環境対策を進める企業どんどん増えていますが、もう1つ企業が対応を迫られている課題があります。
それは「人権リスク」です。
企業の存亡、そしてこれからの私たちの消費にも影響してくるという課題の今を取材しました。
■ミャンマーの取引先工場で「違法な長時間労働」の指摘
大阪府八尾市に本社がある子供服ブランド「ミキハウス」。
5年前、ある問題に直面しました。
当時ミャンマーにあった取引先の工場で「違法な長時間労働」や「賃金の未払い」「劣悪な環境での労働」が行われているとNGO団体から指摘されたのです。
【ミキハウス企画本部上田泰三部長】
「最初は、どのようにしていいかとまどった。寝耳に水みたいな形で。本社側の人間の私どもにとっては、その工場でそういうモノづくりをしているというのが、把握できてなかったんですね、当時」
このケースでは、ミキハウスの子会社が、日本の専門商社に発注し、その商社がミャンマーの工場と契約していました。
そのため、この工場で商品が作られていること自体を、ミキハウス本社が把握できていませんでした。
■「人権問題」指摘にミキハウスも対応
指摘を受けたミキハウスは第三者機関を立ち上げ、ミャンマーの工場で現地調査を行い、問題点を改善。
さらに、日本国内の工場で多く働く外国人技能実習生などの人権についても再度確認がする必要があると判断して、実習生からの相談や苦情などを第三者機関が受け付けるアプリを導入しました。
【ミキハウス企画本部上田泰三部長】
「きょうは気分がいいので、ファインと送ります。次に相談事がある場合は、チャットに。ここで、お困りごとや相談事を実際に入力して送る。弁護士や社労士の方がいるので、専門家が吟味して必要であれば私どもに共有される」
このアプリは170の工場で導入され、ベトナム語や中国語など8カ国語に対応しています。
ここまで対応を急いだのは、この問題がブランドの信用や会社の存続にも関わるという危機感があったからです。
【ミキハウス企画本部上田泰三部長】
「今の世の中は、どういった環境でそれが作られて、どういった工場でものづくりされているのか、ブランドホルダーとしての責任が当然あるのではないか」
「将来的に非常に大きな問題になりうる可能性を、どちらのメーカーさんも持っているのではないか」
■人権リスクへの対処 日本は欧米より数年遅れ
世界に目を向けてみると、国連が10年前にビジネスと人権に関する指導原則を承認。
これを受け、フランスでは、2017年から一定規模以上の企業に対し、流通段階で強制労働などの人権侵害がないかを調べて防止し、公表することが義務付けられるなど、欧米を中心に法整備が進んでいます。
その結果、日本企業でも海外の取引先から人権保護への対応を求められるようになっているのです。
一方、日本は去年10月に、関係省庁で行動指針を取りまとめたばかりです。
【りそなアセットマネジメント松原稔執行役員】
「ヨーロッパやアメリカに比べて数年遅れてるんですが、世界の人たちが考えている人権課題と日本が考えている人権課題にギャップがあった。(日本では)短期的な収益を追うがあまりに、長期的にブランド価値を棄損してしまったり、あるいは評判リスクを抱えてしまったりというのが出てくるんじゃないか」
欧米では、こういった意識が実際消費者の間にも広がっています。
フランス・パリでは…
【記者リポート】
「スーパーにはオーガニック商品が集められたコーナーがあるのですが、その一角に生産者の人権に配慮してつくられた商品が並べられています」
棚にはチョコレートやコーヒー、紅茶などの商品が並んでいます。
チョコレートの価格は、人権に配慮した商品の場合、通常の倍以上となっていますが…
【店長】
「売れ行きはどんどん良くなっていて、価格は少し高いですが、お客さんの数は減っていません。これらの商品のおかげで逆に客層は広がっていますね」
【客】
「すごく気を付けています。生産者みんなに適正に(給料が)支払われている商品を買います」
【街の人】
「消費者にとっては高くつくけれど、経済のことを考えたり、良い事をしようという気持ちから買うわね」
■不二製油が構築した「児童労働監視改善システム」
そんな中、日本でいち早く人権や環境問題に取り組んでいる会社が大阪に。
海外や国内の企業にチョコレートや油脂素材などを提供している食品原料メーカーの不二製油。
環境問題に関しては、日本の企業で初めて、国際的な環境団体(CDP)から最高評価を取得し、人権問題にも2013年から積極的に取り組んでいます。
【不二製油 最高ESG経営責任者 門田隆司取締役】
「我々のお客様は多国籍企業が多くて、人権に対する取り組みに関して非常に厳しく、我々がちゃんとした対応をとっていなければ、サプライヤー(供給業者)として認められないということがある」
チョコレートの原料となるカカオの生産地であるアフリカのガーナやコートジボワールでは、貧困からくる児童労働が問題となっています。
【不二製油最高ESG経営責任者門田隆司取締役】
「カカオの農家だけで、156万人の、問題のある児童労働があるとされていて、カカオは農産物の中でもやはり課題の多い農産物の1つだと思います」
不二製油の子会社では、現地政府や住民、NGO団体などと協力して、カカオを購入している組合に児童労働監視改善システムを構築。
またガーナでは、カカオ農家1250軒に対して、児童労働撤廃のために支援プログラムを実施しています。
【不二製油最高ESG経営責任者門田隆司取締役】
「(取引先は)不二製油のものを買っていれば、問題ないですよねって安心してくれる、商売を継続してくれる会社がでてきてます」
「環境問題や人権問題に関心が高まってきたことがあって、そういう取り組みをしない会社はだめだよねって思い始めてくれている」
(関西テレビ「報道ランナー」2021年11月9日放送)