障害者が働く農園が大阪にあります。
雇用主は農業とは無縁の企業ですが、お互いが笑顔になる仕組みがありました。
新たな雇用の形を取材しました。
■知的障害や精神障害ある人たちが農園で
大阪府枚方市に、新しい農園ができました。「わーくはぴねす農園 おおさか枚方」です。
――Q:何の作業?
【従業員】
「均等に植物が植えられるように、均等にならしている作業を行っています」
この農園で働くのは、知的障害や精神障害がある人たち。39人が、農作物を育てるために働いています。
【従業員】
「サラダ菜とか、ブロッコリーとか、スナップエンドウと小松菜とラディッシュも植えている」
「収穫をするのがすごい楽しみ。毎日じゃないけど、水をお花さんに植物に声をかけて元気に育ってねと、いつも毎日水をあげています」
■雇用主は企業 農園での仕事広がる
実は、雇っているのは、農園ではありません。
【エスプールプラス 和田一紀社長】
「『わーくはぴねす農園』は、障害のある方仕様につくりこんだ、企業向けの貸農園として運営しています。障害のある方を雇用したいが、なかなかできないと言っている企業に対して、我々が障害がある方をおつなぎして、貸農園で雇用していただくという仕組みです」
法律では企業などには一定の割合以上の障害者の雇用が義務付けられていますが、去年その法定雇用率を満たした企業は、47パーセントにとどまっています。
そこで、農園を運営する「エスプールプラス」が、自社の業務では雇用が難しいものの障害者を積極的に雇いたい企業などに農園の区画を貸し、そこで農業をするために企業が障害者を雇用する仕組みを生み出しました。
農園は全国に30カ所あり、400以上の企業が参加。これまでにおよそ2500人が働いています。
この農園で働くためには、農作業をする適性があるか、きちんと通勤ができるかといった項目をクリアする必要があり、中には、何度も実習を受ける人もいます。
■農園でいきいき 30歳の男性
大阪府摂津市のビルの中にある農園。様々な障害のある人が働きやすいように、屋外だけではなく屋内型も設置されました。
ここで働く、赤澤佑太さん(30)。
生後6カ月の時に発症した病気の影響で、脳にダメージを負い、左半身に軽度の麻痺があるほか、割り算や掛け算がうまくできないといった知的障害があります。
――Q:疲れました?
【赤澤さん】
「疲れてないです。なにかできることあればするんですけど、ないですか」
【農場長】
「休憩時間はいいよ。ちゃんと休んでて。色々仕事探してはやってくれるんです。むしろ休んでっていうくらい」
意欲的に働く赤澤さん。以前は就労支援施設にいましたが、その時の収入は、1カ月で20日間通ったとしても、多い時で8000円くらいだったといいます。
ここでは、大阪府の最低賃金(時給992円)が適用されるため、自分の好きなことにお金を使える機会も増えました。
【赤澤さん】
「3月の25、26、27の3日間のうちに野球を見に行く予定なんです。僕は阪神ファンで。はじめて仕事したときは、僕ここで働けると嬉しかったです。楽しいですね。止まらないです」
収穫した野菜は袋詰めにした後、所属する企業に送られるため、1つ1つメッセージを添えています。
【赤澤さん】
「皆さんに喜んでもらえるように頑張って一生懸命自分たちで育てた野菜を収穫してラベルを書いて送っています」
赤澤さんたちを雇用しているのは、「ハリマ化成」。収穫した野菜は、兵庫県加古川市にある製造所の食堂のメニュ-に使われるほか、社員にも配られています。
【従業員】
「実際にお会いすることはできないけど、こうやって仲間がつくったと思うとパワーを頂けるので、すごくそういった意味でもうれしいです」
ハリマ化成は、安定的に野菜を収穫できるようになれば、子ども食堂などに提供することも考えています。
【ハリマ化成グループ人事課 北原宏隆さん】
「(工場では)製品の運搬で大型車が通ったり、フォークリフトが行き来する中で障害がある方が移動する時に、もしものことがあってはいけないので、安全を確保するという意味では難しい。そこで、農業に舵を切りました。障害がある方、健常者関係なく働ける職場づくりが、経営にもプラスアルファになるのではないかと思っています」
赤澤さんは仕事が終わると、健康維持のためにほぼ毎日、プールで体を動かすのが日課になりました。
家族も、就職した後の変化を感じています。
【父・芳一さん】
「お正月休みもね、1週間くらい休みあったけど早く(農園に)行きたいって言っていた。親と子は年が離れているから、先に亡くなってしまうっていうのがある。その後のことも考えて、これから生きていく上で、安定した収入っていうのは、少なくてもあったらありがたいなって思う」
自分が輝ける職場と出会った赤澤さん。
――Q:どの作業が一番楽しい?
【赤澤さん】
「ラベル書きとか、梱包とか、収穫とか…全部です全部。楽しいです」
誰もが生き生きと働ける社会に。そのヒントが、ここにはあります。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年2月23日放送)