義足をオシャレに。そんな活動を、義足を付けて生活している当事者たちが進めています。
病気や事故で脚を失ったショックに加え、義足に対するコンプレックスで閉じこもってしまう人を減らしたい。
活動で生まれた変化、そして迎えた人生の晴れ舞台を取材しました。
■義足の女性ユーザーが集まるNPO法人
レストランで楽しく話をする女性たち。
彼女たちの共通点は「義足」です。
集まったのは「ハイヒールフラミンゴ」のメンバー。
ハイヒールと1本の足で凛と立つフラミンゴをイメージして名付けられたNPO法人で、「悩みや情報を共有する場でありたい」と、義足の女性ユーザーが集まり活動をしています。
■おしゃれな義足でコンプレックスをなくせ
内閣府の障害者白書によると、事故や病気で足の切断をした人は、日本におよそ7万人いて、女性の割合は3割程度です。
その中には、足を失うショックや生活上の困難とともに、「コンプレックス」を抱え閉じこもってしまう人も多くいるといいます。
「義足」を「コンプレックス」として捉えてほしくない。
「ハイヒールフラミンゴ」が始めたのは、女性だけが集まって感情を「共有」する場をつくること。
そして技術者と連携したおしゃれな義足作りでした。
【ハイヒールフラミンゴ代表 川村義肢福祉用具専門相談員 野間麻子さん】
「義足のユーザーさんって女の人少ないんですよ。スタッフも女性少なかったんですよ。けどね、中に入ってみると気にならなくなるっていうか」
ユーザー、そして作り手も、ズボンをはく男性が多いことで、デザイン性はほとんど意識されていませんでした。
おしゃれにデザインされた義足をはいた女性ユーザーには、大きな変化がありました。
【ハイヒールフラミンゴ代表 川村義肢福祉用具専門相談員 野間麻子さん】
「スカートはいたり、かわいい靴をはいたり、義足を見せてくれるようになりました」
■「隠したいと思っていた」義足へのコンプレックス
田中さんの結婚式の打ち合わせに参加した、海老根和美さん。
18年前、25歳の時に骨肉腫を患い、右足の切断を余儀なくされました。
【海老根和美さん】
「妊娠中に病気になって手術をして出産してから切断したっていう状況で義足になった。切る事にはかなりの決断があったんですけど、子育てをしたいっていうのが一番だった」
突然の義足生活で、いくつもの困難にぶつかりました。
【海老根和美さん】
「自転車に乗れなくなって、ベビーカーも押せなかったんですね。絶対どちらかに曲がっていってしまって。(医療用の義足は)見た感じがやっぱり機械的なんで見た目があんまりだなとか、お風呂とか温泉とかも、(足が)ないことを見られたくないとか、そういうことで隠したいなって思ってた」
この日、海老根さんは実家を離れて暮らす、息子のこうきさんに会いに行きました。
こうきさんも、おしゃれな義足をつけることに賛成しています。
【こうきさん】
「義足の人にしかできないおしゃれができるわけやん。それはめっちゃいいなと思う」
【海老根さん】
「そういうのを(人前に)履いて行った時の感じっていうのがまだ耐えられるかどうか…」
【こうきさん】
「他人になんか思われるかってこと?」
【海老根さん】
「そうそう」
「義足をコンプレックスにしない」。その思いを家族が後押ししてくれます。
■義足が見せるウェディングドレスで結婚式
月に1度行われる、交流会「フラミンゴ・カフェ」。
この日は、メンバーの1人、田中典子さんの結婚式の打ち合わせが行われました。
田中さんには、生まれつき左足と左手の指の一部がありません。
再婚相手との結婚に向けて、最初の結婚では「義足」などを理由にできなかった結婚式を挙げることになりました。
義足は次男がデザイン。ウェディングドレスは、義足が見えるデザインにしました。
【田中典子さん】
「柄をいれたので、みんなに見てもらって義足でもドレス着て楽しんでますよと見てもらいたくて」
念願だった結婚指輪もはめたいと、式にあわせて義手もつくりました。
【田中典子さん】
「指輪であったり、ハイヒールをはくっていうことも、私は、もう生まれてきた時に、できないんだと思って生きてきました。欠損してる部分も、複雑な形で欠損してたのでなかなか難しいっていう話があって、何度もあきらめそうになったんですけど」
田中さんの結婚式当日。
自慢の義足とドレスで臨んだ披露宴では、海老根さんたちハイヒールフラミンゴのメンバーも祝福しました。
自慢の義足をデザインした、次男の慶太さん。
【田中さんの次男 慶太さん】
「母が着物を着るのが好きなので、毎日はく義足で着物を着るような楽しい気持ちになったらいいなという思いを込めました」
さらに、息子たちからは、歌のサプライズもありました。
【田中典子さん】
「私は障害を持って生まれてきました。ハイヒールフラミンゴのみなさん、同じ義足で生きてきた人たち、義足に関わる人たちと、間近で話をする機会ができて、私の人生はよりいっそう開けてきました」
ハイヒールフラミンゴで出会った、「人」と「義足でのおしゃれ」は、人生を大きく変えました。
【海老根和美さん】
「これから前向きな方向で、色んなおしゃれとかをしていけたらいいなと。大きな希望みたいなのが見えた。これからももっともっと、おしゃれに義足を付けていける時代になっていってほしいな」
「安全に歩く」ためだけではなく、大変な思いをする人がその後の人生を楽しむために、後押しできる方法はまだあります。
(関西テレビ「報道ランナー」2021年12月6日放送)
■取材後記 なぜ「おしゃれな義足」は広がらないのか
「おしゃれな義足」を身に着けて、新しい挑戦をする輝かしい女性たちを取材する中で、いかに視覚的な印象がクオリティ・オブ・ライフ(人生の質)を上げるものか実感しました。
では、なぜ「おしゃれな義足」は広がっていないのか。それは「義足」で一番重要な「安全」というものを優先させるがゆえでした。
まず、安定させるためには太さが必要です。しかし、女性の多くは太い脚を望みません。また、足首の角度を変えハイヒールなどが履ける義足は足首が細くなったりして危険につながるという考えから、初めからユーザーに提案しない、というケースも多いと言います。
多くの義足ユーザーが求めること、それは「情報」を知り、自分の体のことを自分で選ぶということです。ハイヒールフラミンゴはそんな情報を共有する場所として生まれました。
「おしゃれにデザインされた義足」を作るには、義肢装具士の熟練した技術・深い知識が必要で、「やりたい」を叶えられる技術者が業界に多くはない、というのも現実です。
「安全」を担保しながら心がおどるような義足をつくる。乗り越えなければならない壁は多いですが、それを後押しする仲間がいればその道のりも楽しめる、どんな時も視点を変えることで、人生はいかようにも充実させることができるのだということを、ハイヒールフラミンゴの女性たちは教えてくれます。
ハイヒールフラミンゴのより詳しい活動はこちら。活動を応援する義足ユーザーでない賛助会員の受付もしています。
https://www.highheelflamingo.com/
(関西テレビ報道局記者 谷口文乃)