全国の同性カップルが「同性同士の結婚が認められないのは憲法に違反する」と国を訴えている裁判。
大阪地裁の判決は、2022年6月20日に言い渡されます。
結婚という制度がないことで、当事者たちはどんな気持ちを抱えてきたのか。
3年に及ぶ戦いと、判決にかける思いを取材しました。
■全国で起こされた訴訟 立ち上がった同性カップルたち
「私たちの願いはありふれた、切実なものです。結婚の自由をください。家族になりたいんです」
2022年4月、国会議員の前に集まった人たち。
同性婚の実現を求めて、全国で裁判を起こしている原告です。
【坂田麻智さん】
「同性婚ができても誰も困りません。むしろ多様な家族が認められ、幸せになる人が増えるだけです。国会議員の皆様、どうか一日も早い法制化にお力添えをよろしくお願いします」
集会に参加した坂田麻智さん(43)とテレサさん(39)は、京都市にある家で、“ふうふ”として暮らしています。
2008年、共通の友人を介して知り合いました。
【紹介した友人】
「急にテレサが麻智のことを『麻智ホット』って言い出して。私は『嘘やろ?!まじか!!』って。気に入ってたみたいやから飲み会や出会う場をセッティングして、よく飲んだりしてた」
【テレサさん】
「違う違う、大事なこと忘れてる。私、麻智のこと好きかもと思って、言った。『絶対、麻智に言わないで』って言ったのに」
【麻智さん】
「その瞬間から私に言った(笑)」
【紹介した友人】
「すぐ言うたった。結果オーライやからええがな」
アメリカで同性婚ができるようになった2015年には、テレサさんの故郷で結婚式を挙げました。
しかし日本では、「婚姻関係」と認められません。家族として手術の手続きができなかったり、病状の説明を受けられなかったりする不安を抱えています。
一緒に生きていくために、「同性婚を認めていない現在の法律は、婚姻の自由や法の下の平等を定める憲法に違反する」と国を訴える集団訴訟に参加。
「同性婚は想定されていない」と主張する国と向き合っています。
そんな中、2021年3月、札幌地方裁判所で出された最初の判決。
「同性カップルが結婚による法的利益を一切受けられないのは、法の下の平等を定めた憲法に違反する」と言い切ったのです。
【友人からの電話】
「麻智さーん!(実質)勝訴!」
【麻智さん】
「よかった…泣いたよ。ちょっとほっとした…」
■「同性愛者」としての人生 記憶に残る“しこり”
大阪地裁での裁判を戦っている2人。
この日は弁護団を相手に、裁判官に思いを伝える「本人尋問」の練習に臨んでいました。
【関西弁護団 寺野朱美 弁護士】
「あなたには現在交際している方はいますか?」
【麻智さん】
「はい。パートナーは女性です。スティーガー・テレサさんというアメリカ人の女性です」
【関西弁護団 寺野朱美 弁護士】
「あなたは同性愛者ということですか?」
【麻智さん】
「はい。同性愛者です」
一言一言をかみしめるように、尋問を想定した弁護士の質問に答えます。
同性が好きだと自覚したときのこと、初めて好きな人と付き合えた喜び、職場でパートナーの存在を打ち明けられなかった辛さ。
そして、記憶に残っている、“しこり”。
【関西弁護団 寺野朱美 弁護士】
「お母さんにはカミングアウトされていますか?」
【麻智さん】
「はい。一度、20歳か21歳の頃に、母に電話で(留学先の)アメリカからカミングアウトしました。『まだ若いんだから、病気みたいなもんじゃないの?』っていう言葉を言われまして。母子家庭でもアメリカに送ってくれるような、リベラルな母かなと思っていたので、そんなことを言われるとは想像もしていなくて、非常にショックを受けました」
それ以来、母親と恋愛の話をほとんどしなくなりました。
“ルームメイト”として紹介していたテレサさんとの本当の関係は、アメリカで結婚式を挙げることが決まったときに、手紙で伝えました。
「私とテレサは恋人同士です」
「本当に幸せです」
■「普通だったら」と思ったことも でも今は…
当時、麻智さんの母はどのようなことを思っていたのでしょうか。
【母・里英子さん】
「えー、えー、えー…っていう感じでしたね。分からないことなので、自分のなかでどう解釈したらいいのか。自分の気持ちをどこに収めれば、一番自分も楽で、麻智にもいい返事ができるのか。『どうしたらいいんだろう、どうしたらいいんだろう』ばっかりでしたね」
若くして夫を亡くし、麻智さんたち姉妹を一人で育ててきた里英子さん(72)。
【母・里英子さん】
「…『普通だったらよかったのに』とは思ったことはありましたね。一人親で育ててきてるからね。『私が悪かったんやろうか』と思いましたね、なんでこうなったんだろう、と。年頃になったら結婚して、子供ができて、私がおばあちゃんになってって…、普通にいく方が自分が一番安心するんでしょうね。でも今は思ってませんよ。1人で生きていくよりは2人の方が心丈夫だし、テレサがすごく賢いでしょう、麻智よりもね。年下なのにしっかりしてるし、安心してますね」
里英子さんの当時の“動揺”は、特別なものではありません。
同性愛は、かつて「異常性欲」、病気だとみなされていました。
その認識が正されたのは、1990年代に入ってからです。
同性婚も『普通』の世の中になれば、大切な人を堂々と紹介できて、家族の心配もなくなる。
麻智さんはそう信じて、裁判に臨んでいます。
■「子供を産み育てる男女」 国が主張する“結婚”とは
本人尋問の日を迎えた、2021年10月。
原告の同性カップル3組が大阪地裁の法廷に立ち、裁判官に直接思いを伝えました。
麻智さんは、最後にこう訴えました。
【麻智さん】
「どんなに社会が進んでも、同性愛者は生まれてきます。その子たちが悩まず、希望を持てる社会にするのは、今いる大人たちの責任です」
国側は、「結婚は子供を産み育てる男女を保護するための制度」だという主張を変えることなく、2022年2月に審理は終了しました。
同性婚を認めることで生じる懸念や問題など、具体的な反論内容は出てきませんでした。
【テレサさん】
「古い理想の家族の形だけを守りたいのか、ここに暮らしているみなさんの暮らしを守りたいのか。検討するんだったら、本当に検討して本当に議論してほしい」
【麻智さん】
「差別的なところがなくならない、偏見がなかなか根強いのは、やっぱり国の態度が元凶にあるんだなっていうのを、ひしひしと今は感じています。なので、裁判所が思い切った判決をして、変えてほしい」
結審後の報告集会で、2人は静かに語りました。
■世の中に広がりつつある理解 これからの未来のための戦い
国の制度が変わらない中でも、世の中の理解は着実に広がっています。
自治体が同性カップルを公的に認める「パートナーシップ制度」が全国に広がり、同性パートナーを異性の配偶者と同等に認める企業も増えてきました。
性の多様性を尊重する「プライド月間」の6月、京都の街はレインボーカラーに染まっています。
テレサさんのお腹には、今、新しい命が宿っています。
【麻智さん・テレサさん】
「あ、動いた!」
「動いてるね」
友人から精子の提供を受けて、妊娠しました。
今の制度では、麻智さんが親権を持つことはできませんが、2人の子供として育てると決めています。
【テレサさん】
「子供ができたから、『2人カップル』として戦うんじゃなくて、『家族』として。今の人たちだけじゃなくて、うちらの子供も含めて、これからの生まれてくる人たち、よりこれからの未来のためにという気持ちが強くなっています」
3年に及んだ裁判の判決は、目の前です。
【麻智さん】
「セクシャリティを負い目に感じていたところは若いときからあって、だけどそれは完全に払拭したかな。でもそれは、本当に周りの方の後押しが大きかった。やっぱり環境は大事だと思います。だからちゃんと環境ができたら、みんなそんなに悩まずに済むんだろうなって思うから、早くそんな環境になってほしいし、そうなるための第一歩が同性婚だと思う。制度ができるかどうか、私たちを認識して同じ平等の権利を与えるか。そこが本当に重要じゃないかなと」
異性カップルは結婚できて、同性カップルだったら結婚できない。
この違いについて、司法はどのような判断を下すのでしょうか。
判決は、6月20日に言い渡されます。
■大阪地裁判決へ 裁判の注目ポイントは
結婚の自由をすべての人に求めた、いわゆる同性婚訴訟。
2021年3月の札幌地裁判決に続き、全国で2番目の大阪地裁判決に注目が集まっています。
原告たちは、同性同士の結婚が認められない現在の法律は、憲法が定める「婚姻の自由」と「法の下の平等」に違反するとして、立法を怠った国に対して損害賠償を求める裁判を起こしました。
目的は金銭の要求ではなく、現在の法律の違憲性を問うこと。司法による「違憲判断」を積み重ねて、立法を強く促したいとしています。
異性カップルは結婚できて、同性カップルは結婚できない。
この取り扱いの差が、「合理的」なのか「不合理」なのかが、今回のポイントです。
そこで参考になるのは、札幌地裁判決です。
札幌地裁は、「婚姻の自由」を定めた憲法24条違反の主張について、憲法違反ではないと判断しました。その理由として、同性婚は許されないという理解の下に憲法が規定された経緯や条文の文言に照らせば、異性婚について定めたものであり、同性婚について定めるものではないとして、「同性婚を認めないことが憲法24条に違反すると解することはできない」と判断しました。
また、国が立法措置を怠っているという原告側の損害賠償請求は、「同性婚の議論がされるようになったのは最近のこと」として、請求を棄却しました。
一方で、同性婚が認められないのは、法の下の平等を定める憲法14条に違反すると全国で初めて判断。
「性的指向は自らの意志では選択・変更ができないものであるのに、同性カップルが結婚による法的利益を一切受けられないのは、差別的な取り扱いである」としました。
その差が不合理だと判断した背景には、同性愛は病気ではないという医学的・科学的知見の確立、セクシャリティなどを理由にした差別解消を求める国民意識の高まり、諸外国では同性婚やパートナーシップ制度を導入する法律が作られていることなどを挙げました。
さらに、婚姻の目的については、国側は「子供を産み育てる男女の共同生活の保護」としていましたが、札幌地裁は「子の有無、子をつくる意志・能力に関わらず、カップルの共同生活自体の保護も重要な目的」であるとしました。
大阪地裁は、セクシャリティについて、婚姻の目的についてどう考えるのでしょうか。
札幌地裁判決の理論を越えて合憲判決を出すのか、それとも違憲判決を出すのか、はたまた司法判断を回避するのか―。
注目が集まっています。
(取材:竹中美穂/関西テレビ「報道ランナー」2022年6月14日放送)