西成・こども食堂の新たな挑戦! 12年間感じたある限界 『子どもたちでなく背後にある家族も含め“つながり”つくりたい』と運営者の思い クラファンなどで5000万募り…「にしなり★つながりの家」オープン! 笑顔取り戻した1組の親子も 2022年09月29日
大阪市西成区で「こども食堂」を運営するNPOが、子どもだけではなく、地域の人たちみんなが「つながる」ことのできる新たな施設をオープンしました。
運営者の思いと、ここで新たな人生をスタートさせた1組の親子を取材しました。
■子どもたちに食事の楽しさを…市営住宅の一室で「こども食堂」
ある住宅の1室に子どもたちがたくさん訪れています。
【子ども】
「ごはんできましたかー?」
【NPO法人 西成チャイルド・ケア・センター 川辺康子代表】
「まだですね」
【子ども】
「えー」
【NPO法人 西成チャイルド・ケア・センター 川辺康子代表】
「5時半からやんね」
大阪市西成区の市営住宅の一室にある「にしなり☆こども食堂」。
NPO法人「西成チャイルド・ケア・センター」が、毎週月・火に無料の夕食を振る舞っています。食材のほとんどは、企業や個人から寄付されたものです。
机に並べられた美味しそうな数々の料理。バイキング形式のように、子どもたちがお皿に好きな料理を取っていきます。
【NPO法人 西成チャイルド・ケア・センター 川辺康子代表】
「エビしか入ってへん。ほな、このシラスとか食べて」
【子ども】
「シラスいやや」
【NPO法人 西成チャイルド・ケア・センター 川辺康子代表】
「うそやろ。ほな青いものありますけど」
盛り付けられたお皿を見てアドバイスするのは、NPO法人の代表、川辺康子さん(56)。
普段は、コンビニ弁当やカップ麺で夕食を済ませることも少なくない子どもたちに食事の楽しさを知ってもらおうと、毎回7、8種類の総菜を揃えています。
【NPO法人 西成チャイルド・ケア・センター 川辺康子代表】
「最初はソーセージ1本取ってご飯取って、それだけ。どれぐらいで自分のお腹が一杯になるのか分からないっていう感じはあるかな。でもだんだん慣れてくると、ほどよくバランスよく取ったりしますけどもね」
–Q:「食育」のような場にもなっている?
【NPO法人 西成チャイルド・ケア・センター 川辺康子代表】
「うーん、なっていてくれたらいいんですけどね。でも、茶色いメニューのときの方がめっちゃ食べるね」
【ボランティア】
「ご飯足らんようなる」
川辺さんの食堂に来る子どもたちは、9割がひとり親家庭です。
親子で訪れる人も少なくありません。
–Q:いつから利用?
【食堂に通う母親】
「5年前ぐらい。毎日の献立考えるの(食堂が週に)2日、月・火あるんで、その分助かります」
–Q:ここのご飯どう?
【娘】
「おいしい」
■「子ども愛してるけど何してしまうか怖い」と…川辺さんを頼った1組の親子
哺乳瓶にお湯を注いで、川辺さんがある親子に持っていきました。
【NPO法人 西成チャイルド・ケア・センター 川辺康子代表】
「ちょっとまだ温かいかな…」
【山口美花さん(20)】
「ありがとうございます」
この日、生後5カ月の長男を連れて、初めて食堂を訪れた山口美花さん。両親を亡くし、中学生から東京の施設で育ちました。
子どもの父親とは、出産のことを告げないまま別れたといいます。産後頼れる人がおらず、地元のNPOから紹介された川辺さんの元を訪れました。
【山口美花さん】
「(子どもの名前は)蒼くんです。出産に対して準備がうまくできていなかったので、子育てに対しての不安とか、うまくいかないことが多々出てきてしまって(子どもに)何をしてしまうか分からない。そのときが怖かったので、わらにもすがる思いで」
【NPO法人 西成チャイルド・ケア・センター 川辺康子代表】
「子どもたちともそうだけど、色んな人との出会いって偶然じゃなく、その時出会うべくして出会ってるんだなって思うので。(美花さんは)自分で関わっていかないといけない子なんやなって。自分(美花さん)が子どもといて楽しいなら、しんどいこともあるけど、頑張っていけると思えたらいい」
■子ども食堂の12年間 感じた“限界”
川辺さんが、利用し終わった後に、帰る親子に何かを渡しています。
【NPO法人 西成チャイルド・ケア・センター 川辺康子代表】
「これ、おかずと(米)。また明日ねー」
川辺さんが仕事で子どもたちと接する中で、イライラする子どもたちの様子が気になり、“おなかを空かせているのでは”ないかと、食事の提供を始めたのが「にしなり☆こども食堂」の始まりです。
それから12年―。
週に2度の食事は、集まる人たちの「つながり」をつくり、それぞれの「居場所」となっています。
しかし、限界も…
【NPO法人 西成チャイルド・ケア・センター 川辺康子代表】
「食堂に来たから家の様子が変わるかって言ったらそうじゃないので、子どもたちを支える中でやらないといけないことは、子どもたちの後ろにいる家族、家庭を支えることが大事なんじゃないかなって思ってます。それはまだできていないから、これからやっていきたい」
■大人たちもつながれる新しい居場所を 長年の夢動き出す
子どもだけではなく、家庭丸ごと、さらには地域の人たちみんなが「つながる」ことのできる居場所をつくろうと、川辺さんが、動き出しました。
【NPO法人 西成チャイルド・ケア・センター 川辺康子代表】
「ドキドキするわ。長年の夢が…」
使われていない近所の古い集会所を改修し、「こども食堂」だけでなく「子育てサロン」「識字教室」まで展開する地域の交流施設をオープンすることにしたのです。
改修費は、およそ5000万円。クラウドファンディングなどの寄付で募りました。
【NPO法人 西成チャイルド・ケア・センター 川辺康子代表】
「(今の食堂の)3倍ぐらいは大きくなってるんで。広場的なのがあって、子どもら遊んでるんちゃうかなと。あとは、ここを自動ドアに。『入ろうかな、どうしようかな』と悩んでる人が前にいたら勝手に開くじゃないですか。開いたら入る、次もまた開く。入るハードルがちょっと下がるんじゃないかなと。ふらっと寄って、(大人も)相談ができる、誰かがいて話せるような場所にしたいなと」
一方、川辺さんの元にきて1カ月ほどが経った山口さん親子。美花さんは、飲食店でのパートの仕事が決まりました。
美花さんが子どもに「あーん、おいち?」と離乳食をあげています。
【山口美花さん】
「最初の離乳食は全部手作りしようとして失敗して。川辺さんに『そういうの(既製品のベビーフード)いいのいっぱい出てるんだから、活用しなよ』って言われて。『お母さんとしてどうなんだろう』って周りから見られるんじゃないかなと不安とかあったけど、すごい救われました」
川辺さんの元に来てから、少しずつ美花さんに笑顔が増えてきました。
【NPO法人 西成チャイルド・ケア・センター 川辺康子代表】
「ママ大好きやもんな」
【山口美花さん】
「嬉しいような」
【NPO法人 西成チャイルド・ケア・センター 川辺康子代表】
「誰にでも行ってくれよって思うよね」
【山口美花さん】
「最近極端にそれが出てきちゃって」
【NPO法人 西成チャイルド・ケア・センター 川辺康子代表】
「でもママっていうのは本当に短い間よ。男の子だし。そのうち大きくなったら突然ぶつかってくるわ。ドンって。男子あるある」
【山口美花さん】
「急に『クソババア』とか言ってきたらどうしよう」
【NPO法人 西成チャイルド・ケア・センター 川辺康子代表】
「まだ『ママ』も言うてへんな」
川辺さんの思いが詰まった新しい施設の工事も、着々と進んでいます。
【NPO法人 西成チャイルド・ケア・センター 川辺康子代表】
「業務用の(コンロ)焼くのも早い。3口やこれ。調理器具が入ったらいよいよやなと」
■ついに「にしなり★つながりの家」オープン! 子どもも大人も笑顔あふれる居場所へと
9月18日、いよいよ、オープンの日を迎えました。新しい施設の名前は「にしなり★つながりの家」。
36畳もある大広間に、子たちは大はしゃぎ。中庭でサッカーをする子に、縁側で将棋をする子。子育ての話しをする母親同士も。
狭かった住宅の時とは違い、大人も子どもも気兼ねせずに過ごせそうです。
–Q:新しくなってどう?
【子どもたち】
「広い!」
「広いし、みんなが遊べていいと思う」
オープンの日に、初めて来たという親子も…
【初めて来た母親】
「家もめっちゃすてきやし、いっぱい考えてつくられた家なんやなって思って。また遊びに来ようと思います」
来たばかりのころは、1人スマートフォンを眺めることも多かった美花さん。今では、様々な年代の友達ができたようです。
【山口美花さん】
「川辺さんを通して色んな人とつながれるようになったのが自分の一番収穫っていったらいいんですかね。どんなに自分の子どもを愛していても苦しい時って出てくると思う。そういう時に(この家が)一息つける落ち着ける場所になってくれたらいいなと」
終了の時間が近づいても、後ろ髪引かれる子どもたち…
【NPO法人 西成チャイルド・ケア・センター 川辺康子代表】
「玄関広いから2人で寝てもまだ余裕やな」
【子ども】
「次いつ?」
【NPO法人 西成チャイルド・ケア・センター 川辺康子代表】
「次の月曜日」
【子ども】
「あした?」
【NPO法人 西成チャイルド・ケア・センター 川辺康子代表】
「あしたはちょっと…」
【子ども】
「え、月曜?」
子どもからお年寄りまで、地域の人たちをつなぐ「にしなり★つながりの家」。
これから、どんな出会いが待っているのでしょうかー。
(2022年9月27日)