長時間労働で苦しんでいる若い人たちに倒れてほしくない 時間外労働1カ月155時間 “適応障害発症” 大阪府立高校教師の訴え 大阪地裁全面的に認める 2022年06月28日
1カ月の残業時間は155時間…。
長時間労働が原因で適応障害を発症したとして大阪府立の高校の現役教師が府を訴えた裁判で、大阪地裁は教師の訴えを全面的に認めました。
【西本さん会見】
「ほっとしました。ここまで折れずにやってきてよかったなって思ってます」
判決後の会見で喜びを語ったのは大阪府立高校の教師・西本武史さんです。
ひと月の時間外労働が最大で155時間にも及んだと訴える勤務の内容は、どのようなものだったのでしょうか…。
西本さんの業務量が急激に増加したのは5年前…。
クラスの担任や世界史の教科担当に加え、ラグビー部の顧問と生徒指導担当、そして海外への語学研修の引率責任者まで任されたのです。
これは、当時西本さんが校長に宛てて送ったメールです。
「いつか本当に過労死するのではないかと考えると怖いです。体も精神もボロボロです」
「適正な労務管理をしてください」
しかし、状況は改善されず西本さんはその後、適応障害を発症しました。
【西本さん】
「やりがいはもちろんもってやっていて、それをうまく利用されている、搾取されて、やりがい搾取という状況があるのかなと思う。多少きつくてもぐっとこらえてやってしまうので」
現在、教師の時間外労働は校外実習・修学旅行・職員会議・災害対応しか認められず部活の指導などは教師の「自発的な行為」とされ、労働として扱われていません。
今回の裁判の中でも、大阪府は「教師の仕事は自主性、自発性に委ねられるところが大きく、校長らの対応は安全配慮義務を怠ったと言えない」と主張していました。
しかし、6月28日の判決で大阪地裁は「時間外労働が校長の命令による勤務ではなくても、勤務管理者である校長は業務量の重さを評価して教師の安全に配慮する義務がある」と指摘。
そのうえで、「校長は追い詰められた精神状態をうかがわせるメールを受信しながら、抜本的な業務負担の軽減策を講じなかった」として西本さんの訴えを全面的に認め大阪府に対しおよそ230万円の損害賠償を命じました。
【西本さん会見】
「これからの教員を目指す若い人たちや、長時間労働で苦しんでいる若い人たちに、もう倒れてほしくない。だからこそ行政に動いてほしい」
大阪府は「主張が認められず残念です。判決内容を精査し、今後の対応を検討します」とコメントしています。
教職員の「ブラックな働き方」は、この裁判の原告に限ったことではありません。
日本教職員組合が2021年に実施したアンケート調査によると、全国の公立学校(小・中・高)の教職員の時間外労働は、平均で約96時間。
中学校では、約120時間という結果が出ました。
また、文部科学省によると、精神疾患で休職した(している)教職員の数は、5180人。そのうち、1020人が退職しています。
時間外労働の長時間化の一因として考えられるのが「部活動」です。
文科省は、「超勤4項目」として、校外実習・修学旅行・職員会議・災害対応を時間外労働として認めていますが、「部活動の指導」は認めていません。
大阪府もこの方針をもとに、裁判では「部活動の指導は自発的な行為で、命令していない」などと主張し、原告の教員と争っていました。
これに対し、大阪地裁の横田典子裁判長は「この高校では部活動が生徒指導の一環と位置付けられ、特殊勤務手当・旅費の支給や、人事評価の対象となっていて、業務であることは明らか」との判断を示し、大阪府側の主張を一蹴した形です。
では、部活動指導の負担を減らすために、どのような対策が考えられるのか。
スポーツ庁の有識者会議は、6月6日、「公立中学校の運動部の『地域移行』」を提言しました。
具体的には、以下の指針を示しています。
・地域のスポーツクラブなどに指導を委託する
・来年度からの3年間で、段階的に移行していく
・まずは土日から いずれは平日も
もし実現すれば、運動部の顧問を担当している教員の時間外労働を、大きく減らせる可能性がありますが、一方で課題もあります。
たとえば、「指導者の確保」です。
特に、人口の少ない地域や、マイナー競技では、指導者を見つけるのが難航すると考えられます。
また、「費用負担」の問題もあります。
民間に委託する際に発生する費用は、自治体が負担するのか、それとも保護者が負担するのか、国が補助金などでまかなうのか。
特に「保護者負担」となった場合は、丁寧な説明が求められそうです。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年6月28日放送)