資産家女性の殺害事件 逮捕の決め手は防犯カメラと状況証拠の積み重ね 黙秘続ける“養子”の28歳男は外資系保険の営業マンだった 被害女性は元顧客 2022年08月25日
大阪府高槻市で54歳の女性を殺害したとして、無職・松田こと高井凜容疑者(28)が逮捕されました。
関西テレビは、逮捕前の高井容疑者を何度か取材していました。
【高井凜容疑者】(2022年7月)
――Q:直子さんはどんな人?
「めっちゃええ人でしたよ。悲しいというより先にびっくりの方が最初は大きかった」
■2021年7月 独身女性が風呂場で溺死 右手には結束バンドが…
2021年7月、高槻市八幡町の住宅で、この家に1人で住む高井直子さん(当時54)が浴槽内で死亡しているのを、訪れた親戚が発見しました。
司法解剖の結果、直子さんの死因は溺死。
右手には結束バンドが巻かれていて、警察は殺人事件として捜査を始めました。
【直子さんの高校の同級生】
「昔からにぎやかな人でしたよ。静かな時はなかったです。まさか自分の近しい人がそんなことになると思ってなかったし、ショックだし何より悔しい」
捜査線上に浮上したのが、直子さんが亡くなるおよそ5カ月前に養子縁組をしていた高井凜容疑者。
直子さんには受取人を高井容疑者とする、総額1億5000万円の生命保険がかけられていたのです。
【高井凜容疑者】(2021年12月)
――Q:最後に会ったのは?
「6月の20…、6月の最終土曜日です」
――Q:どういう経緯で養子に?
「元々(直子さんは)独身できょうだいもいなくて…」
――Q:跡継ぎみたいな感じ?
「そうですね。向こうから打診が来て検討して」
――Q:なぜ受けた?
「受けないメリット、受けない理由がなかったです」
■養子縁組で“義理の息子”に 高井容疑者とは何者か
兵庫県出身の高井容疑者は、有名私立大学付属の中学に進学し、大学までアメリカンフットボール部に所属。
高校時代は日本代表にも選ばれたことがあるということです。
【高井容疑者の中学・高校・大学の同級生】
「学校の成績もよくて、部活もしっかり目標に対して頑張ってる子。最後に会ったのは凜の結婚式ですね。ご夫婦さん楽しそうだったし、1人1人と会話をして終始楽しそうでした」
一方で別の知人は、高井容疑者が社会人になってから様子が変わったと話します。
【高井容疑者の高校・大学時代を知る人】
「急に高級車とか女性関係とかそういったところが派手になった印象があります。SNS上でおおっぴらにしていたので、『何でそんなお金持っているのかな?』と。有名企業に就職していたというのもありますけど、何かちょっと怪しいなって感じていましたね」
高井容疑者の知人らによると、高井容疑者は大学卒業後、外資系のコンサルタント会社に就職。
その後は外資系の保険会社に転職しましたが、元職場の関係者によると、トラブルが続いていたということです。
【外資系保険会社時代の関係者】
「最初は普通の青年だった。他の人に比べて営業成績は良かった。しかし入社から約1年後あたりから、『言われた内容と違う』といった顧客からのクレームが複数届くようになり、中には女性に『結婚するから保険入って』など、コンプライアンス違反と思われるようなクレームも聞いた」
関係者によると、その頃から高井容疑者は他の営業マンと比べて顧客が保険を解約する率が異常に高く、トラブルがきっかけで会社から処分を受けたこともあるということです。
その後は金融系のベンチャー企業に転職した高井容疑者ですが、養子縁組後の去年春頃、当時の職場の複数の同僚に「殺し屋の知り合いがいないか」と話していたことが関係者への取材で分かりました。
事件の1カ月ほど前、仕事の関係で高井容疑者と会ったという人は…
【高井容疑者の知人】
「『金融機関で仕事をしてきた、今でもやってるモチベーションは、“お金”』とすごい言っていて。お金に対して『稼ぎたい』という意欲は強いんだなと思った」
■「何でここにいるって分かったんですか…」 報道機関を警戒する姿
事件から1年後、関西テレビは引っ越しを繰り返していた高井凜容疑者の自宅を割り出し、改めて取材しました。
【高井凜容疑者】(2022年7月)
「ここにおるってなんで分かったんですか?」
――Q:報道機関なんで
「めっちゃビビってるんですけど」
――Q:一言だけ
「無関係です」
――Q:犯人に対してどう思う?
「捕まってほしいと思います」
――Q:保険金の受取人になっていたのは知っていた?
「知らなかったです」
潔白を主張する高井容疑者。
【高井凜容疑者】
「アリバイはありますからね。4日間、東京にいたんです」
――Q:何してはったんですか?
「だいたい家にいたり…家の周辺で買い物を。自炊してるんで」
――Q:4日間東京にいらっしゃった?
「そうですね、裏付けもしてもらってたんじゃないかな。だから、聞きに来られても…」
しかし、関西テレビの取材で、事件当日に高井容疑者が大阪にいたとみられることが分かりました。
高井容疑者とみられる男が、直子さんの自宅周辺の防犯カメラに複数回、映っていたのです。
大阪府警の捜査で、高井容疑者は事件当日2時間ほど直子さんの自宅に滞在し、その後、東京の自宅に戻ったことが確認できたということです。
また、高井容疑者が受取人になっていた生命保険は、元々は直子さんの母親が受取人で、犯行のおよそ2カ月前に高井容疑者が書類を偽造し、変更していたことも分かったということです。
大阪府警はこれらの状況証拠から、保険金目的で直子さんを殺害したとして、8月25日、高井容疑者の逮捕に踏み切りました。
警察の調べに対して高井容疑者は、「黙秘します」とだけ話したということです。
■事件をめぐる経緯
事件発生から1年後の逮捕。ここに至るまでの経緯を見ていきます。
2021年2月:高井凜容疑者が高井直子さんと養子縁組。保険金約1億5000万円の受取人に
2021年7月:高井直子さんが自宅の浴槽で溺死。右手には結束バンドが…
2022年7月:高井凜容疑者が“養子縁組届”への関係者の署名を偽造した疑いで逮捕
2022年8月:高井凜容疑者が直子さん殺害などの疑いで逮捕
今回、高井容疑者を殺人容疑での再逮捕に踏み切った決め手として、“事件当日の防犯カメラの映像”が、供述と矛盾していたということが挙げられます。
事件当日は「東京の自宅にいた」と答えていた高井容疑者。
しかし、高井容疑者とみられる男が、直子さんの自宅近くの防犯カメラに映っていました。
右手には軍手をつけて、左手にはテープのようなものを持っているように見えます。
事件当時、高井容疑者は東京都内のマンションに住んでいました。
警察は、東京から高槻まで“防犯カメラのリレー捜査”を行い、高井容疑者の足取りを追いました。
直子さんの自宅を通過していれば映っているはずの防犯カメラに映っていない、といったことから、現場に入ったという確信を持ったのです。
逮捕に至ったもう一つの決め手が、状況証拠の積み重ねです。
室内には現金70万円が残されており、強盗目的ではないとみられること。
さらに、ビールの空き缶が残されていたものの、直子さんの体内からはアルコールが検出されなかったこと。
これらのことから、警察は“事故に見せかけた殺人の疑いがある”と判断しました。
7月の「養子縁組届」偽造での逮捕以降、警察は高井容疑者の取り調べを進めてきましたが、高井容疑者は黙秘を続けています。
しかし、防犯カメラの映像と状況証拠の積み重ねから、高井容疑者が直子さんを殺害したとみて、今回の逮捕に踏み切ったのだと思われます。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年8月25日放送・関西テレビ府警担当記者 泉谷賢一)