北新地ビル放火殺人 容疑者を駆り立てたものは…他人を巻き込み自殺する「拡大自殺」の疑いも 10年前にも長男への殺人未遂で実刑判決 2021年12月23日
大阪の心療内科クリニックが入るビルで25人の命が奪われた放火殺人事件。警察が容疑者と特定した谷本盛雄容疑者(61)は、重篤な状態が続いていて、今も意識は戻っていません。
捜査幹部は、他人を巻き込んで自殺しようとする「拡大自殺」の疑いを指摘します。
谷本容疑者の人物像と、「拡大自殺」の実態を取材しました。
■「穏やかで優しい」一方で「カッとなる」一面も
【近所の人】
「挨拶もしてくれてたし、優しい印象でしたね」
「ここにいてる人は穏やかな人でしたよ」
「穏やかで優しい」と近所の人が印象を語った谷本容疑者。
大阪市此花区で4人きょうだいの3番目として生まれ、高校を卒業すると、板金工として、実家や複数の工場で働いました。
2002年から約8年間、谷本容疑者が40代の頃に働いていた工場の社長は…
【谷本容疑者の元勤務先の板金工場社長】
「仕事の態度は非常に良かった。きちっと仕事をして、任された仕事をほったらかして休むとかは一切なかった。与えた仕事は頭から最後まできちっとやるそういう性格」
まじめな仕事ぶりの一方で、別の一面ものぞかせていました。
【谷本容疑者の元勤務先の板金工場社長】
「何かあるとカッとなるような点はあった。気が短いところがあって、意味が通じなかったら、ワーッとなってしまう癖があった」
■長男を刃物で襲い実刑判決 自殺願望抱き巻き添えに?
真面目な反面、気の短さを併せ持っていたという谷本容疑者。
家庭環境も大きく変わっていきました。
【谷本容疑者を知る人】
「みんなに離縁というの?縁切られて。親も兄弟も子供さんにも。ひとりぼっちになった」
きょうだいとは40年ほど前から疎遠だった上、長年連れ添った妻とも2008年に離婚。その後、工場を辞めると、2011年に別居していた長男を刃物で襲う殺人未遂事件を起こし、懲役4年の実刑判決が言い渡されました。
【2011年の事件を知る人】
「朝気が付いて廊下で物音するというので見るとそのところで規制線張っていて、玄関が血だらけで壁にも血が飛んでいて何があったのかなと思ったのですけど」
裁判官は判決の中で、「自分が死にたいというだけで、落ち度のない被害者を巻き添えにしようと考えるのは、身勝手極まりない」と自殺願望を抱く谷本容疑者が、長男らを巻き添えにしようとしたと指摘しています。
■逃げる人に体当たり 自ら火に飛び込む様子も
そして、12月17日に起きた放火殺人事件。クリニックの防犯カメラには、逃げる人を奥に追い込もうと体当たりする様子や、火をつけたあと、自ら炎に飛び込む様子など、不可解な行動が記録されていました。
10年前の殺人未遂事件や、今回の行動などから、複数の捜査幹部は、他人を巻き込んで自殺しようとする「拡大自殺」の疑いを指摘します。
■「人を殺して自分も死ぬ」相談センターに寄せられる電話
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取材を進めると、「拡大自殺の危険性」が私たちの身近に潜んでいる実態が見えてきました。
訪れたのは、自殺防止の活動をしている認定NPO法人 国際ビフレンダーズ 大阪自殺防止センター。
相談の電話を開設し、スタッフが死を口にする人々の声に耳を傾けています。NPO法人によると、実際に「他人を巻き込み自殺をしたい」と話す人もいるということです。
【国際ビフレンダーズ 北條達人 理事長】
「電話相談のなかでも稀ですけど、他者を巻き込んで、自分自身でも死ぬんだと訴えられる方がいる。今から、市街地に行って、大量に人を刺し殺して、自分も死ぬんだとか、包丁を持っているけど、これから路上にでるとか。こういった電話相談の特徴なんですが、匿名性があって顔が分からない、だから死にたいという気持ちや、あるいは殺したいという思いですら吐き出すことができるんですね」
こういった相談を受ける場合、相談員は否定せず聞き、不満を吐き出させることに専念します。時に1人に2時間以上も費やすこともあります。
【国際ビフレンダーズ 北條達人 理事長】
「誰かを殺してしまいたい、という叫びの裏側には、自分はもうそんなことをしでかすぐらい苦しいんだ、と心の声を聞くことがあります。それを本当は受け止めてほしくて、でも表現としては言えなくて。そういう言い方をされているのだろうと感じる時はあります」
■社会への不満が「拡大自殺」につながる
なぜ他人を巻き込んで自殺をしようと考える人がいるのか?精神科医は、社会への不満が「拡大自殺」に繋がると指摘します。
【精神科医 片田珠美さん】
「攻撃衝動が反転して自分に向くのが自殺願望なんですね。それは容易に反転して他人に向かうようになる。無差別大量殺人をする人は、少しでもやり返したい、一矢でも報いたいという復讐願望が非常に強い、社会に対する怒りや恨みが強い」
「○○のせい」と考えがちな他責的傾向などの個人の特性のほか、社会的・心理的な孤立が「拡大自殺」の背景にある場合が多いことも指摘されています。事件の真相究明と、同様の事件の再発を防ぐ社会的な取り組みが求められています。
(関西テレビ「報道ランナー」2021年12月23日放送)
自殺防止について(大阪府ホームページ「ひとりで悩まないで」より)
自殺の多くは、病気や障がい、慢性的な疼痛などの健康問題、倒産や失業、多重債務などの経済・生活問題、介護・看病疲れやいじめなど、個人の自由な意思や選択の結果ではなく、さまざまな要因が複雑に絡み合い、「心理的に追い込まれた末の死」と言われています。
「こころの健康相談統一ダイヤル(外部サイト)」で、電話相談をお受けしています。「つらい…」「どうしたらいいのか分からない…」そんな気持ちのときには、一人で抱え込まずにぜひお電話ください。
電話番号 0570-064-556