知らぬ間に不妊手術をされた 旧優生保護法によって奪われた「子供を産み育てる喜び」 障害者は産んではいけない…“戦後最大の人権侵害”と向き合う夫婦の戦い 2022年09月22日
「戦後最大の人権侵害」とも呼ばれる、“旧優生保護法”。障害のある人の遺伝子を「不良」として排除しようとした、かつての国の取り組みによって、知らない間に子供を産めない体にされた人たちがいます。苦しみを抱えながら、今も戦い続けている夫婦の声です。
■不妊手術されたこと知らなかった… “将来の子”も奪われた 耳が聞こえない夫婦
大阪府に住む野村さん夫婦(仮名)。台所で手話をしながら料理をしています。2人は耳が聞こえません。20代で結婚してから50年以上連れ添ってきました。
野村さん夫婦(仮名)*夫は80代、妻は70代
「いただきます!!」
【夫・野村太朗さん(仮名)】※手話
「おいしいな、おいしい!」
【妻・野村花子さん(仮名)】※手話
「ウーフフフフフ」
結婚してからおよそ5年後に、待望の第一子を妊娠しました。
しかし、9カ月がたったころ、病院から赤ちゃんに異常があると言われ、詳しい理由も聞かされないまま、帝王切開で女の子を出産しました。
【妻・野村花子さん(仮名)】※手話
「ずっと自分は入院をしていて赤ちゃんはどこに連れて行かれたのかが分からなかった」
【夫・野村太朗さん(仮名)】※手話
「赤ちゃんが亡くなったっていう知らせがあったんです。それで慌てて行くと面会もできないっていうふうに言われて。『駄目です』っていう仕草をされて。妻とは面会ができず、別の場所に行くと赤ちゃんがもう白い包帯に巻かれて亡くなっている状態だったんです」
なぜ我が子は亡くなったのかー。家族や病院に聞いても、教えてもらえませんでした。
2人はそれでも、子供が欲しいと心から願っていました。しかし、何年経っても2人目の子供を授かることはできませんでした。
妻の花子さん(仮名)には、帝王切開と同時に、不妊手術が施されていたのです。
【夫・野村太朗さん(仮名)】※手話
「(子供が)なかなかできなくておかしいなと思っていた。年齢を重ねたせいなのかとずっと思っていて、仕方ないと思っていました。不妊手術をして子供が産めない人が他にもいるよということを聞いて、もしかして私たちもそうなのかなと思った」
■国が強制した“不妊手術” 「不良な子孫の出生を防止する」とした『旧優生保護法』
六法全書に記載している「不良な子孫の出生を防止する」ことを目的とした「旧優生保護法」。わずか26年前まであった法律です。
この法律の下、障害のある人たちが子供を産めなくする不妊手術や中絶手術が行われていました。不妊手術をされた人の数は分かっているだけでおよそ2万5千人に上ります。
この考え方は、教育の場にも持ち込まれました。
『高等学校学習指導要領解説 保健体育編』という本は、妻・花子さん(仮名)が手術を受けた当時、文部省が発行した高校教員に向けた指導要領の解説書です。
「心身に特別な異常をもつ子孫の出生を防止し、母性の生命や健康を保護することを目的とした優生保護法に触れる」
過去の一時期、この法律を生徒たちに触れさせるよう、教員たちに求めていました。このような記述は1970年代後半まで続きました。
障害のある人は子供を産んではいけないー。そういった差別を国が推し進めていったのです。
■“不妊手術”から50年…国との闘いは今も 立ちはだかる「除斥期間」という壁
「子供ができないのは国が作った法律のせいだった」と、そのことを知った2人は、3年前、国に対して損害賠償を求める訴えを起こしました。しかし、2人の前に立ちはだかったのは、“除斥期間”という壁でした。
除斥期間とは『損害賠償を求める権利は不法行為から20年で消滅する』ということで、つまり、2人には「もう訴える権利がない」と国が主張してきたのです。
大阪地裁は、判決で「旧優生保護法を憲法違反」と認めたものの、この“除斥期間”の規定を適用して、野村さん夫婦の訴えを退けました。
だが、2人は「子供が作れなかった悲しさは今も消えていません。それを一律に20年過ぎたからといって損害賠償請求が棄却されるのは納得できません」と控訴しました。
国を訴える権利は守られるのか―。
■最高裁の決定まで待てない…被害者の高齢化 代理人「全面解決、早期解決を」
ことし2月、大阪高裁は、「除斥期間をそのまま認めることは著しく正義・公平に反する」として、一審の判決を取り消し、全国で初めて国の賠償責任を認める判決を言い渡しました。しかし、国はこの判決を不服として最高裁に上告。
2人は、まだ戦いを終わらせることができません。
【夫・野村太朗さん(仮名)】※手話
「結局、判決は出たがなかなか解決というところまではいっていないし、最初は早く終わるものだと思っていたけど今もこれだけ時間がかかっているのでおかしいなと思う」
2人の代理人弁護士は、被害にあった人々の高齢化を指摘します。
【代理人 辻川圭乃弁護士】
「何よりも原告の方たち、全国で25人の方が今まで訴えたんですけど、そのうち5人が亡くなられてる。5分の1です。みんな高齢なので最高裁の決定まで待ってられない。早急に全面解決、早期解決をやるべき」
■“聞こえない人にも誇りはある” 子供と過ごす未来を奪われた夫婦 「勝つまで頑張る」
花子さん(仮名)が仏壇に手を合わせています。手術を受けてからおよそ50年。子供と過ごす未来を奪われた2人の悲しみは消えていません。
【妻・野村花子さん(仮名)】※手話
「子供を持っている人を見ると、楽しそうな様子を見てうらやましいなと思います。ほかに子供を産んだ人をみるととてもうらやましい気持ちになります。子供と一緒に楽しそうな姿を見るととても寂しい」
【夫・野村太朗さん(仮名)】※手話
「赤ちゃんが産めなかったのは耳が聞こえないせいなのか。でも聞こえない人にも誇りはある。聞こえない人への差別があったのはなぜなのか。(裁判をしているのは)そういった不満を訴えるためです」
【妻・野村花子さん(仮名)】※手話
「負けずに頑張って、ほかの被害者と一緒に頑張って、とにかく勝つまで頑張りたいと思っています」
「ねぇそうでしょ、頑張るでしょ」と気持ちを奮いたたせるかのように手話で話しかける妻。
子供が欲しかった―。国の強制不妊治療から50年たっても、その思いを“今”も抱えて生きています。
(2022年9月20日放送)