『AYA世代』…15歳以上40歳未満の若いがん患者だけの撮影会 “晴れ着姿”で今の自分を残す 写ったのは今まで気付かなかった“自分の姿” 「乗り越えてきた自分」「ちょっと前向きになれそう」 病気と自分に向き合って生きる 2022年08月25日
2022年7月、AYA世代と呼ばれる若いがん患者を対象にした、振袖の撮影会が行われました。
鮮やかな振袖姿の自分の写真を見て、何を思ったのでしょうか。
■クリスマスに医師から「がん宣告」、28歳で「舌がん」に 晴れ着姿で臨む撮影会
2022年5月、大阪・東大阪市の着物店で振袖を選んでいる女性がいます。
紅露まりさん(30)です。
選んだ振袖を着た自身の姿を鏡で見てうれしそうです。
【紅露まりさん】
「やばい、めっちゃいいです。今までにない組み合わせ」
【カメラマン】
「これで成人式行ったらいいやん」
【紅露まりさん】
「あぁ…10年サバ読みはちょっときついです」
紅露さんは、2020年に「舌がん」と診断されました。
【紅露まりさん】
「12月25日のクリスマスの日、MRIを受けに行った時に主治医の先生に呼ばれて『がんです』って。言われた日が“言われた日”だったので、こんなクリスマスプレゼント要らないんだけどと思って。舌の縦左半分まるまるなくなりました」
紅露さんは太ももの筋肉を舌に移植する手術をしましたが、その影響であごが腫れてしまいました。
【紅露まりさん】
「移植した関係で腫れているので、周りからしたら『あまり目立たない』って言われるんですけど、自分は(腫れた部分に)目が行くので、まだコンプレックスであることには変わらない」
■「がん患者だけの撮影会」 企画したカメラマンは元・がん専門病院の広報
撮影会を企画したのは、カメラマンの西尾菜美さんです。
元々がん専門病院で広報をしていました。
【西尾菜美さん】
「着付けの時、首大丈夫だった?」
【紅露まりさん】
「全然大丈夫です、腫れてるのはここなんで」
【西尾菜美さん】
「彼女がコンプレックスを抱えているのは重々分かっています。それも含めた彼女自身も撮りたいと思ってるんですよ。それも含めての彼女の人生の歴史であるし。それを含めて、これもきれいなんですよという写真撮影ができたらと思います」
この撮影会は着付けやメイク、撮影もすべて無料です。
参加するのは若い世代のがん患者です。
ほぼ完治して元気に過ごしている人を撮ることもあれば、余命わずかでも写真を撮りに来る人もいます。
西尾さんはがん患者支援の一環として始めましたが、撮影を続ける中で、写し出された笑顔には“特別な力”が込められていることに気づきました。
【西尾菜美さん】
「男の子が車いすで来られた時に、もう座っている時点でしんどそうなんですよ。本当に息をするのもしんどそうな状態でも、晴れ着姿の写真を撮りたいって。残りの自分の命を懸けた思い出を残すために来られるっていう方がいらっしゃった」
■AYA世代とは? がん患者全体のわずか2% 国からの経済支援少なく…金銭面で負担も
15歳以上40歳未満の世代はAYA世代(Adolescent and Young Adult)と呼ばれ、およそ2万人が毎年がんと診断されますが、がん患者全体の中ではわずか2%にすぎません。
がんになっても、国からの経済支援が少ないため、治療するのに多額の自己負担が必要で、“はざまの世代”とも呼ばれます。
【大阪国際がんセンター AYAサポートチーム 多田雄真医師】
「結婚する前に、医療保険に入っている人も少なくて、保険もない。仕事も失って収入も途絶える。そういう状況で、これからがんの治療せなあかんという風になってしまうAYA世代の方もおられるんですね。60、70、80歳になってから病気になるのと、全然違う悩み事を抱えますし」
■血液がん発症の女性 「抗がん剤」の影響で…あきらめかけた妊娠 高額な治療費も
AYA世代特有の悩みと向き合ってきた人がいます。
松井すずさん(27)。
2020年、血液がんを発症し、抗がん剤治療の影響で妊娠しづらくなりました。
【松井すずさん】
「自分の子供が持てないっていうのが本当にショックで。がんよりもショックだった」
将来の妊娠を考えて卵子の凍結保存を続けていましたが、毎月20万円の出費がかさみ断念しました。
【松井すずさん】
「水のように、全部お金が流れていくというか、消えていく。そういうので本当にもう…なんでここまで自分お金ためてたんだろうと。すごくつらかったですね」
松井さんは金銭的にも精神的にも追い込まれ、養子を迎えるか考えていた時に、奇跡的に自然妊娠することができました。
お腹の赤ちゃんと一緒に臨む撮影会です。
–Q:赤ちゃんと一緒に写真を撮る気持ちは?
【松井すずさん】
「めっちゃ楽しみです。娘が大きくなった時に『お腹におったんやで』って見せれるなあ」
■ついに撮影本番 晴れ着姿を“撮る” 撮影した写真を見て…「今まで気づかなかった自分」
7月23日、待ちに待った撮影会です。
ヘアメイクや着付けスタッフの他に医師と看護師も参加し、万全の態勢で迎え入れます。
最初は松井さんから。
お母さんも後ろでそっと見守ります。
いつもとは違うヘアセット、メイク…。
髪飾りもつけました。
お母さんも、娘がどんな姿になるか待ち遠しくてそわそわしています。
【西尾菜美さん】
「お母さん見てください、かわいいでしょ」
鮮やかなオレンジ色に身を包んだ松井さん。
照れくさそうにしています。
いつもは選ばない派手な色も、きょうの晴れ舞台にはぴったりです。
娘の晴れ着姿を見たお母さんの目が潤んでいます。
ここからは西尾さんの出番です。
緊張している松井さんを笑かせて表情をほぐしながら、撮る、撮る、撮る。
松井さん、笑顔がこぼれます。
ここでお母さんも飛び入り参加することに。
成人式の時も撮っていなかった、2人の写真です。
【西尾菜美さん】
「お母さんがすごく緊張してる」
撮影を初めて数十分、あっという間に終わりました。
【松井すずさん】
「傘持ってる写真がいいなと思いました。自分的には澄ました顔を見るのがちょっと恥ずかしくて、笑った顔のほうが自然で良いのかなと思います」
【松井さんの母】
「がんと宣告されたときの気持ちは今でもパッと出てくるので、こんなふうに一緒に写真を撮って笑ったり、そういう時間がすごくうれしくて。乗り越えてきたなって。このままずっとこういう時間が続いてほしいな」
続いて、紅露さんです。
今回は1つ仕掛けを持って来ました。
6歳から続けていたヴァイオリンです。
顎の腫れが気になり触っていませんでしたが、この日は久々に構えました。
いつもは明るい笑顔が素敵な紅露さんですが、ヴァイオリンを持つと凛とした表情に。
【紅露まりさん】
「自分、こんな表現するんだってびっくりしました」
気になっていた顎の腫れは…。
【紅露まりさん】
「自分の顔って毎日鏡で見てるのでそこに目がいっちゃうんですよね。腫れているっていうのが脳にインプットされているっていうのはあって。でも、きょう初めて私の顔見た人が『そこまで腫れてないよ』って言われて、そうなんかなって。ちょっと前向きになれそうですね」
がんに向きあってきた今の自分を晴れ着姿で撮影してもらう。
撮ることで自分も気づかなかった“新しい自分”が写し出される。
そんな力が写真にはあるのかもしれません。
(2022年8月23日放送)