クリニック放火殺人 見えてきた動機「拡大自殺」その心境に迫る “未遂”の経験者語る「一緒に死んだろう。それしか自分が満足しない」 2022年03月16日
大阪・北新地の クリニック放火殺人事件で、警察は死亡した谷本盛雄容疑者を放火と殺害の疑いなどで16日、書類送検しました。
翌17日には、大阪地検が被疑者死亡で不起訴処分とし、捜査は終結しました。
捜査などで見えてきた動機は、人を巻き込み自らの命を絶つ「拡大自殺」。
凶行に突き進んだ心理を、かつて「拡大自殺」を計画し、思いとどまった経験者が語りました。
■自ら炎に飛び込み…「拡大自殺」図ったか
2021年12月17日、大阪・北新地にあるクリニックは炎に飲み込まれました。
病院に運ばれたクリニック関係者と患者あわせて26人は全員死亡。
この時、クリニックの防犯カメラにはフロアに火を放ち、逃げる人を妨害する男の姿が記録されていました。
谷本盛雄容疑者、61歳。
2021年12月30日、入院先の病院で死亡しました。
警察は、谷本容疑者による犯行と断定し、26人の殺害と放火などの疑いで書類送検しました。
翌17日には、大阪地検が被疑者死亡で不起訴処分とし、捜査は終結しました。
警察の捜査で、谷本容疑者が2021年2月からクリニックの様子を記録していたことが分かりました。
そして、所有するスマートフォンのカレンダーには、12月17日に「ジッポライターに火が付くか確認する」と書き込むなど、少なくとも10カ月以上かけて計画していたことが判明しました。
事件当日、火を放った谷本容疑者は炎に飛び込んでいました。
警察は谷本容疑者が多くの人を巻き込み自らも命を絶つ「拡大自殺」を図っていたとみています。
■「一緒に死んだろう」拡大自殺”未遂”の経験者が語る心境
長い時間をかけて凶行に突き進む心境とは…
大阪出身で「日本駆け込み寺」の玄秀盛(げん ひでもり)さん(65)。
東京・歌舞伎町で悩みを抱えた人たちからの無料相談を20年間行っています。
この日も、困りごとをかかえた女性からの相談を受けていました。
【日本駆け込み寺・玄秀盛さん(65)】
「彼氏とは何年って言ったっけ?」
【相談者】
「まだ数カ月です」
【日本駆け込み寺・玄秀盛さん(65)】
「合計340万円は返すという借用書はないけど認識はしているよな?」
【相談者】
「ただその後弁当屋潰れて金ないと言っていたので、払わない方向にもっていってるのかな」
玄さんは、かつて建設会社などを経営していました。
【日本駆け込み寺・玄秀盛さん(65)】
「谷本が自転車で運んでいるところを見た時に、ふっとよぎった。(自転車を)ガーって必死にこいでいないから分かるなって。意外と普通通りに相手に分からず直前までいく。俺も自殺っていうか、自爆やな。一緒に死んだろうと」
実は40代の時に2度、「拡大自殺」をしようとした過去があります。
1度目は、取引先と金銭トラブルになり、玄さんは、ガソリンを持って相手の事務所へ行ったものの交渉の末、未遂に。
そして2度目は、血液検査で、白血病の原因にもなるウイルス「HTLV-1」をエイズウイルス「HIV」と見間違え絶望感に。
そこから見誤りに気づくまでの3日間、当時仕事で恨みがあった5人を巻き込んで死ぬことを計画したのです。
【日本駆け込み寺・玄秀盛さん】
「もう人生終わりやと。何をしても望みがない、楽しくない。あとはもう死ぬって思ったら、じゃあ振り返った時に、この5人いったろうと」
――Q:それを考えている時ってどういう気持ちでした?
「もうそれ一点、本当にその一点。会社もありながら金もありながら家族もありながらやけど、一切それが目に浮かばへん。1回目も2回目も同じことや。要するにそれしか手段がない、それしか自分が満足しない」
■専門家 「社会との接点あれば防げた可能性」
拡大自殺を実行してしまった谷本容疑者。
専門家は社会との接点があれば、防げた可能性があると指摘します。
【精神科医・片田珠美さん】
「谷本容疑者は孤立していた。孤立していて社会との接点がほとんどないと、歯止めになりうるものがないわけですね。これは我々の身におきかえてもそうなんですけど、他人と社会との接点が全くなくて、自分の世界だけに入り込んでいくと、かなり極端な方向に走りますよね。ちょっとでもやり返したい、一矢報いたいという気持ちになりますよね。一人で死んでたまるかという気持ちにもなりますので、どんどんそっちの方向に向かっていったのではないでしょうか」
11年間無職で、家族とも絶縁状態だった谷本容疑者。
誰の連絡先も登録されていなかったスマートフォンを使い、検索していたのは「道連れ」「死ぬ時くらい目立ちたい」などの言葉。
さらに過去の無差別殺人事件について、何度も検索していました。
この事件以降、他人を殺害した後、自分も死のうと思ったと供述している、拡大自殺の事件が相次いでいます。
【精神科医・片田珠美さん】
「誰にでも自分が認められたいという承認欲求はあります。それが満たされていると怒りや不満を抱かず、復讐願望を抱かずに済むんですけど、今の世の中をみると承認欲求を満たされていない人がものすごく多いんですよ。そういう人が社会に対する復讐みたいな形、復讐をしようとして犯罪をおかしたりとか、誰かを攻撃したりとかものすごく増えている印象ですね」
■「誰も拒まずどんな話でも聞く」ことを大切に
自殺や他人を巻き込む拡大自殺を防ぐには。
自らも拡大自殺未遂も起こし、20年間人生相談を行ってきた玄さんは、「誰も拒まずどんな話でも聞く」ことを大切にしています。
【日本駆け込み寺・玄秀盛さん】
「関西風でいうたらお節介なんやけどな。下向いていたら『お姉ちゃん、どうした?』この一言で違うもん。今その声すらかけたらあかんやん。三密ダメって。安定企業とか大学とかどっかの組織に入ってたらいいけど、組織外の人間は逆に孤独阻害孤立していく、収入が減る。ネット見てもテレビ見ても楽しそう、その落差がある。答えにはなっていないかもしれへんけどお節介や。コミニケーションというか」
「喪失」と「孤立」が明らかになった谷本容疑者。
何も語らぬまま死亡し、書類送検で捜査は終結しました。
再び悲劇を繰り返さないために、社会はこの事件とどう向き合うのでしょうか。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年3月16日放送)