日本の「カルト規制」どうすべき? 「被害感情を持てない人を救う」を実現するには…フランスの「反セクト法」を参考に 「宗教団体などの“反社会性”は見える化を」 対策検討会メンバー2人に聞く 2022年09月08日
旧統一教会の問題をきっかけに求められるようになった「カルト規制」。20年前に施行されたフランスのカルト対策「反セクト法」を、日本も参考にすることができるのでしょうか。
カルト問題に詳しい立正大学教授の西田公昭さんと元衆院議員で弁護士の菅野志桜里さん、「霊感商法等の悪質商法への対策検討会」のメンバーでもあるお2人に話を聞きます。
“セクト”とは日本で言うところの“カルト”です。フランスの「反セクト法」は、その団体の性質ではなく反社会的行為に着目して、個人だけでなく団体も処罰対象となる法律です。実績はまだありませんが、解散命令を出すこともできます。
――Q:“団体の性質”ではなく、“構成員が何をやっているか”に着目しているようですが、どうしてでしょうか?
【菅野弁護士】
「“教え”そのものに国が踏み込むことはできないけれど、“行動”に踏み込むことはできる。そういう切り分けをしています。ここは日本でも参考にできると思います」
――Q:慎重につくった制度ということですね。もう1つのポイントが、“反社会的行為”の中に「無知あるいは脆弱(ぜいじゃく)な状況を不当に乱用する行為」が含まれているということです。いわゆる“マインドコントロールで判断力を奪う行為”で、判断が難しいように思いますが…
【西田教授】
「問題は教え込み方、組織の運営の仕方です。例えば社会的に遮断して教えるとか、恐怖をいたずらに与えるとか、全財産を寄付しなければならないとか、権威への絶対服従を命令するとか、集団の中でのプレッシャーを与えて合意させるとか。こういったことは違法と言えると思います」
――Q:“無知あるいは脆弱な状況を不当に乱用する”という行動を規制しているということで、法律に書き込めているんですね。社会心理学の専門家が都度審査するというような状況はないと思っていいんですか?
【西田教授】
「項目を決めてちゃんと確認していく、といった作業は必要なんじゃないかと思います」
――Q:日本はどういったカルト規制をするべきでしょうか。菅野弁護士は「(フランスの)反セクト法を参考に既存の法律やルールを変更」ということですが…
【菅野弁護士】
「反セクト法では、“こういう行為をやるとこういう罰があります”の“こういう行為”の一部に、“無知あるいは脆弱な状況を乱用して害を与える”ということを入れています。ここは日本の法律にも入れられると思います。フランスもこれだけを処罰の対象にしているのではなく、だますこと、いかさま医療、押し売りなどさまざまな項目があるんですけど、マインドコントロールされている人は、だまされている、押しつけられているとは思わない。そこをすくい取るバスケット的な要件として、“無知あるいは脆弱な状況を乱用して害を与えてはいけない”と。ここは日本でも十分入れられると思います」
――Q:“無知あるいは脆弱な状況”の判断というのは、その人が被害感情を持っているか否かに関わらず認定されるんですか?
【菅野弁護士】
「この場合は、被害感情を持てない人を救う目的があるので、そこは狙いになると思います。客観的に見れるかどうかといったところですが、例えば『肉親を亡くしたばかりの女性に、霊が苦しんでいると言って、借金までして献金を募った』といった資料に基づいて考えていくということになります」
――Q:ただ、そのまま一気に「解散命令」まで出すのは行き過ぎ、というのが菅野弁護士のご意見ですね。既存の法律やルールを変更ということで、具体的に「消費者契約法」の改正を挙げられています。2018年の消費者契約法改正で霊感商法の取り消しが可能になりましたが、「壺を買えば悪霊から“必ず”逃れられますよ」というような、“確実に不利益が回避できる”といったことを告げた場合に限られるんですね。菅野弁護士はこれに対して、「反セクト法のようにマインドコントロール的な行為も取り消し対象にすべき」ということですが…
【菅野弁護士】
「多分、霊感商法を行う団体のマニュアルには『“確実”という言葉を使うな』といったことが書いてあると思います。フランスの反セクト法は、違反すると刑事罰や、宗教法人どころか団体としての存続も許さない、というかなり強い効果なんですね。日本の場合は、こういったつけ込む形での契約や献金は取り消せますよ、というようにマイルドに、しかし効果的な法体系には十分していけると思います」
――Q:最近は一部団体も「壺を売っていない」と聞きます。売買契約を結ばない形で献金させているということですが、今の消費者契約法では規制できないですよね?
【菅野弁護士】
「壺から献金へ、と言われてますね。『霊感商法等の悪質商法への対策検討会』でも出たのですが、せっかく2018年に霊感商法の取り消しができるよう法改正したのに、使われている裁判例が見当たらないんです。原因の一つとして献金に対して効果的でないというのが上げられると思います。たとえば公益法人には、寄付を求める際に強要してはいけないといったルールがあります。宗教法人も“世のため人のため”だから税制優遇を受けているはずなので、『人を傷つけるようなお金集めはいけない』というようにルールを見直すべきだと思います」
――Q:“契約の取り消し権”には時効が必要で、霊感商法の取り消しについては現在5年となっています。マインドコントロールを受けていた人が、5年以内に気付いて「取り消してください」と言えるのでしょうか?
【西田教授】
「そういうケースがないとは言いませんが、5年や10年以上信者でいる人はたくさんいますので、そういう人や家族はどうにもならなくなってしまいますね。例えば、信者でいる間はカウントしない、時効の計算に含めないといった方法があると思います」
――Q:お子さんが声を上げるような仕組みもあり得るでしょうか?
【菅野弁護士】
「あり得ると思います。時効がなぜ進むかというと、被害を受けて申し立てできたのにその権利を使わなかったからです。そう考えると、マインドコントロールを受けて自分の自由な意思を奪われている間は申し立てようがないので、その間はカウントしないということは考えられると思います。性被害を受けた子供の時効の起算点の問題ともつながってくると思います。被害認識と時効の起算点をリンクさせる動きです」
――Q:西田さんは「宗教団体などのカルト性を目安として数値化すべき」としています。過去に「団体の“反社会性”を見える化」するという研究をされていました。「入会時、外部の人に相談させない」や「脱会するとき『不幸が起こる』と脅される」など、独自に51の項目の基準を作ってチェックする。255点満点で、旧統一教会は206点と、オウム真理教の204点と並ぶ高さだったそうですね。一般の宗教は60点未満なんで大きな差がついていたということですが、この基準でカルト性を浮かび上がらせることができるということですか?
【西田教授】
「自己点検にはなると思います。客観的な指標を用意しないと自浄努力をしないんじゃないでしょうか。大学のように、宗教法人だってそういったものがあっていい。できれば第三者的な機関がやった方がいいと思います」
(関西テレビ「報道ランナー」2022年9月8日放送)