「備えない」のが新常識? 今話題の「フェーズフリー」な防災 平時にはインテリアで有事にはトイレになるアート、防災をテーマにしたスポーツ…“ネオ防災”を一挙紹介 2022年09月01日
今、“備えない防災”という考え方が広がっています。身の回りにあるモノやサービスを非常時に役立てることができる「フェーズフリー(局面をなくす)」です。
日常生活で使えて災害時にも活躍する、注目の「フェーズフリー」を体験しました。
■インテリアになじむ防災グッズ いくつ見つけることができる?
吉原アナが通されたのは、モダンなインテリアでまとめられたおしゃれな一室です。壁には絵画、ソファの上にはふかふかのクッション、テーブルの上にはお菓子にペットボトル飲料、紙コップ、ティッシュ、ペンといった日用品が。
大きなバッグを抱えたディレクターは、「この部屋の中に防災グッズがある」と言いますが…
吉原アナは部屋の中を歩き回りますが、何も見つけることができません。見兼ねたディレクターがヒントを出しました。
【ディレクター】
「さっき触ってましたよ」
【吉原アナ】
「触ってた?何も触ってないよ…あ、触ったぞこれ。あれ?ただのクッションじゃない。何だろう、すごくもこもこしたものが…なるほど!これ寝袋なんですね」
違和感なく部屋になじんでいた、カーキ色のクッション。ファスナーを開けて広げると、成人男性がすっぽり包まれるサイズの寝袋になりました。株式会社ドリームの「SONAENO クッション型多機能寝袋(12800円)」です。
■備えない防災「フェーズフリー」 大手スーパーにも
このような防災グッズに取り入れられているのが、「フェーズフリー(局面をなくす)」という新しい考え方。一体どういうものなのか、「フェーズフリー」という言葉の生みの親に聞きました。
【フェーズフリー協会 佐藤唯行 代表理事】
「これまでの“備える”防災に対して、“備えない防災”とよく言われます。普段の私たちの暮らしを豊かにしているものが、非常時に私たちの生活や命を支えてくれるっていう考え方が“フェーズフリー”なんですね。『備えなきゃ』っていうより、『もう備わっている』。こう、解決していくような」
普段から便利に使えるものが、災害時にも役立つ。これが、「フェーズフリー」という考え方です。スーパーマーケットでも、徐々に広がりを見せているようで…
【イオン大阪ドームシティ店 荒木隆行課長】
「“日常のストック”を“非日常の備え”に。また最近の非常食は、通常の食卓でもおいしく時短で作れるとして、日常から活用方法を工夫されています」
イオンでは、8月から防災のコーナーを拡大していて、普段から食べられる防災食は人気が高いそうです。
■まだある“フェーズフリー”グッズ
先ほどのお部屋に戻り、フェーズフリーグッズ探しを続ける吉原アナ。今度は机の上の日用品を確認します。
【吉原アナ】
「お、ボールペン…何の変哲もないボールペンですね。これはフェーズフリーグッズではございません」
【ディレクター】
「フェーズフリーグッズです!」
【吉原アナ】
「これが!?」
吉原アナが手に取ったのは、三菱鉛筆(uni)の「加圧ボールペン パワータンク(166円)」。ペン先で空気が専用インクを押し出すことで、ぬれた紙にも書ける仕組みの「加圧式ボールペン」です。
【吉原アナ】
「すごい技術!水害などで紙がぬれたとしてもメモを書けるんですね」
サンナップの「デザイン紙コップ メジャーメント150ml 50個入り(295円)」は、計量カップとしても使える紙コップで、日本製紙クレシアの「ティッシュペーパー スコッティ ウエルネス5箱(394円)」は、エクササイズにも使えるそう。
いずれも、フェーズフリーに力を入れている、オフィス向けの商品を展開するアスクルで買ったものです。
また、通常は半年ほどの賞味期限を3年まで伸ばした“保存食”になる梅干しは、株式会社バンブーカットの「備え梅 4粒入り(2160円)」。おしゃれなデザインで、手土産にもおすすめしているそうです。
さらに、ディレクターが「これもです」と差し出したのは、取材中にずっと持っていた大きなバッグ。災害時に水を入れることができる「heart bridge バッグにもバケツにもなる超撥水バッグ(3278円)」です。
ペットボトルの水を注いでみると…
【吉原アナ】
「うわ~、もれてない!ええ…マジックみたい」
もう一つ、吉原アナが最後まで見つけられなかった“フェーズフリー”が、壁にかけられた小さな絵画、「アートトワレ(1760円)」。中にビニール袋と凝固剤が入っていて、便器に装着して使える「簡易トイレ」になります。
普段から飾れるおしゃれなデザインにすることで、有事の際の「どこにあるか分からない」といった悩みを解決できる、フェーズフリーなアイテムです。
最近はやりのキャンプも、フェーズフリーなアクティビティ。電気もガスも通っていないところで楽しむことができていれば、ライフラインが寸断されたときも焦らず対処することができます。
■フェーズフリーはグッズ以外にも “楽しい”防災とは
このフェーズフリーという考え方、グッズなどに限った話ではありません。フェーズフリーで“楽しい防災”を実現している新たな取り組みがあるということで、取材しました。
障害物の上で台車を押したり、救援物資に見立てた箱を運搬したり…こちらは「防災」と「スポーツ」を組み合わせた、「防災スポーツ」です。
【シンク 篠田大輔代表】
「災害時の被災地の状況とか被災者の声というものをヒアリングして、それをスポーツ競技として落とし込めるものにしている」
篠田代表が阪神淡路大震災で被災した自らの経験をもとに発案し、2018年から普及活動を続けている「防災スポーツ」。「いつもの習慣が、もしもの力になる」と、生き抜く力を養うことが目標です。
社会課題の解決にスポーツを活用した取り組みとして、スポーツ庁長官賞を受賞するなど、国も注目の取り組みです。
【シンク 篠田大輔代表】
「スポーツとして体で覚えていったもので、もしもの時にすぐ行動に移せればっていうところがある」
「スポーツ」と融合させることで、いざというとき行動に移せる力になる。“フェーズフリー”な取り組みなんです。
また、兵庫県明石市でも…
【吉原アナ】
「みなさん何をされてるんですか?」
【明石青年会議所 地域の防災ヒーロー創造 内藤慧委員長】
「これから行う『Bスポーツ』の準備をしております。防災の『B』で『Bスポーツです』」
明石市の青年会議所が8月から始めた「Bスポーツ」。地元住民向けの運動会を開催し、競技で獲得したポイントを縁日で使えるようにするなど、「楽しみながら防災を学べる」ことを意識しています。
参加した人たちに話を聞くと…
【小学2年生】
「ほんまに地震になったら、そういう感じにすぐに逃げれるようになろうって思った」
【家族連れ】
「座学というか、教科書だけやと難しいと思うんで。実際に起きた時にどうしようっていう話もできると思うので、本当にいいきっかけかなと思います」
【明石青年会議所 成田收彌理事長】
「自治体や国が助けてくれるのを待つだけっていうのも、本当は良くないんだろうなと思っていて。スポーツの感覚で楽しくやって、結果的に、有事の際に“体が覚えている”といった状況を作れたらいいなと」
地震に備えたものだけでなく、水害や火災を想定したものなど、現在は6つの競技があるそう。吉原アナはまず、「人間くるまレース」に挑戦しました。火災での避難を想定して、丸くつないだ段ボールの中を四つんばいで進む競技です。
【吉原アナ】
「疲れるー!こういう動きしたことないんで、意外と腹筋使ったり。火事場って視界が悪くなっていると思うけど、段ボールの中も前が見えなくて視界が悪いので、災害をイメージできる」
続いては、2人以上で土のうを1分間運び続ける「土のうリレー」。吉原アナは、中学3年生とペアを組むことになりました。10キロ~25キロまで、さまざまな重さの土のうを三角コーンの間でリレーします。
用意された土のう1つを残して制限時間が終了。ペアを組んだ中学生に感想を聞いてみると…
【中学3年生】
「人と協力することも大切なので、スポーツって協力してやることとかが多いから。災害が起きたときにどう動いたらいいかを考えることができました」
スポーツとの融合だからこそ、防災の知識だけでなく「協力することの大切さ」を学ぶことができるんです。
災害時にどう動くかをスポーツに落とし込むことで、「もしもの時の一歩」につなげる。「楽しい防災」もまた、“フェーズフリー”な取り組みです。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年9月1日放送)