“性的な目”で盗撮 女性アスリートの苦悩と葛藤 それでも伝えたい競技の魅力 SNSなどに出回る画像 身近な習い事にも影響が 若い競技者のためにできることとは 2022年09月30日
懸命に競技に励む選手を、性的な目的で撮影する「アスリート盗撮」。
トップアスリートの葛藤を取材しました。そして対策の最前線とは?
■選手の盗撮防げ! 警察は競技場で地道なパトロール
8月24日に京都で開かれた、高校生の陸上競技大会。会場周辺には私服警官の姿が。“盗撮犯”を検挙するチームです。
–Q:ぐるぐるまわっている?
【右京警察署 生活安全課 田土義之課長】
「不審な動きするやつがいないか、止まっていても発見できないので。職務質問して、カメラ見て画像あっても、『この画像っていつ撮ったの?』って分からないと。『違います。ネットからダウンロードしただけ』と抗弁するやつがいるので、撮っているところを抑えるのが一番固い」
検挙が難しいのか…インターネット上には、盗撮したとみられる“性的”な女性アスリートの画像があふれています。
2021年8月、京都府警の捜査員が、フェンス越しに女子選手の下半身を盗撮していた40代男性を見つけました。
競技が終わって、選手が座りこんだ所などを撮っていました。
【右京警察署 生活安全課 田土義之課長】
「ここからデジカメを構えて、鉄柵の隙間からデジカメを最大望遠にして撮っていた」
その後の捜査で、男性は迷惑防止条例違反の容疑で書類送検され、罰金30万円の略式命令となりました。
男性は「お尻に興味があった」と供述し、近畿地方などの大会で盗撮を繰り返していました。
この大会では、コロナ対策として、選手の家族や関係者のみにパスが配布されていて一般の人は競技場に入ることはできません。
この日、競技場で捜査員が “気になる男性”を見つけました。
【捜査員】
「あやしいですね、まぎらわしい。監督とかなら中に入れるはずだから」
【右京警察署 生活安全課 田土義之課長】
「サブグラウンドの入口の所。横にベンチあって、そこに座っている。ちょっとどうかな…選手の関係者でもなさそうだし、親御さんでもなさそうで。ず~っと座って、見ているので。見ているだけでまだ分からない」
30分以上、ベンチからグラウンドを眺めている男性。
捜査員たちは職務質問をすることに…
【捜査員】
「すみません、京都府警なんです。大会の関係者の方ですか?」
【グラウンドを見ていた男性】
「いえ」
【捜査員】
「みんなに声かけているので大変申し訳ないです。息子さんが出てはるんですか?」
【グラウンドを見ていた男性】
「娘が」
娘に内緒で、大会を見に来ていた父親でした。念のため携帯の写真フォルダを確認して職務質問を終えました。
【右京警察署 生活安全課 田土義之課長】
「今後、コロナが収束して、有観客の競技になったら、盗撮目的の者も競技場に入ってくるので。そういった人と、善良な人との見極めが難しくなると思う」
■“性的な目線”の盗撮 標的にされやすいレオタード 女性アスリートの葛藤
トップアスリートは、盗撮などの被害とどう向き合ってきたのでしょうか。
2大会連続でオリンピックに出場し、東京では体操女子団体で5位入賞を果たした、杉原愛子さん。
注目されるがゆえの“性的な目線”との葛藤を話してくれました。
【五輪2大会連続出場 杉原愛子さん】
「やっぱりそういう嫌な目線とかで見られることに対しては、やっぱり嫌ですし。かといって、それを発信しても『それはしょうがないだろう』っていうコメントとかもたくさんいただいているので。気にしないようにやってました。やっぱり気にしちゃうと、どうしてもメンタル部分が弱ってしまうというか、ダメージがあるので。私が伝えたいのは体操の魅力とか楽しさ。体操を見て欲しいから。ポジティブに捉える形でやっていました」
開脚の演技やユニフォームの形から、標的とされやすかった体操競技。そんな中、2021年の東京オリンピックで、ドイツ代表が着用して話題となったのが「ユニタード」。足首まで覆うため、被害を防止できる一面もあります。
【杉原愛子さん】
「(ユニタードは)すごい面白い発想だなと感じていました。『レオタードじゃなくてもいいんじゃない』っていう意見も聞いたりもあって。『普通の服でやればいいやん』みたいなコメントとかもすごい見たことがあって。私は普通のレオタードの方が好きなので、私はそっち(レオタード)を選ぶんですけど。生地があったら、滑りやすくなって不安があるから。もし、抱え込みダブルとかいう技をしていた時に外れた時とか、空中分解して、危ない落ち方になるんじゃないかなとか、そういう不安は見ていて思いました」
盗撮被害を避けるために、アスリート側が変化を強いられるのはおかしいと杉原さんは考えています。
【杉原愛子さん】
「いろんな意見があるから難しいんですけど、やっている側としては審美系だからこそ、身体のラインをきちんと見せて、体操の美しさとか魅力を伝える一部でもあるので。(レオタード着用を)否定はしてほしくないなとは感じたことがあります」
■身近な習い事にも影響 子どもを盗撮被害から守るため…保護者による撮影一切禁止
盗撮や“性的な目線”の被害に遭わないための対策は、身近な習い事にも及んでいます。
大阪・高槻市のスイミングスクールでは、7月から保護者による撮影を一切禁止することにしました。
そのきっかけには、SNS上での“ある出来事”がありました。
【高槻スイミングスクール コーチ】
「SNSで『高槻スイミング』って検索したらこういう画像が出てきた。女の子のイラストに当スクールの指定水着が描かれている。『高槻スイミングスクールの指定水着です』と、ツイートにプラスして書かれていた」
スクール独自の指定水着を着た女の子のイラストが許可なく、SNS上にアップされていたのです。
【高槻スイミングスクール コーチ】
「びっくりしました。こんなものが出回っているんだと。正直驚きしかない。気持ち悪いと正直思いました。こう見られてしまっている現実があるので、それを防ぐには、撮影の禁止等が一番できるのかと思う」
館内での撮影を禁止した代わりに、プロのカメラマンにレッスンを撮影してもらい、希望者には写真を販売する予定です。
【スイミングスクールの保護者】
「プライバシーの問題で仕方ないと思うのですが、普段、私は見に来られるが主人とか見に来れない。その都度の写真、動画が見せられないのがちょっと残念。色々な方がいるので、どうしようもないと思う」
ことし6月の大会で、現役生活に「一区切り」をつけた杉原さんが、後輩アスリートのために思うこととは…
【杉原愛子さん】
「年齢が上がるにつれてすごい気になり始めることがあったので。やっぱり今の女性アスリートが、将来のジュニア世代のアスリートがきちんと自分の大好きな競技を専念できるような環境を作っていくことが、いま大切なんじゃないかなと思って、取材を受けています」
懸命に競技に励んでいる女性アスリートを悩ませている“性的目線”の盗撮。スイミングスクールなど身近な習い事にも影響を及ぼしています。
(2022年9月28日放送)