兵庫県警の機動隊員だった、木戸大地さん。
7年前、職場の寮で自ら命を絶ったのは職場でのパワーハラスメントが原因だと、両親が県を訴えた裁判が、6月22日に判決を迎えました。
司法はどのような判断を下したのでしょうか。
■多くの表彰を受けた機動隊員に何が…
【木戸大地さんの父・一仁さん】
「判決が出るまでの最後の月命日なんです。月命日の15日には毎月行くわけ」
6月15日、木戸一仁さんと、妻の久美子さんは、広島市の墓地を訪れました。
ここには、息子の大地さんが眠っています。
【一仁さん】
「できることなら大地の死が無駄にならないように、兵庫県警がみんなから信頼される職場に変わってほしい。それが大地が望んでいたことだと思う」
兵庫県警の機動隊員だった大地さん(当時24)。
山岳救助などを担うレンジャー隊員を務め、多くの表彰も受けていました。
普段仕事のことを話さなかったという大地さんが、一度だけ一仁さんに語ったことがあります。
【一仁さん】
「『お父さん今日はもう少し飲みたい、話がある』って言って、その時初めて、あの子が泣きながら『警察組織は腐っている。あまりにも内部で筋の通らない、曲がったことがまかり通る組織だ』と、『どんなことがあっても、組織をちょっとでも変えたいんだ』と。あれぐらいですかね、あの子が警察組織の内部のことを私たちに話したのは。どんなことがあったか、どんなことで追い詰められていたかは分かりませんでした」
■遺書に登場した「A隊員」と仲間たちの証言
2015年10月、職場の寮で首をつり、自ら命を絶った大地さん。
大地さんがA隊員に宛てて残した、1枚の遺書があります。
【大地さんの遺書】
「あなたの思い描いた通りになってよかったですね」
大地さんにとって、機動隊の先輩だったA隊員。
2人の間に一体何があったのか。
大地さんの死後、兵庫県警が隊員らおよそ120人に聞き取り調査をした資料には、大地さんに対するA隊員のさまざまな行動が記されていました。
【聞き取り調査の資料】
「A隊員は木戸のミスの所だけ『ボケ木戸』と書いた付箋をつけており、明らかに木戸だけを狙ったものでした」
「(自死行為当日の朝)A隊員が木戸に対し『お前、警察としてどんな行動しとんねん、なめとんのか。出ていけ』『覚えとけよ』と大声で叱責するのを見た」
「(自殺の原因についての心当たりについて)A隊員に怒られ続けたことが積もり積もった、当日の叱責が致命的」
一仁さんと久美子さんは、大地さんが自殺したのは職場でのパワーハラスメントが原因だとして、2017年に兵庫県を提訴。
しかし兵庫県警は、パワハラは存在しないと全面的に争う姿勢を示しました。
裁判の中で証人として出廷したA隊員も「何度もミスを繰り返すので危機意識を持たせるためだった」などと述べ、指導の範囲だと主張しました。
【一仁さん】
「43名の隊員が、大地が日頃からA隊員からいじめやパワハラを受けていたと証言をしている。2人は大地が自死に至ったのは『A隊員が直接の原因』だと。これでも認めない。じゃあ何人の隊員が認めたらパワハラを認めるのか」
大地さんの80回目の月命日。
一仁さんと久美子の姿は、大地さんの墓前にありました。
【一仁さん】
「6年8カ月前、火葬場で大地と最後のお別れをしたときに、できることなら厚い鉄の扉の向こうに一緒に行って旅立ちたかった、それぐらい…。我が子の変わり果てた姿を竹箸で収骨する親の気持ち…できることなら、どんなことをしてでも息子の仇をとってやりたい、それが本心です」
■迎えた判決の日 神戸地裁は…
裁判を起こしてから4年8カ月。
6月22日、ようやく判決の日を迎えました。
神戸地裁の久保井恵子裁判長は、A隊員が大地さんに対し「ミスを怒鳴って叱責し『ボケ木戸』と書いた付箋を報告書に貼った行為」などがパワハラにあたると認定しました。
一方で、「そのような行為の頻度が執拗(しつよう)であったとまでは言えない」と指摘し、パワハラと自殺との因果関係は認めませんでした。
その上で、兵庫県に対して100万円の支払いを命じました。
【一仁さん】
「大地は決してそんなやわな人間じゃありません。何人の隊員が『パワハラであった』『大地を死に追い詰めた』と言えば、司法は私たちの望むような判決を下してくれるのだろうか…」
大地さんの両親は、控訴する方針です。
一方、兵庫県警は「判決内容を検討し、関係機関と協議の上、今後の対応を決めたい」とコメントしています。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年6月22日放送)