぶため」に自然と手話を覚える子もいました。
ーーQ:なんで手話を覚えようと思ったの?
【クラスメイト】
「紗唯ちゃんといっぱいしゃべりたいから」
紗唯ちゃんは手話を使ってくれるクラスメイトと毎日仲良く通学しています。
【クラスメイト】
「テレビに出るの嬉しい?」
【紗唯ちゃん】
「うれしいよ」
寄り添う環境があっても、コロナの影響が長引く中で不安は感じ続けています。
【紗唯ちゃんの母親・知佳さん】
「友達が意識して手話使ってくれたりとか指文字をつかってくれたりするので。支援の先生もついてくれているので。ただ、本人は100%分かっているつもりでも、実は20%しか分かっていないとかもあると思うけれど。手話ができる人ばっかりじゃないというのを知らないといけない」
気づかない困りごとをどう支えたらいいのか。
そんな難聴の子どもの居場所となる施設が大阪市にある「デフアカデミー」です。
「デフアカデミー」には夕方になると学校帰りの子どもたちが、教室に集まってきます。
子どもたち同士や先生と手話をして会話をしています。
勉強を教わるのではなく、対話を通して人とのつながりや、話が伝わる安心感を持てるよう、支援が行われているのです。
指導をするのは髙橋縁さん。
自身も耳が聞こえず、子どもの時に孤立した経験があります。
【デフアカデミー・髙橋縁さん】
「複数の友達と会話をしている時、様子を見ていたら突然みんな笑い始める。その時に私は内容が分からない。戸惑いながらもとりあえず合わせないといけない。笑ったのと同時に私も笑う。でも会話が分からなくてどうしようという状態だった。会話を全て“見て”わかる場所が、自分の理解につながると思う」
難聴児への支援には「地域による格差」があります。
耳の不自由な子どもは1000人に1人と言われ、大阪府内でろう学校や難聴児向けの支援はもともと人口の多い大阪市内に集中しています。
幼い紗唯ちゃんが教室に行くには、市をまたぐ電車移動が必要になるため通えませんでしたが、コロナ対策で始まった「オンライン支援」をうけています。
【紗唯ちゃんの母親・知佳さん】
「1人で電車に乗って、覚えたらいけるのかもしれないけれど、電車止まったとか普通じゃない時に対応できるのかこの状況が理解できるのか。親としては不安かな」
【髙橋さん】
「今、目の前にいる子どもとつながって、そこで居場所を作って、できるだけたくさんのコミュニケーションまたは経験できる場所、たくさん人と出会える場所を増やしてあげたいと思う」
マスクで困りごとを抱える子どものために「デフアカデミー」は大阪市外への「出張教室」を計画し、大阪府と協力してクラウドファンディングで支援を集めました。
ハロウィーンで盛り上がる10月末・・・
紗唯ちゃんが住む地域にも「出張教室」がやってきました。
出張教室では、参加した子どもたちが手話で会話を楽しんだり、ハロウィーンに関するゲームを一緒にしたり、笑顔があふれていました。
「マスクの日常」は、支援が行き届かない子どもの声に気付くきっかけとなりました。
支えるために何ができるのか―
“一緒に”考えることが、これからのステップです。
(2021年10月8日放送)