子供のころ、保健室に行ったら先生が体調を気にしてくれましたよね。
そんな保健室を町につくろうという取り組みが大阪にあります。
個性派スタッフたちの奮闘記です。
■街中にある「保健室」とは
大阪府・吹田市のマンション1階に、ちょっと変わった場所ができました。
スタッフが明るく会話を交わしています。
ここは訪問看護などを行っている会社が、スタッフの待機スペースを兼ねて作った、その名も「みんなの保健室」。
街の誰でもおしゃべりに来たり、体調の悩みを相談したりできます。
なぜ、無料で利用できるこんな場所を作ったのでしょう…
【看護師・前田章子さん】
「訪問看護に行っている方とかに関しても、もう少し早い段階で関われていたら、何かが変わっていたかな…とか感じることの方が多かったので。そういう風なことを経験しているうちにやっぱり、こういう場所があったらいいなって」
普段から、町の人と顔見知りの関係になることで、病気やケガを防ぐアドバイスができると考えたのです。
【理学療法士・高階拓也さん】
「早くから運動習慣を身につけていたりとかすると、おそらくケガするタイミングって言うのも遅くなるだろうし、万が一ケガしてしまったとしても、その後のリカバリーが早いなって」
【前田さん】
「『今日は元気ないな』とか、『何か最近痩せたんじゃない?』とか、そういう普段から見ているからこそ気づける部分シグナルというか、危険信号みたいなのを拾えるとか、そういうのってあると思うんですよ」
■異色のスタッフで少し賑わいが…
保健室に現れたこちらのロボット、実はこれも強力な助っ人なのです。
前田さんが話しかけると…
【前田さん】
「おつかれさまです」
【小田瞳さん】
「あー、こんにちは。元気よ~」
タブレット端末でこのロボットを動かしているのは小田瞳さん。
小田さんはもともと、神戸などで外科医として活躍していました。
しかし、2年前に突然、神経の難病を発症し、手と顔の筋肉しか動かなくなりました。
今は、24時間ヘルパーに支えられ、治療が出来る東京で生活をしています。
難病でも前を向いて、子供と大切な日々を過ごしています。
小田さんはこの分身ロボット「オリヒメ」を使って、再び社会で活動を望んでいたところ、この保健室と出会いました。
今では週に1~2回、1回につき2時間程度、ボランティアでスタッフをしています。
分身ロボットを通した小田さんの活動に興味をもった、近くの大学生たちが集まるようになりました。
【大学生】
「小田さん、こんにちは」
【小田瞳さん】
「今ね、このコロナ禍で、大学生をどう楽しむかね」
【大学生】
「はい」
【大学生】
「小田さんは、本当に色んな目標を持って、日々過ごされている方で、本当に向上心と興味であふれている方です」
【小田瞳さん】
「いや、嬉しいね~、何かいいこと言ってくれるから」
【大学生】
「すごく刺激をもらっています、毎日」
分身ロボット「オリヒメ」を通じて、小田さんと大学生たちとの交流が進んでいます。
大学生たちにとって、貴重な学びの場になっています。
近くの大学に通う学生たちで少しにぎやかになりましたが、大通りから見えないこの保健室はなかなか地域の人に知ってもらうことができません。
■努力してもコロナ…そこに救世主が
スタッフたちは、町の人たちに、自分たちのことを知ってもらうために、ウォーキングのイベントを企画しました。
さっそく手作りしたチラシを持って、近くの家に配って回ります。
しかし、緊急事態宣言で中止になってしまいました。
せっかく立ち上げた「みんなの保健室」ですが、地域の人に知ってもらうことが、なかなかできませんでした。
そんな中、嬉しい出来事が…。
この日、保健室を訪れたのは、うわさを聞いた地元の福祉委員の人たち。
【地元の福祉委員】
「みんな(この保健室に前から)興味はあってね、あそこ何があるのだろう…って。ここの場所を通ったけど入れないって」
【前田さん】
「それも言われたことありますよ」
【地元の福祉委員】
「ここを見学したいって方、結構いらっしゃいますよ」
【前田さん】
「まずは顔見知りになって、いろんな世間話をしながら『こうなんだよね』って言える場所になったらいいなって思っているので」
【小田瞳さん】
「新しく来た人は、地域に馴染めにくいじゃないですかこの地域に。だから、この地域に根差された(福祉委員の)方がいろいろ教えてくれたらありがたいですよね」
【地元の福祉委員】
「率先して連れてくるというね」
今後、地域の人を結びつけてくれそうです
――Q:地域の人をサポートするような施設が作られたのはどう?
【地元の福祉委員】
「すごく前向きになるよね、そういうのができたら」
福祉委員の女性は、あの分身ロボット「オリヒメ」に興味を持った様子。
「オリヒメ」を通じて小田さんとの会話も楽しんでくれました。
――Q:小田さんと(オリヒメを通して)会話してどう?
【地元の福祉委員】
「いや、かわいい」
「欲しいね」
「持ってかえりたい(笑)」
■みんなの保健室に少しずつ街の人たちが…
長い緊急事態宣言がやっと解除されました。
――Q:コロナで自宅にこもりがちの人が多いんじゃないですか?
【理学療法士・高階さん】
「そうだと思います。高齢者の方は特にそうだと思うので。社会から分断されてしまったり、コミュニケーションが取れにくいとかもあると思うので、そういう人達が少しでも参加してくれたらいいと思います」
保健室の活動が本格化。
この日は、その第一弾として近くの広場を借りて、高階さんが体操教室を開きます。
近くに住む人たち、そして見学にきた福祉委員の人も知り合いを連れてきてくれました。
【高階さん】
「先々ですね、(高齢になると)要介護状態になってしまうようなリスクがあるっていう風に一般的に言われています。そういった状態にならないためにも普段からの運動がすごく大事っていう風に言われていますので、まだ、運動の習慣がない方は、きょうが第一日目になればらいいと思いますし」
【参加者は】
「ついていけへんわ、ここが…」
【高階さん】
「いえいえ、次は先頭立って引っ張っていらっしゃるんとちゃいますか(笑)」
【参加者は】
「きょうは楽しかったですね。身体もなんか思いっきりほぐれたような、楽しかったですよ」
そして保健室には、子供たちも自然と集まるようになりました。
きょうは順番に運動会のダンスを披露します。
日ごろから優しく気にしてくれる「みんなの保健室」に一歩ずつ近づいています。