■25人の命が奪われた放火殺人事件 現場は…
25人が死亡した大阪・北新地の心療内科クリニックの放火殺人事件。
17日で発生から1か月になります。
事件で大切な人や居場所を奪われた人たちがいます。
12月17日、大阪市北区の心療内科クリニックの入り口に男がガソリンをまいて放火。
中にいた医師やスタッフ、患者あわせて25人が殺害され、今も女性が意識不明の重体です。
警察は、このクリニックの患者で、無職の谷本盛雄容疑者(61)による犯行として捜査していましたが、谷本容疑者は意識が戻らないまま12月30日、死亡しました。
■2人の教え子が…「今も信じられない」
この事件で、2人の教え子を同時に亡くした男性がいます。
高校の少林寺拳法部の顧問を38年間務めていた野村裕さん(72)。
25年前と10年前の、異なる時期の教え子2人が犠牲になったのです。
【野村さん】
「犯人が亡くなったことも含めて無念しかない。亡くなったとしても刑に服したとしても、許せない」
教え子の一人、40代の男性は、高校入学時すでに少林寺拳法2段の実力者でした。
【野村さん】
「主将か副将どちらかをやっていた、リーダーです、大人しいが芯の強い寡黙な生徒、非常に慕われていましたね」
もう一人の教え子は、クリニックに公認心理師として勤務していた20代の女性です。
【野村さん】
「活発で明るい、技術的にも頑張っていたと思う」
黄色いメガホンは、この教え子の20代女性の代が卒業するときに、部員らが野村さんに贈ったものでした。
そこには恩師への感謝の言葉がつづられています。
【野村さん】
「今、彼女が言ってくれているような感覚になりました、本人を見るように眺めています。今でも間違いであればいいなとずっと思っています」
■信頼する医師が… “居場所”を失った人たち
突然、理不尽な別れを余儀なくされた人たち。
そしてクリニックに通っていた800人以上の患者にとっても、かけがえのない居場所が奪われました。
大阪市の中学校で教師を務めるAさんもそのひとりです。
吹奏楽部の顧問を務め、多忙な業務などからうつ病を発症。
今回の事件に巻き込まれて死亡した、院長の西澤弘太郎さんの診察を月に一回受けていました。
【大阪市の中学校教師・Aさん】
「色々悩みはありますけど、それを全部西澤先生にバーってぶつけて。西澤先生は受け止めて笑ってくれて『まあ、それはしゃあないな、頑張らなあかんわな』みたいに聞き上手な感じで受け止めてくれて、それでさらに背中をちょっと押してくれるような感じ。自分の一番困っていることとか辛いこととか、弱いところを受け入れてくださる先生」
西澤院長は診察だけでなく、リワークプログラムに力を入れていました。
「リワークプログラム」は、心の病で休職した人たちが職場復帰を目指して、集団でのミーティングなどで人との接し方やストレスへの対処方法などを身に付ける取り組みです。
事件が起きたときもプログラムが行われていて多くの人達が巻き込まれました。
うつ病を患う会社員Bさんは、3年前までこのプログラムに通い職場復帰しました。
【Bさん】
「最初は本当に信じられなかったです。報道を見た時に、病院に通われた方が亡くなったと聞いてすごいショックで、ひょっとしたら自分もあの中にいたかもしれない」
ーーQ:(Bさんと)同じように復職しようとしていた人も…
「そうですね…」
今、症状は落ち着いているものの、安定した状態を保つためには継続的な治療が欠かせず、次の病院を見つけなくてはいけません。
【Bさん】
「『同じような治療をしていただけますか』って尋ねても『うちでは無理です』って言われるかもしれない。そう言われたら、多分すごいショックを受けると思うので、それも怖いっていうのもある。探すのがまずしんどい。先生と合うか合わないかっていうところもあって、普通の人だとそこまで考えなかったりするのかもしれないけどどうなんでしょうね…、見つかりますかね」
■容疑者「死ぬ時ぐらいは注目されたい」
心の病と向き合っていた人たちの命と居場所を奪う事件はなぜ起きたのか。
クリニックから見つかった谷本容疑者のスマートフォンに、ある検索履歴が残っていました。
「死ぬときくらい注目されたい」「日本史上最悪の凶悪事件はどんな事件がありますか」
自ら死と、そこに人を巻き込むことを意図する内容。
自宅は電気やガスも止まっていて、銀行口座の残高もゼロ円だったということです。
【谷本容疑者の兄】
「35年ほど全くもう音信不通で、会ってないんでね。
ーーQ:縁を切っていた?
そんな感じですね、向こうから」
【谷本容疑者の元勤務先の板金工場社長】
「離婚するって話をしてきた。それから悩んでいる様子はあった」
家族と絶縁状態となり、離婚もした谷本容疑者は2011年、別居していた長男を刃物で襲い「一家心中を図った」として実刑判決を受けました。
そして、今回の事件・・・
クリニックにはおよそ5年前から通院していたという谷本容疑者。
警察の捜査で、事件2週間前の診察時に消火栓の扉が開かないよう細工。
事件前夜には、ビルに侵入して非常扉に外側から目張りをするなど、人が逃げにくいよう綿密に準備していたことがわかりました。
なぜ、この場所で悲惨な事件が起きたのか。
その真相が本人の口から語られることはありません。
(2022年1月17日放送)